高齢者フィジカルのピットフォールその2
脱水の評価
救急室へ来院した高齢者では、脱水の有無をつねにチェックするようにする。
高齢者の総体内水分量は成人に比べてその割合は低く、口渇中枢の機能も低下しており、容易に脱水となりやすい。
体位性低血圧、眼のくぼみ(ヒポクラテス顔貌)、口腔粘膜の乾燥、舌表面の縦走するしわ、皮膚のツルゴール、毛細血管血流回復時間延長、腋窩の湿潤状態axillary sweat、そして静脈圧の低下を調べる。
実際には、これらの所見のうち数種類を組み合わせて、病歴の情報も加え、総合的に評価する。
毛細血管血流回復時間capillary refill timeの測定では、患者の爪を爪床が白くなるまで圧迫しておき、圧迫を除いてから毛細血管血流が回復して爪床のピンク色が戻るまでの時間を計測する。
この時間が高齢者で5秒以上の場合、500 mlの循環血液量の減少を示唆する。
循環血液量の変化を鋭敏かつリアルタイムに評価するものとして、「静脈圧」が有用である。
内頸静脈の拍動最高点の高さ、すなわち頸静脈圧jugular venous pressure (JVP)は、静脈圧を反映する。
実際には、JVPは通常右側の内頸静脈で評価されるが、内頸静脈は胸鎖乳突筋の下を走行し直視することができないので、注意深く頸動脈圧拍動と区別しつつ、体表皮膚に伝播される頸静脈拍動を同定する。
もし内頸静脈拍動を同定できなければ、直視可能な外頸静脈で代用できるが信頼性は落ちる。
内頸静脈の拍動最高点の高さ、すなわちJVPは、胸骨角からの垂直距離で計測される。
患者の体位に関係無くつねに,胸骨角は右心房より約5 cm垂直上方にあり、胸骨角から計測した静脈圧の高さ(垂直距離)は患者の体位によらず一定であり、JVPが胸骨角より垂直距離で0 cm以下であれば、循環血液量は減少していることを示唆する。
このとき外頸静脈は仰臥位でも虚脱していることが多い。
起立性低血圧は、臥位から立位(または座位)で血圧が低下することを指す。
体位変換後3分以内に収縮期血圧が20 mmHgを超える低下または拡張期血圧の10 mmHgを超える低下は、約1リットルの循環血液量の減少を示唆する。
心拍数が20/分を超える増加をみた場合にも陽性とするが、この場合にはベータ遮断剤などの心拍を抑制するような薬剤の内服歴がないかどうか注意する。
起立性低血圧は、循環血液量の減少が無くても、降圧剤内服、自律神経疾患、長期臥床(寝たきりも含む)などでもみられることがあり、脱水の評価には他の所見も合わせて評価する。
![]() |
Dr.徳田の診断推論講座 |
徳田安春 | |
日本医事新報社 |
徳田安春、荘子万能の「徳田闘魂道場へようこそ」こちらポッドキャストにて配信中、是非お聴き下さい。
テレビや新聞より早いグローバルな情報や科学的に正確なエビデンスに基づき、サプリなどの宣伝なしの信頼性の高い中立な情報をお届けします。キンドル版「知っておくと役に立つ最新医学2016パート2(ノンフィクション)」こちらいかがでしょうか。
科学的根拠に基づく最新医学情報とグローバル・スケールでの先端医学のホットな話題を提供し、わかりやすく解説します。メルマガ「ドクター徳田安春の最新健康医学」こちらいかがでしょうか。
臨床推論の総論とピットフォールをマンガでサクッと1時間以内に習得できます。エキスパート診断医への一歩を踏み出すことができます。「マンガ臨床推論~めざせスーパージェネラリスト~」こちらも合わせていかがでしょうか。