アメリカ同時多発テロ事件にはショッキングな陰謀説がある。「ブッシュ政権は、アフガニスタンとイラクに対する戦争を正当化する目的で、事前に攻撃の事実を知っていたのに、その事実を隠蔽し放置した」とか、「『偽の旗作戦』(敵の攻撃を自作自演する作戦ーfalseflagattack)を企画し、それを9・11事件の世界貿易センターとペンタゴンの襲撃として実行した。」などである。現段階では、私には真実は分からない。しかし、同様にショッキングな事実が、「秘録 陸軍中野学校」畠山清行[著]保阪正康[編](新潮文庫)に書かれている。米国民の戦意を高揚させ、莫大な戦時予算を獲得し、戦争を有利に展開させるため、さらにまた、大統領選も有利に展開するため、日本軍の真珠湾奇襲計画を知りながら、その事実を隠蔽したというのである。「破れなかった紫暗号」と題された部分の一部を抜粋する。
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破れなかった紫暗号
太平洋戦争前に、日本の暗号が米国側に解読されていたことは、昭和31年の米議会で『その模造は絶対に不可能』とされていた日本海軍技術研究所製作の暗号機械を模造した、元米海軍諜報局日本班員(海軍大佐待遇)のウイリアム・F・フリードマンに、十万ドル(邦貨3600万円)の功労金を贈る議決がなされてから、米国でもほとんど公然の秘密となって、新聞、雑誌、ラジオにもたびたび紹介されたが、まだまだ暗号解読の疑問は完全に解けたわけではない。
というのは、議会の議決があって数日後、ニューヨーク・タイムス紙に掲載された元ニューヨーク暗号協会会長の、フリードマンに対する讃辞にしても、
『フリードマン氏は、日本のもっとも手ごわい暗号、いわゆる「紫暗号」の解読に貢献した。この暗号は、一年以上にわたって、陸海軍暗号解読メンバーを手こずらせていた。フリードマン氏は、その同僚とともに偉大な天才ぶりを発揮し、「紫暗号」を分析し、このような複雑な暗号をつくりだす機械の構造をみぬいた。そして、ひどく苦労したあげくに、日本の暗号とまったく同じ結果をもたらす装置をつくりあげた』
とあるだけで、どの暗号機をどんなふうにしてつくりあげたか、具体的な説明はなにもないからである。米国側では、解読したこの日本の暗号を、ただ単に、『紫暗号』あるいは『マジック(魔法)』と呼んでいるが、日本の暗号も、また暗号機械も、一種類や二種類ではなかった。
だいたい、暗号というものは、英、米、ソ、独、その他いずれの国をたずねても、硬度の強いものから弱いものまで幾種類かある。日本の陸海軍にしても同様で、航海中の艦と艦が連絡したり、前線で部隊同士が連絡する硬度の弱いものから、複雑な乱数の組み合わせの艦隊司令部や大本営との交信用のものまで、少なくとも6,7種類はあった。外務省の暗号にしてもその通り、政府と各国駐在大公使館の連絡用の硬度の高いものから、大公使館相互の連絡用、出先外交官が旅先から交信する、ごく弱いものまで入れれば、これまた相当な数となるのだ。暗号機にしても九一式、九七式一型、二型、三型機から、携帯用の小型機まである。
フリードマンの模造した機械が、何式の何型であるか。また解読した暗号も、数あるうちのどれであるか、米国側の公式発表がない限り(おそらく永久に発表はしないであろうが)正確にはわからない。しかし、ニューヨーク暗号協会会長の讃辞のごとく『紫暗号』であるとすれば、海軍用の『九七式一型』あるいは『二型』ではなく、外務省用の紫暗号『九七式三型』俗に『九七式欧文印字機』と呼ばれるものではないかと思える。この外務省用の『欧文印字機』だとすれば、ニューヨーク暗号協会会長のいう『日本のもっとも手ごわい暗号』は少々言葉がすぎていて同じ『紫暗号』でも、もっとも手ごわい暗号は、海軍の『九七式一型』及び『二型』だったのだ。
これは、いろはの仮名文字と、ローマ字のアルファベットの字数をくらべてもわかることで、外務省用三型のアルファベットは26文字。海軍用一型、二型の仮名文字の方は50字でできていた。文字数も約倍ある上に、電路が全く違う仕組みになっていたので、この世界的発明をなしとげた元海軍技術研究所の勅任技師田辺一雄氏も、
「暗号機は、たとえその現物が敵の手に渡っても、使い方がわからないように造ってなければ意味がない。外務省用のアルファベットの方はわかっても、仮名文字の方は、より複雑になっている。構造だけはわかっても、解読機械がなければ読めないから、海軍暗号は盗まれなかった筈だ。それは、アメリカ軍が進駐当時、しきりに統計を問題にしてしつっこくきいていたのをみてもわかるし、もし盗読していたならば、戦術上でも日本の裏をかいていい筈である。あんな、小沢艦隊に引き回されるようなへまはやらない筈だから、やはり盗読していたのは欧文の外務省暗号『九七式三型』だけだろう」
と語っている。結局、海軍暗号は、比較的硬度の弱い前線用のものだけが解読でき、もっとも、機密度の高い『紫』は最後まで米側にも解読できなかったというのが真実のようである。
(著者注略)
外務省暗号が、戦前すでに盗まれていたことは、当時の国務長官だったコーデル・ハルの、
『実のところわれわれは、日米関係が決裂するだいぶ前から、松岡洋右外相と野村吉三郎駐米大使の間で交換される電報の内容を知っていた。われわれの暗号専門家が、おどろくべき手腕ををみせて、日本の外交暗号電報を傍受解読していたからである。この解読情報はマジックと呼ばれ、日米交渉の最後の段階でおおきな役割を演じた』
という『回想録』の一節をみてもわかるし、アメリカ議会の『真珠湾調査合同委員会』の記録をみても明らかだ。この記録によれば、日本の外務省と駐米大使館の間で往復された、開戦までの重要電報の解読されたものは180~190通にのぼっている。これをみても、米国側でいう『紫暗号』とは外務省暗号で、『マジック』とは、この外務省暗号をも含めた日本側の暗号解読によって得たすべての情報をさしているものと思えるが、それではこの暗号が、どこで、どんな方法で盗まれたのかとなると、いまのところまだまったくわかっていない。
・・・
また1944年(昭和19年)の大統領選挙戦に、ルーズベルトの対抗馬として共和党からニューヨーク知事トーマス・デューイが出馬したとき、真珠湾の日本の奇襲を呼号して、米国民の戦意をかりたてたルーズベルトのもっとも恐れたのは、アメリカが開戦前、すでに日本の暗号を解読していた事実をばくろされることであった。それはルーズベルトが、わざと日本軍に攻撃させ、数千人の米市民を真珠湾で殺したことになり、選挙戦が不利になるばかりでなく、日本側がすぐ暗号を変更して、せっかく保っていた米側の優位をすてることになる。そこで、マーシャル参謀総長は、カーター・W・クラーク陸軍大佐を使いとして全国遊説中のデューイに対し、
『暗号解読の秘密を公表しないように』
と懇請の手紙を送っているが、その一節に、
『英国機関の援助によって、日本およびドイツの暗号解読に成功した』
とあり、さらに米側が九七式の模造に成功したとき、最初の一台を英国に贈った事実を思えば、おそらく欧州方面の大公使館で、わが暗号機の写真を盗みどりしたものが、英国機関の諜報部員だったのではないかとも考えられる。さらにまた、もう一歩つっこんだ想像が許されるならば、欧州方面の大公使館員の中に、英国人あるいは英諜報員の手先となっていた第三国人へ、暗号機械の秘密をもらしたものがいたのではないかということも考えられるのである。
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表があります。
一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。
青字および赤字が書名や抜粋部分です。「・・・」は、文の省略を示します。
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破れなかった紫暗号
太平洋戦争前に、日本の暗号が米国側に解読されていたことは、昭和31年の米議会で『その模造は絶対に不可能』とされていた日本海軍技術研究所製作の暗号機械を模造した、元米海軍諜報局日本班員(海軍大佐待遇)のウイリアム・F・フリードマンに、十万ドル(邦貨3600万円)の功労金を贈る議決がなされてから、米国でもほとんど公然の秘密となって、新聞、雑誌、ラジオにもたびたび紹介されたが、まだまだ暗号解読の疑問は完全に解けたわけではない。
というのは、議会の議決があって数日後、ニューヨーク・タイムス紙に掲載された元ニューヨーク暗号協会会長の、フリードマンに対する讃辞にしても、
『フリードマン氏は、日本のもっとも手ごわい暗号、いわゆる「紫暗号」の解読に貢献した。この暗号は、一年以上にわたって、陸海軍暗号解読メンバーを手こずらせていた。フリードマン氏は、その同僚とともに偉大な天才ぶりを発揮し、「紫暗号」を分析し、このような複雑な暗号をつくりだす機械の構造をみぬいた。そして、ひどく苦労したあげくに、日本の暗号とまったく同じ結果をもたらす装置をつくりあげた』
とあるだけで、どの暗号機をどんなふうにしてつくりあげたか、具体的な説明はなにもないからである。米国側では、解読したこの日本の暗号を、ただ単に、『紫暗号』あるいは『マジック(魔法)』と呼んでいるが、日本の暗号も、また暗号機械も、一種類や二種類ではなかった。
だいたい、暗号というものは、英、米、ソ、独、その他いずれの国をたずねても、硬度の強いものから弱いものまで幾種類かある。日本の陸海軍にしても同様で、航海中の艦と艦が連絡したり、前線で部隊同士が連絡する硬度の弱いものから、複雑な乱数の組み合わせの艦隊司令部や大本営との交信用のものまで、少なくとも6,7種類はあった。外務省の暗号にしてもその通り、政府と各国駐在大公使館の連絡用の硬度の高いものから、大公使館相互の連絡用、出先外交官が旅先から交信する、ごく弱いものまで入れれば、これまた相当な数となるのだ。暗号機にしても九一式、九七式一型、二型、三型機から、携帯用の小型機まである。
フリードマンの模造した機械が、何式の何型であるか。また解読した暗号も、数あるうちのどれであるか、米国側の公式発表がない限り(おそらく永久に発表はしないであろうが)正確にはわからない。しかし、ニューヨーク暗号協会会長の讃辞のごとく『紫暗号』であるとすれば、海軍用の『九七式一型』あるいは『二型』ではなく、外務省用の紫暗号『九七式三型』俗に『九七式欧文印字機』と呼ばれるものではないかと思える。この外務省用の『欧文印字機』だとすれば、ニューヨーク暗号協会会長のいう『日本のもっとも手ごわい暗号』は少々言葉がすぎていて同じ『紫暗号』でも、もっとも手ごわい暗号は、海軍の『九七式一型』及び『二型』だったのだ。
これは、いろはの仮名文字と、ローマ字のアルファベットの字数をくらべてもわかることで、外務省用三型のアルファベットは26文字。海軍用一型、二型の仮名文字の方は50字でできていた。文字数も約倍ある上に、電路が全く違う仕組みになっていたので、この世界的発明をなしとげた元海軍技術研究所の勅任技師田辺一雄氏も、
「暗号機は、たとえその現物が敵の手に渡っても、使い方がわからないように造ってなければ意味がない。外務省用のアルファベットの方はわかっても、仮名文字の方は、より複雑になっている。構造だけはわかっても、解読機械がなければ読めないから、海軍暗号は盗まれなかった筈だ。それは、アメリカ軍が進駐当時、しきりに統計を問題にしてしつっこくきいていたのをみてもわかるし、もし盗読していたならば、戦術上でも日本の裏をかいていい筈である。あんな、小沢艦隊に引き回されるようなへまはやらない筈だから、やはり盗読していたのは欧文の外務省暗号『九七式三型』だけだろう」
と語っている。結局、海軍暗号は、比較的硬度の弱い前線用のものだけが解読でき、もっとも、機密度の高い『紫』は最後まで米側にも解読できなかったというのが真実のようである。
(著者注略)
外務省暗号が、戦前すでに盗まれていたことは、当時の国務長官だったコーデル・ハルの、
『実のところわれわれは、日米関係が決裂するだいぶ前から、松岡洋右外相と野村吉三郎駐米大使の間で交換される電報の内容を知っていた。われわれの暗号専門家が、おどろくべき手腕ををみせて、日本の外交暗号電報を傍受解読していたからである。この解読情報はマジックと呼ばれ、日米交渉の最後の段階でおおきな役割を演じた』
という『回想録』の一節をみてもわかるし、アメリカ議会の『真珠湾調査合同委員会』の記録をみても明らかだ。この記録によれば、日本の外務省と駐米大使館の間で往復された、開戦までの重要電報の解読されたものは180~190通にのぼっている。これをみても、米国側でいう『紫暗号』とは外務省暗号で、『マジック』とは、この外務省暗号をも含めた日本側の暗号解読によって得たすべての情報をさしているものと思えるが、それではこの暗号が、どこで、どんな方法で盗まれたのかとなると、いまのところまだまったくわかっていない。
・・・
また1944年(昭和19年)の大統領選挙戦に、ルーズベルトの対抗馬として共和党からニューヨーク知事トーマス・デューイが出馬したとき、真珠湾の日本の奇襲を呼号して、米国民の戦意をかりたてたルーズベルトのもっとも恐れたのは、アメリカが開戦前、すでに日本の暗号を解読していた事実をばくろされることであった。それはルーズベルトが、わざと日本軍に攻撃させ、数千人の米市民を真珠湾で殺したことになり、選挙戦が不利になるばかりでなく、日本側がすぐ暗号を変更して、せっかく保っていた米側の優位をすてることになる。そこで、マーシャル参謀総長は、カーター・W・クラーク陸軍大佐を使いとして全国遊説中のデューイに対し、
『暗号解読の秘密を公表しないように』
と懇請の手紙を送っているが、その一節に、
『英国機関の援助によって、日本およびドイツの暗号解読に成功した』
とあり、さらに米側が九七式の模造に成功したとき、最初の一台を英国に贈った事実を思えば、おそらく欧州方面の大公使館で、わが暗号機の写真を盗みどりしたものが、英国機関の諜報部員だったのではないかとも考えられる。さらにまた、もう一歩つっこんだ想像が許されるならば、欧州方面の大公使館員の中に、英国人あるいは英諜報員の手先となっていた第三国人へ、暗号機械の秘密をもらしたものがいたのではないかということも考えられるのである。
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表があります。
一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。
青字および赤字が書名や抜粋部分です。「・・・」は、文の省略を示します。