今回は症例集を取り上げたいと思います、そのピットフォールを考えていきましょう。
例18 65歳女性 主訴:左半身の脱力と構音障害 数年前より高血圧を指摘されるも治療せず放置。 今回買い物中に突然、左半身脱力を自覚し、救急車にて搬送。 救命士によると、左半身運動麻痺と構音障害あり、とのこと。
バイタルサイン:血圧90/60、脈90/分、呼吸18/分、体温36,3度。 身体所見上、顔面を含む左半身筋力低下があり。 緊急で撮影されたCT所見あり、右大脳半球領域における急性期脳梗塞との診断となった。
・ピットフォール 担当医は、脳外科オンコールに相談して緊急血栓溶解療法の準備を開始した。
・その後の経過と解説 指導医により、四肢の脈拍の触診と上肢の血圧の左右差がチェックされた。 右上腕血圧90/60mmHg、左上腕血圧170/100mmHg、「脳梗塞のみにショックなし」というクリニカルパールがある。
このような患者では、脳梗塞以外の他の要因も考慮しなければならない。 脳梗塞急性期患者では、血圧が140/90以上となる場合がほとんどである。 それ未満であれば、むしろ他の疾患の合併も考えるべきである。 心臓血管系の急性病態では、「対称性の破れ」がないかどうか、四肢の脈拍を触知する。 脳梗塞患者は全例で血圧の左右差をチェックすべきである。 急性大動脈解離が原因となって脳梗塞をきたすことがある。
再度、詳しい問診によって、脱力感を自覚する前に激しい背部痛もあったことが判明した。 さっそく、胸部造影CTで、急性大動脈解離(スタンフォードA型)と診断され、緊急で手術が施行された。
・最終診断 急性大動脈解離スタンフォードA型(上行大動脈より解離)
今回は以上です、では、次回に。