高木仁三郎(2000年大腸癌で死去。)は、阪神大震災の直後、今回の福島第一原発のような地震による原発事故を驚くほど正確に予見し、警鐘を鳴らし続けていた。しかしながら、その警鐘は受け止められなかった。そして、福島で事故は起きた。それでもなお、原子力産業に関わる事業者や原子力行政関係者の基本的姿勢に大きな変化はないようである。したがって、また事故をくり返す可能性があると考えざるを得ない。
「日本物理学会誌」に寄稿された『核施設と非常事態 ―― 地震対策の検証を中心に 』の中で、高木仁三郎は
阪神大震災は、絶対を主張する専門家の過信の根拠のなさを 天下に明らかにしたと思われたので、この大きな不幸が、技術過信へのよい反省材料になるだろうと、報道に接しながら確信した。
ところがである。阪神大震災後に行われた耐震設計に関するいくつかの討論( 政府・電力事業者側との論争 )に出席してみてわかったことだが、行政側にも事業者側にも原発の安全性を見直して、この大災害をよい教訓にするという姿勢が少しも見られなかった。いや、非公式には、私は現場の人たちから、多くの不安や「安全神話 」の過信に対する反省の声を聞いたが、それらは少しも公式の場に現れなかった。そのことにショック を受けた。
と書いている。「原発は壊れない」という原子力産業事業者や原子力行政関係者の建て前のため、原発が被災した場合の緊急体制や老朽化原発対策などを真剣に考える姿勢が見られないことをきびしく批判していたのである。そして、予想外の被害をもたらした阪神大震災以後、耐震設計そのものの見直しが不可欠であること、また、活断層に沿った直下型地震が話題を呼び、新たに多くの活断層が発見され、活断層との関わりで心配される原発が出てきたことに加えて、老朽化した原発が増えてきており、大きな揺れではなくても、大事故につながる可能性があるとして、具体的に、東海、敦賀1、美浜1 福島1を挙げ、次のように指摘していたのである。「想定外」は通用しない。
さて,原発にこのような老朽化が進行している状態で地震に遭うとどうなるか。冒頭で述べてきたような耐震設計時の条件を満たす性能と比べると、実炉でははるかに劣化していると予想されるから、設計・施工にまったく問題がなくとも、実炉の耐震性は大いに疑わしい、仮に破断寸前まで配管や機器の溶接部分の亀裂が発見されない状態にあったときに地震が起これば、一気に破断する可能性も大きいだろう。耐震設計の有効性を大型模型を用いた振動試験で実証していると言われる多度津工学試験所(原子力発電技術機構)の試験でも、老朽化した装置が試験されているわけではない。
この指摘と朝日新聞の「東電、国会事故調に虚偽-福島第1 現地入り妨げる」の記事を合わせ読むと、おそろしくなる。朝日新聞の記事の内容は下記である。
『明るい建屋「真っ暗」と説明』
東京電力が昨年(2012年)2月、福島第1原発1号機の現地調査を決めた国会事故調査委員会に、原子炉が入る建物の内部は明かりが差し、照明も使えるのに、「真っ暗」と虚偽の説明をしていたことがわかった。国会事故調は重要機器の非常用復水器が、東電の主張と違って地震直後に壊れた可能性があるとして確かめるつもりだったが、この説明で断念した。
1号機原子炉建屋の4階で「出水があった」という下請け労働者の証言が複数あり、非常用復水器が地震直後に壊れた疑いがあったから計画された現地調査であろう。東電は「何らかの意図を持って虚偽の報告をしたわけではない」と言うが、もしそうなら、なぜ「真っ暗」であるなどと主張して、調査の取り下げを促したのか、また、この出水は何であるというのか、その経過や事実についての説明責任があると思う。決してうやむやにしてはならない問題だと思う。
残念ながら、福島原発の事故後もなお、高木仁三郎がくり返し指摘していた「隠蔽、改ざん、捏造」の類の継続を疑わざるを得ないのである。また高木仁三郎は、同文書の「原発の非常時対策は?」の中で、静岡県の浜岡原発などを具体的にあげて、下記のように指摘していた。
… たとえば、静岡県による東海大地震の被害想定に、浜岡原発が事故を起こすことは想定されていない。逆に、浜岡原発の防災対策では、地震で各種の動きや体制がとれなくなることはいっさい前提としていない。ただでさえ、地震時の防災対策にも、原発事故時の緊急対策にも不備が指摘されているから、これらが重なったら対応は不可能だろう。
仮に、原子炉容器や一次冷却剤の主配管を直撃するような破損が生じなくても、給水管の破断と緊急炉心冷却系の破壊、非常用ディーゼル発電機の起動失敗といった故障が重なれば、メルトダウンから大量の放射能放出に至るだろう。もっと穏やかな、小さな破断口からの冷却材喪失という事態でも、地震によって長期間外部との連絡や外部からの電力や水の供給が断たれた場合には、大事故に発展しよう。その場合、住民はきわめて限られた制約の中で、避難等をしなくてはならなくなる。現行の原子力防災指針では、一定の事故段階でコンクリート製の建物などへの住民避難を前提としている―それすら住民参加型の訓練が行われていない状況では実現性に疑問が残る一が、地震でそれらの建物が使えなくなることなどは、想定していない。
さらに,原発サイトには使用済み燃料も貯蔵され、また他の核施設も含め日本では少数地点への集中立地が目立つ(福島県浜通り,福井県若狭、新潟県柏崎,青森県六カ所など)が、このような集中立地点を大きな地震が直撃した場合など、どう対処したらよいのか、想像を絶するところがある。しかし,もちろん「想像を絶する」などとは言っていられず、ここから先をこれから徹底して議論し、非常時対策を考えていくべきであろう。
・・・
さらに、防災体制についても、地震を想定した、現実的な原発防災を、今すぐにでも具体的に検討すべきだと思う。その中で、たとえば、事故時の避難場所の確保を建物の耐震性も併せて考えることや、現在地域の保健所に置かれているだけのヨウ素剤を各戸配布するなども検討することを提案したい。
さらに、「他の緊急事態は?」の中では
少し地震の問題に紙数を費やしすぎたが,阪神大震災は、核施設の他の緊急事態への備えのなさについても、大きな警告を発しているように思われる。考えられる事態とは、たとえば原発や核燃料施設が通常兵器などで攻撃されたとき、核施設に飛行機が墜落したとき、地震とともに津波に襲われたとき、地域をおおうような大火に襲われたときなど、さまざまなことがあげられる。それらの時には、上に地震に関して議論してきたようなことが、多かれ少なかれ当てはまる。
これまでにもそれらの問題の指摘はあったが、そのような事態を想定して原発の安全や防災対策を論じることは、「想定不適当」とか「ためにする議論」として避けられてきた。しかし、最近、阪神大震災だけでなく、世界のさまざまな状況をみるにつけ、考えうるあらゆる想定をして対策を考えていくことが、むしろ冷静で現実的な態度と思われる。
・・・
と指摘し、警鐘を鳴らし続けていたのである。それでも、福島の原発事故は、「想定外」の津波が原因であると結論づけることが許されるのだろうか。
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「日本物理学会誌」に寄稿された『核施設と非常事態 ―― 地震対策の検証を中心に 』の中で、高木仁三郎は
阪神大震災は、絶対を主張する専門家の過信の根拠のなさを 天下に明らかにしたと思われたので、この大きな不幸が、技術過信へのよい反省材料になるだろうと、報道に接しながら確信した。
ところがである。阪神大震災後に行われた耐震設計に関するいくつかの討論( 政府・電力事業者側との論争 )に出席してみてわかったことだが、行政側にも事業者側にも原発の安全性を見直して、この大災害をよい教訓にするという姿勢が少しも見られなかった。いや、非公式には、私は現場の人たちから、多くの不安や「安全神話 」の過信に対する反省の声を聞いたが、それらは少しも公式の場に現れなかった。そのことにショック を受けた。
と書いている。「原発は壊れない」という原子力産業事業者や原子力行政関係者の建て前のため、原発が被災した場合の緊急体制や老朽化原発対策などを真剣に考える姿勢が見られないことをきびしく批判していたのである。そして、予想外の被害をもたらした阪神大震災以後、耐震設計そのものの見直しが不可欠であること、また、活断層に沿った直下型地震が話題を呼び、新たに多くの活断層が発見され、活断層との関わりで心配される原発が出てきたことに加えて、老朽化した原発が増えてきており、大きな揺れではなくても、大事故につながる可能性があるとして、具体的に、東海、敦賀1、美浜1 福島1を挙げ、次のように指摘していたのである。「想定外」は通用しない。
さて,原発にこのような老朽化が進行している状態で地震に遭うとどうなるか。冒頭で述べてきたような耐震設計時の条件を満たす性能と比べると、実炉でははるかに劣化していると予想されるから、設計・施工にまったく問題がなくとも、実炉の耐震性は大いに疑わしい、仮に破断寸前まで配管や機器の溶接部分の亀裂が発見されない状態にあったときに地震が起これば、一気に破断する可能性も大きいだろう。耐震設計の有効性を大型模型を用いた振動試験で実証していると言われる多度津工学試験所(原子力発電技術機構)の試験でも、老朽化した装置が試験されているわけではない。
この指摘と朝日新聞の「東電、国会事故調に虚偽-福島第1 現地入り妨げる」の記事を合わせ読むと、おそろしくなる。朝日新聞の記事の内容は下記である。
『明るい建屋「真っ暗」と説明』
東京電力が昨年(2012年)2月、福島第1原発1号機の現地調査を決めた国会事故調査委員会に、原子炉が入る建物の内部は明かりが差し、照明も使えるのに、「真っ暗」と虚偽の説明をしていたことがわかった。国会事故調は重要機器の非常用復水器が、東電の主張と違って地震直後に壊れた可能性があるとして確かめるつもりだったが、この説明で断念した。
1号機原子炉建屋の4階で「出水があった」という下請け労働者の証言が複数あり、非常用復水器が地震直後に壊れた疑いがあったから計画された現地調査であろう。東電は「何らかの意図を持って虚偽の報告をしたわけではない」と言うが、もしそうなら、なぜ「真っ暗」であるなどと主張して、調査の取り下げを促したのか、また、この出水は何であるというのか、その経過や事実についての説明責任があると思う。決してうやむやにしてはならない問題だと思う。
残念ながら、福島原発の事故後もなお、高木仁三郎がくり返し指摘していた「隠蔽、改ざん、捏造」の類の継続を疑わざるを得ないのである。また高木仁三郎は、同文書の「原発の非常時対策は?」の中で、静岡県の浜岡原発などを具体的にあげて、下記のように指摘していた。
… たとえば、静岡県による東海大地震の被害想定に、浜岡原発が事故を起こすことは想定されていない。逆に、浜岡原発の防災対策では、地震で各種の動きや体制がとれなくなることはいっさい前提としていない。ただでさえ、地震時の防災対策にも、原発事故時の緊急対策にも不備が指摘されているから、これらが重なったら対応は不可能だろう。
仮に、原子炉容器や一次冷却剤の主配管を直撃するような破損が生じなくても、給水管の破断と緊急炉心冷却系の破壊、非常用ディーゼル発電機の起動失敗といった故障が重なれば、メルトダウンから大量の放射能放出に至るだろう。もっと穏やかな、小さな破断口からの冷却材喪失という事態でも、地震によって長期間外部との連絡や外部からの電力や水の供給が断たれた場合には、大事故に発展しよう。その場合、住民はきわめて限られた制約の中で、避難等をしなくてはならなくなる。現行の原子力防災指針では、一定の事故段階でコンクリート製の建物などへの住民避難を前提としている―それすら住民参加型の訓練が行われていない状況では実現性に疑問が残る一が、地震でそれらの建物が使えなくなることなどは、想定していない。
さらに,原発サイトには使用済み燃料も貯蔵され、また他の核施設も含め日本では少数地点への集中立地が目立つ(福島県浜通り,福井県若狭、新潟県柏崎,青森県六カ所など)が、このような集中立地点を大きな地震が直撃した場合など、どう対処したらよいのか、想像を絶するところがある。しかし,もちろん「想像を絶する」などとは言っていられず、ここから先をこれから徹底して議論し、非常時対策を考えていくべきであろう。
・・・
さらに、防災体制についても、地震を想定した、現実的な原発防災を、今すぐにでも具体的に検討すべきだと思う。その中で、たとえば、事故時の避難場所の確保を建物の耐震性も併せて考えることや、現在地域の保健所に置かれているだけのヨウ素剤を各戸配布するなども検討することを提案したい。
さらに、「他の緊急事態は?」の中では
少し地震の問題に紙数を費やしすぎたが,阪神大震災は、核施設の他の緊急事態への備えのなさについても、大きな警告を発しているように思われる。考えられる事態とは、たとえば原発や核燃料施設が通常兵器などで攻撃されたとき、核施設に飛行機が墜落したとき、地震とともに津波に襲われたとき、地域をおおうような大火に襲われたときなど、さまざまなことがあげられる。それらの時には、上に地震に関して議論してきたようなことが、多かれ少なかれ当てはまる。
これまでにもそれらの問題の指摘はあったが、そのような事態を想定して原発の安全や防災対策を論じることは、「想定不適当」とか「ためにする議論」として避けられてきた。しかし、最近、阪神大震災だけでなく、世界のさまざまな状況をみるにつけ、考えうるあらゆる想定をして対策を考えていくことが、むしろ冷静で現実的な態度と思われる。
・・・
と指摘し、警鐘を鳴らし続けていたのである。それでも、福島の原発事故は、「想定外」の津波が原因であると結論づけることが許されるのだろうか。
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。「・・・」は段落全体の省略を、「……」は、文の一部省略を示します。