高齢者フィジカルのピットフォールその1
はじめに
高齢者の身体は単に成人の延長としてとらえると思わぬピットフォールに陥ることがあり、その特有の身体的特徴を理解したうえで身体診察を行う必要がある。また一般に、高齢者の身体診察では多くの有意な所見(陽性所見)を認めることが多く、高齢者の身体診察は豊富な臨床情報が得られる貴重な機会であるといえる。
全身状態の観察
診察室へ入ってくる高齢者の移動の手段とその様子を注意深く観察する。1人で来院したのか、単独で歩行しているか、杖を使用しているか、付き添いと一緒か、車イスあるいはストレッチャーで入室してくるか、などを観察することにより、ある程度の日常生活活動度activity of daily living (ADL)が把握できることが多い。
ADLは基本的日常生活活動度basic ADLと道具的日常生活活動度instrumental ADLに分けられるが、instrumental ADLを満足に行うことができる場合、basic ADLも十分に可能であることが多い。「1人で来院した」という高齢者を診察する場合には、どのようにして病院に来たのかを尋ねるとよい。その高齢者が単独でバスに乗ってきたという場合、basic ADL もinstrumental ADLもほぼ十分であるといえる。しかしながら、1人で来院した患者であっても必ず歩行の様子を観察し、歩行障害がないかどうかチェックし、あればその原因を必ず確認する。
杖を使用している場合には、脳血管障害後遺症か膝関節炎osteoarthritis (OA)による歩行障害を有することが多い。施設職員が付き添いとなってストレッチャーで診察室へ入室してきた場合、寝たきりbedriddenであることが多く、その場合には寝たきりの原因は何かを必ずチェックする。脳血管障害後遺症、認知症、大腿骨頚部骨折、パーキンソン症候群などが主要な原因である。
basic ADLのうち、食事摂取の方法(独力摂取、介助による摂取、経鼻経管栄養、胃瘻経管栄養など)と排泄の方法(独力、おむつ、間歇的導尿、尿道カテーテル留置、膀胱瘻など)はかならず確認する。経管栄養と尿道カテーテル留置はそれぞれ誤嚥性肺炎と尿路感染症の危険因子である。おむつを使用している場合は尿失禁があることを示している。
次に表情を観察する。表情に乏しい患者の場合、認知症やうつ病、パーキンソン症候群などを有する場合が多い。認知症の有無をみる場合には、長谷川式認知症尺度またはミニメンタルテストを行う。このとき、せん妄deliriumがあると認知症でなくても、スコアが低下するので、認知症と間違うことがあり注意を要する。
栄養状態の観察も重要である。低栄養の有無は、血清アルブミン値などをみるまでもなく、三角筋や上腕三頭筋、大腿四頭筋などを触診して「筋肉の厚み」を感じることで容易に知ることができる。逆に、血清アルブミン値は慢性炎症や肝疾患、腎疾患などで低値をとることが多く、純粋な栄養状態の評価に使用してはならない。上記筋群を軽く指でタップしたあとその局所の筋肉が一時的に腫脹する所見をmyoedemaとよび、低栄養を示唆する。ただし、甲状腺機能低下症でもmyoedemaを認めることがある。
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徳田安春 | |
医学書院 |
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