今日のことあれこれと・・・

記念日や行事・歴史・人物など気の向くままに書いているだけですので、内容についての批難、中傷だけはご容赦ください。

俳優・緒方拳(映画「楢山節考など)の忌日

2010-10-05 | 人物
今日・10月5日は、日本を代表する名優として数多くの舞台・テレビ・映画などに出演し日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を5回受賞する他、数々の賞を受賞している緒方拳(おがた けん)の2008年の忌日である。
代表作に、NHK大河ドラマの「太閤記」「必殺仕掛人」などや映画の「楢山節考(1983)、「火宅の人」(1986)などがある。
緒方拳、本名:緒形 明伸(おがた あきのぶ)は1937(昭和12)年、東京生まれ。東京の高等学校卒業後、1958(昭和33)年に辰巳柳太郎に憧れて新国劇に入団し、辰巳の付き人となった。
芸名の緒形拳は歌舞伎、新派、新国劇などに数多くの脚本を提供し、演劇界の大御所と言われた劇作家・北条秀司の夫人によってつけられたもので、元々は「おがた こぶし」という読みであったという。なんでも、「お前の特徴は何だ」と聞かれて、とっさに「うーん、手かなあ」と答えたことから手に関連するあらゆる単語の中からこの名が選ばれたそうだが、周囲の誰からも「こぶし」と読まれず、「ケンさん、ケンさん」と呼ばれ続けた為に、この呼び方が定着したというが、たしかに、この呼び名の方が親しみがあっていいよね~。
下積みの彼の才能を評価し抜擢してくれたのは師匠の辰巳ではなく、新国劇のもうひとりの雄・島田正吾の方であった。
1960(昭和35)年、新国劇で上演された菊島隆三の原作を映画化した「遠い一つの道」でボクサー役に抜擢され、島田と競演し銀幕にデビューを果たした(緒方の出演映画のことは以下参考に記載の※1:「緒形拳 - goo 映画」を参照)。
1965(昭和40)年、NHK大河ドラマ「太閤記」の主役・豊臣秀吉に抜擢され、お茶の間の人気を独占。翌1966(昭和41)年にも、同大河ドラマ史上最年少での尾上菊之助主演による「源義経」に続けて起用され、主君義経を必死で守りぬく武蔵坊弁慶役を演じ、最期は義経を守るために仁王立ちのまま絶命。義経に「死んでもなお、我を守るか!」・・・と言われる。
以下では、太閤記より12年目の1977(昭和52)年「大河ドラマの十五年」という番組での「太閤記」で競演した緒方と石坂浩二との対談と、ドラマラストでの緒方の凄まじい形相をした「弁慶立ち往生」のシーンが見れる。
YouTube-緒形拳
若かりし頃の二人の対談が良いが、特に笑顔で冗談話をしている緒方に役者として演じている緒方とは違った意外にひょうきんで明るい面を感じられた人も多いのではないか。
又、テレビで忘れてはならないのが、1972(昭和47)年9月2日から翌年4月14日にかけて毎週土曜日にTBS系列(現在とネットワーク編成が異なる)で放映されたテレビドラマ「必殺仕掛人」である。池波正太郎の小説『仕掛人・藤枝梅安』シリーズを原作とするもの。「明るく陽気な町医者(鍼灸医・藤枝梅安)として江戸の庶民たちに慕われるが、裏に回れば凄腕の仕掛人」という、時代劇史上類を見ない、画期的なキャラクターを好演した。
緒方の出演した「必殺仕事人」のチーフプロデューサーだった山内久司氏は、緒方について、「必殺シリーズ第1弾の主演であり、過去のテレビには存在しなかった現代感覚を定着させた。俳優として、その後、登場した藤田まことが必殺シリーズの「育ての親」とすれば、緒方は「生みの親」。演技に大変な工夫をする人で、仕掛人の梅安が針で人を刺すとき、指先を切った手袋をはめたが、あの小道具も彼の考案によるものだという。大ヒットしたため、緒方で、シリーズ化を考えたが、彼自身がほかの役をやりたい・・・といったので実現しなかったのが残念と語っていた。
映画に進出するや野村芳太郎今村昌平らの名監督の作品で活躍するが、映画で最初に高く評価されたのが、松本清張の同名小説を野村芳太郎監督が映画化した「鬼畜」(1978年)であった。ある日愛人に生ませていた3人の隠し子を、突然押し付けられ彼女は失踪してしまう。気弱な男は動転して親とは思えない行動をとり・・・次々捨てていくことに・・・。この役でキネマ旬報主演男優賞を受賞した。
又、1975(昭和50)年下期の直木賞を受賞した佐木隆三の小説を今村昌平が映画化した「復讐するは我にあり」(1979年)は、敬虔なクリスチャンでありながら次々と5人の人間を殺害した連続殺人犯を描いたものである。佐木の小説は実際にあった西口彰事件を題材にした作品であり、その主人公が殺人を犯す極めて不条理な心理状況を描写している。
映画評論家の佐藤忠男氏は、緒方死去の際の新聞(2008・10・7朝日)紙上で緒方について、「役者としての資質が最も出た作品だった」「何かとことんまでやってしまう・・・エキセントリック(性格などが風変わりなさま。奇矯〔ききょう〕なさま)な人間像は、戦後日本人の持つ熱さを象徴している、役者としてのスケールが映画で生きている。」と評していた。
深沢七郎が中央公論新人賞を受賞した小説『楢山節考』(ならやまぶしこう)は、姨捨山(うばすてやま)伝説をベースに、信州の寒村に住む人々を描いたものである。
1958(昭和33)年に、木下惠介監督により、映画化されていたものを、1983(昭和58)年に今村昌平監督が2度目の映画化をし、見事、日本人では初めてカンヌ国際映画祭にて2度目の最高賞(パルム・ドール)を受賞したが、緒方も老母を山に捨てる息子役(冒頭向かって左の画像は、老母役の坂本スミ子を背負う緒方)で鬼気迫る演技を見せ、日本アカデミー賞などの演技賞を独占した。
ちょっと面白いのが、一倉治雄監督の映画「国会へゆこう!」(1993年5月1日公開。)である。 冒頭向かって右のものは、同映画のチラシである。
実際の政治とその裏側をコミカルに暴き出しながら理想の政治改革をめざして奮闘する保守党代議士(緒方拳)と若き議員秘書(吉田栄作)の姿を描いた政治コメディである。
若き議員秘書(吉田栄作)が見聞きするのは、遷都をめぐる汚職疑惑、どろどろした派閥闘争、平然と行なわれる闇献金・・・。緒形は「片手で賄賂を握りながら、片手で政治改革法案を書く」といったやり手政治家を見事な演技でこなしている。
私は、時代劇が好きなので、時代劇を演じている緒形が好きだが、このようなコメディーでもいい味を出す。本当に良い役者だったよな~。
この映画公開時の興行成績はイマイチだったようだが、映画の最後では、緒形演ずる保守党代議士が新党結成を決断するが、映画公開の前年には日本新党が結成され、同年7月の第16回参院選では政治改革の流れの中で無党派層の支持を獲得し、55年体制崩壊をもたらした「新党ブーム」のいわば火付け役となっていた。
又、自民党内最大派閥・経世会の会長・金丸信が5億円のヤミ献金発覚(東京佐川急便事件)で起訴され、世論の強い反発で議員辞職(10月)した後、竹下派七奉行による激烈な主導権争いが繰り広げられ、党内最大派閥が完全に分裂。
映画公開後に、羽田孜小沢一郎らによる自民党離党・新生党結成(6月)騒動が起き、この映画のストーリーが現実のものとなってしまった・・・ことなど、まさにタイムリーな話題を提供した映画だった。
新生党は7月18日の第40回衆議院議員総選挙で、55議席を獲得。自民党が過半数割れとなり、8月9日、非自民・非共産8党派による細川護煕内閣を発足させている。 
尚、戦後わが国では、巨大化した首都東京の過密問題や、国土全体の地域格差是正等の諸問題に関し、有力な対応策として、国会・政府機関等の移転、あるいは東京の大規模な都市改造がたびたび論議の的となり、さまざまな提案がなされてきたが1990(平成2)年11月7日には、「国会等の移転に関する決議」が衆・参両院において決議されている(以下参考に記載の※2:「国土交通省:国会等の移転に関する移転ホームページ」参照)が・・・この問題は、今どうなってしまっているんだろうか??
この映画、政治を扱ったコメディ映画であるが、当時の状況を想像しながら見るとなかなか面白い映画だよ。
緒方は、ひと所に安住せず、芸の道の挑戦を続けた。まるで旅人のような役者人生を送った。多くの作品に出演しているが、どの作品を観ても、完全に役になりきっており、主役ではないちょい役であっても彼の演技が目立ち、この人の内から滲み出ている雰囲気には、とても人間的な魅力を感じる。
映画で、スターとなった後も原点となった新国劇やテレビを大切にし、2006(平成18)年、新国劇の師・島田正吾晩年の代表作「白井弁十郎」(エドモンド・ロスタンの名作「シラノ・ド・ベルジュラック」を、幕末から明治中期までの日本を舞台に一人芝居の形式で翻案したもの)をアレンジした1人芝居「白野-シラノ-」を演じている。
又遺作となったのは、倉本聡脚本の連続テレビドラマ「風のガーデン」(フジテレビ系列)となった。
(左画像は、1983年公開の東映映画「楢山節考」の1シーン。2008年10月7日朝日新聞より。右画像は、1993年公開の東宝映画「国会へ行こう!」のチラシ。向かって左:緒方拳、右:吉田栄作)
※1:緒形拳 - goo 映画
http://movie.goo.ne.jp/cast/c86263/index.html
※2:国土交通省:国会等の移転に関する移転ホームページ
http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/iten/information/basic/b_02.html
緒形拳 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%92%E5%BD%A2%E6%8B%B3