真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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大久保利通暗殺事件 斬杆状

2019年06月13日 | 国際・政治

 大久保利通暗殺事件の「斬杆状」は、嘘と脅しとテロによって明治維新を成し遂げた討幕派による明治の政治が、どんなものであったのかをよく示していると思います。 

 その一として”公議を杜絶し民権を抑圧し以て政事を私す”とありますが、「五箇条の御誓文」における「廣ク會議ヲ興シ萬機公論ニ決スベシ」が、全く実現されておらず、”広く会議を起し、万機公論に決するの御誓文をして、殆んど地を払はしむ”ような実態であることを明らかにしています。
 私は、それは当然の結果ではないかと思います。なぜなら、日本に初めて近代憲法を誕生させたといわれる伊藤博文が、元老院の提出した「日本国国憲按」に反対し、また、憲法発布二十年を祝する園遊会で、”憲法政治は断じて国体を変更するものに非ず、只政体を変更するのみ…”などと主張しているからです。伊藤博文をはじめ、薩長を中心とする藩閥政治家にとっては、ヨーロッパ諸国のような立憲主義の国ではなく、天皇を抱き込めば「有司専制」が可能な”萬世一系の天皇が政治を統御せられる日本”でなければならなかったということです。
 また、 ”要路数人の吏輩に至ては、依然其等位を占有し、殆んど門地を以て官を為すが如し”という指摘も、明治政府や陸海軍の要職が、長く「薩長土肥」出身の有力者によって占められていた事実をふり返れば、当然の指摘だと思います。

 その二には、”法令漫施(マンシ)、請託(セイタク)公行 恣(ホシイママ)に威福(イフク)を張る”とあります。
 ここでは、”井上馨が銅山の事の如き、世上頗る物議に渉る。槇村正直會て司法に拘留せらるゝや、卒然(ソツゼン)特命を以て放たる”と、井上馨の「尾去沢銅山汚職事件」と槇村正直の「小野組転籍事件」の二つを取り上げ、その不正な裁きを明らかにしていますが、当時、他にも官僚が絡んだ汚職事件が続発しており、全体にそうした私利私欲にもとづく政治が行われていたことを指摘したものだと思います。

 その三には、”不急の土工を興し、無用の修飾を事とし、以て国財を徒費す”とあります。
 国家予算が大事なことに当てられていないという指摘です。”夫れ開化文明は形容にあらずして実力に在り。実力は本なり、形容は末なり、本を務めて而して後末に及ぶは、猶草木の根本を培養して枝葉随て繁茂するが如し”というわけです。まず、ヨーロッパ諸国のように、”境域を開き、威力を四外に張り、国富み兵強く、独立を致して”その後、考えるべきことを、先にしているということだと思います。一部の人間の利益のための支出や人気取りのような国家予算の利用があったのだと思います

 その四には、”慷慨忠節の士を疏斥(ソセキ)し、憂国敵愾(テキガイ)の徒を嫌疑し、以て内乱を醸成す”とあります。
 征韓論で下野した西郷隆盛・板垣退助・江藤新平・後藤象二郎・副島種臣や前原一誠などに対する対応が不正であるということだと思います。”夫れ征韓の議、姦吏輩若(モ)し其見を異にし、国家の為め其職掌を盡さんと欲せば、何ぞ廟堂に於て公平を執り、理非を明らかにして、以て抗議せざる”というわけです。すべてを明らかにして、議論せず、”政府自ら保護の任に背き、保護の具を破り、反(カエッ)て無罪の人民を暴害”していると指摘しています。国家のため、人民のための行動が、受け入れられていなかったということだと思います。

 その五には、”外国交際の道を誤り、以て国権を失墜す”とあります。
 目先の事に夢中になって、大事なことに予算が使われていないので、日本に不利な条約を改正することができないのだ、という指摘だと思います。
 ただ、明治政権を批判する人たちも、”抑も三韓の我国に隷属する…”と考えたり、“仲哀、応神の朝に始まり、爾来歴朝韓使弊を絶たず。中世我内乱に会し、久しく貢献を缺くを以て、豊臣氏武力を振ふて稍々(ヤヤ)旧権を復するに至る。然るに今代に至て彼れと対等の交際を修む。豈に歴朝皇霊の震怒(シンド)を恐れざらんや。且つ彼れ今ま猶使弊を支那に致し臣僕の体を執る。則ち我既に甘じて支那の下風に立つ者に似たり”というような自国中心主義的な考えを持っていたことも見逃せないことだと思います。

 下記は「自由党史(上)板垣退助監修 遠山茂樹・佐藤誠朗校訂(岩波文庫)から抜粋しました。
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                   第三編 愛国社の興起(明治七年四月至明治十三年二月)

                        第三章 国会開設の建白

   斬杆状中條挙するところの五罪の事実を詳明する左の如し。   
五罪を列挙するの理由
 其一、公議を杜絶し民権を抑圧し以て政事を私す。
一 明治一新初め大に公卿列藩を会し、御誓文を掲げて曰く、広く会議を興し万機公論に決すと。因て当初公議所を開き、諸藩の公議人を会集し、政治の得失将来の施設を論じ、傍ら人民の建議を取り、以て普(アマネ)く衆論公<評>〔議〕を盡す。而して幾ばくなく<して>之を廃し、暫らく集議院を設け、又廃して後左院を以て之れに代ふ。而して近来元老院を立るに及で、又左院を廃す。集議院及び左院に在ては凡そ建白いたす者あれば、其姓名住所を簿録(ボロク)し、時に建白者を招致して其趣旨を陳弁せしめ、其建議に於る可とする者は之を大政府に進達し、否とする者は之れを建白者に下附し、可否相半する者は院中に置て後日の参考に備ふ。而して皆な之を建白者に告示す。建白者猶異論あれば、議官等面議し反覆討論し務めて建白者をして其意中を竭(ツク)さしむ。言路猶(ゲンロナオ)通達する所あるが如し。方今元老院に在ては則ち然らず、凡そ建議の件、其<事>理の<可>〔正〕否を論ぜず。採用の有無を令せず唯之を黙収(モクシュウ)するのみ。譬へば物を水中に投ずる如し。已に入て而して其跡を滅す。如斯(カクノゴトク)なれば誰れか口舌筆紙を費し、此の無益に事を為す者あらん。故に方今絶へて建言を為す者あらず、縦令(タトイ)之れあるも、復た其言を用ひず、徒らに言路〔涸開〕の名あつて、而して其実なし、広く会議を起し、万機公論に決するの
御誓文をして、殆んど地を払はしむ。姦吏輩(カンリハイ)或は言はん、西洋各国建白の規則に於て、固より事理の可否を論ぜず、採用の有無を令せず、是れ文明国の通法なりと。是れ実際の得失を弁ぜずして、妄りに文明国の事を以て口実とする者なり。夫れ西洋各国の人民に於る、自由の理を全ふし、立法議政の権を有す。而して平<生日用>〔常所思〕、官民の間近切通暢(ツウチョウ)して、復た圧制束縛の弊(ヘイ)なし。故に其政治の是非法度の利弊(リヘイ)の如きは、大小議会に於て其所見を盡すを得、其一身一家の得失便否の如きは、則ち当路衙門(ガモン)に於て其志意を達するを得。既に如斯なれば則ち言路  
涸開して下情通達せざるなし、猶何の建白を要せん。故に其規則に於る彼れの如くにして可なり。本邦人民の如きは則ち然らず。未だ大小議会に於て、政治の是非法度の利弊を弁ずる能はず、未だ当路
衙門に於て、一身一家の得失便否を弁ずる能はず、人民の親しく下情を通達すべき者、独り建白の一路あるのみ。如何ぞ之を以て西洋各国に比するを得ん。且若し建白の規則をして文明国の通法に模擬せしめんと欲せば、宜しく先づ人民をして自由の理を全ふし、立法議政の権を得せしむべきなり。今ま建白規則のみ<専ら>文明<国>の通法に傚(ナラ)ひ、人民をして自由発論の権利を得せしむるの事に至ては、会て文明<国>の通法に従わざるは何ぞや。豈に姦吏輩己れに便なる者は之れを取り、己れに不便なる者は之れを取らざらんと欲すす歟。故に曰く妄りに文明国の事を以て口実とすと。明治八年四月、明詔を下し立憲政<治>〔体〕を建立するの旨を諭す。有司因て之を天下に布告す。夫れ西洋各国の立憲政体なる者を稽(カンガ)ふるに、立法、行政、司法の三権を部分し、而して立法の権は全く国会議院に帰す。即ち政治の大綱皆な人民の議定する所に在り。故に本邦既に立憲の政治たらば、速かに三権を分ち、議政立法<の権>をして人民に附すべし。抑も明治六年、前参議副島種臣輩、民選議員設立の議を建てしより、民会の論大ひに起り、当時の論是非相半すと雖ども、時勢漸く進歩し、今や之を非とする者なし。而して政府独(ヒトリ)之を設立するに及ばざるは、豈(ア)に姦吏輩猶之を否とする<者>歟。姦吏輩将(マ)さに云はんとす、民会の事未だ本邦人民開化の度に適せずと。姦吏輩の政治の体裁、百般の規則より、屋舎、道路、器具、雑品の末に至るまで、本邦人民開化の度を問はず、既に悉(コトゴト)く文明国の法を取る。而して独り民会の事に至て、因循猶豫(インジュンユウヨ)して其適否を論<ず>〔ぜざ〕るは何ぞや。夫れ明治一新の初め、既に広く会議を興すの、御誓文あり。後ち遂に立憲政治の詔令あるに至る。是れ 叡旨夙(エイシツト)に民会を興すに在り。而して、詔令下るにより已に数年、人民の之を希望する大旱の雲霓(ウンゲイ)を求むるが如し。而して姦吏輩独り之を欲せざる者、豈に亦己れに不便なるが為め歟。一新の初め<に当り始めて>、職制を立、則ち記して曰く、諸官員在職四年を期とし、公選を以て之を取捨すと。爾後屡々(ジゴシバシバ)職制を改むと雖ども、未だ在職年限の伸縮を明言せず。且つ諸省各寮の間々廃置黜陟(チッチョク)ありと雖ども、要路数人の吏輩に至ては、依然其等位を占有し、殆んど門地を以て官を為すが如し。所謂公選取捨なる者果して何くに在るや。以上指陳する處、姦吏輩陽に公平を称し、陰に私曲を行ひ、民権を掠奪し、下情を壅塞(ヨウソク)するの事に非ざるなし。此れ之を言路を杜絶し、民権を抑圧し、以て政事を私すと謂ふ。

其二、 法令漫施(マンシ)、請託(セイタク)公行 恣(ホシイママ)に威福(イフク)を張る。
一 近来政府の令禁を出し、規則を設くる、皆な人民の得失を問はず、一に官吏の便否に依る。故に数々(シバシバ)変ず、所謂朝令暮改(チョウレイボカイ)ならざる者なし。人民其繁苛に堪へず、其厳刻に苦しむ。甚だしきに至て謾(ミダ)りに西洋各国の政令を取り、妄意軽挙(モウイケイキョ)、強(アヘ)て人民をして遵守履行(ジュンシュリコウ)せしむ。人民其実際の苦情を訴へ、其<急>〔究〕困を免れんと欲すれば、官吏叱咤して曰く、是れ人民の義務のみ、是れ人民の職掌のみ、或は曰く、是れ某の国の法に従ふ。是れ某の国の国法に因ると。下民愚昧(グマイ)、義務と云、職掌と云何物たるを知らず。某の国の<治某の国の>法、何の状たるを審(ツマビラ)かにせず、遂に語窮し、意塞(フサガ)り、唯々黙々(イイモクモク)、退(シリゾキ)て嘆息す。或は怨望(エンボウ)を懐くも、其権勢犯す可らざるを視て、怨(ウラミ)を呑み、苦を忍び、空しく黙止するのみ。当今諸県下の民多く此の状あり。我が石川県の如き、官吏の虚勢を張り、私曲を行ふ、最も甚し。古語に云、上之れを好む者あれば下之れより甚しき者ありと。意(オモ)ふに大政府を謾施(マンシ)するに非ざれば、何ぞ各地方独り如此を得んや。法律は上下一般の正邪曲直を理する所以の者なり。而して方今の法律、姦吏輩の私する者多し。井上馨が銅山の事の如き、世上頗る物議に渉る。槇村正直會て司法に拘留せらるゝや、卒然(ソツゼン)特命を以て放たる。然れども是れ豈に真の聖旨に出んや。固より姦吏輩の矯為(キョウイ)に<由る者必せり>〔依るものに似たり〕。故に当時司法の官吏数名之に因て職を辞す。尾崎三郎、井上毅が井上三郎、尾崎毅の論説を取り、新聞社に対して訴訟を為すが如き、縦令(タトイ)其姓名を作為する者と認定するも、豈に己の姓名に非ざるものを取り、疑似を以て訴訟を為すの理あらんや。此の事や既に之を審判し、然る後始めて其作為に出るを知ると雖ども、其始め井上等が訴訟を為すに当て、未だ他の証左なく、偏(ヒトエ)に想像疑察するのみ。司法官之を受理する。最も法に違(タゴ)ふ。若し想像疑察と雖亦之を受理するとせば、今ま人其畜(ヤシナ)ふ所の鶏を失ふ者あり、時に適々(タマタマ)隣家鶏を食する者あるを以て、他の確証なしと雖ども之を訴へ、法官たる者亦能く之を受理するや。其他新聞条例の始めて出づるに当て、其条例に触るゝと為し獄に繋(ツナガ)る者、多く其理の覚る可らざる者あり。甚しきに至ては法官の認定する所を以て抂(マ)げて罰例に擬する者ありと云。<夫れ姦吏輩の法律を私する率(オオム)ね如斯(カクノゴトシ)。独り>〔頃日世上に伝ふ、黒田清隆、酩酊の餘り、暴怒に乗じ、其妻を殴殺すと、罪大刑に当る、而して頓に其事世上に伝播す。被殺人の親屬之を告るを待て其罪を治めんと欲するも未だ知るべからずと雖も、利良(川路利良)は何物ぞ、身警視の長となり、天下の非違を検するの任に在り、而して黙々不知を為(ツク)る者、豈に之を私庇せんと欲するか。夫れ姦吏輩の〕法律を私するのみならず、凡そ官路の事、結託相依り、引謁(インエツ)相計り、互に曲を助け私を成すに非ざるなし。遂に一般風靡し、小官細吏に至る、款を求め縁を攀(ヨ)ぢ、黜陟(チッチョク)の用捨、一此に由る。且つ商賈(ショウゴ)輩の如き、亦謏(ユ)を呈し、媚を納れ、贈賄(ゾウワイ)を行ふて以て利を釣る。吏輩相集る必ず曰く、其の仕途を得る某氏の推挙に因る、某の何官に就く某氏の周旋に係ると。商賈輩相会す必ず曰く、某の長官に就かば此の請願を了せん。某の局頭に依らば此の許可を得ん、或は曰く、某卿は某等と謀て何の社を立つ、某の大輔は某等と共に何の業を起すと。其官路相請託して非曲を謀るの話、官民相結納して私利を営するの談、喋々として醜声(シュウセイ)を掩(オオ)ふに至る。以上指陳する所姦吏輩令禁法律を私して、以て人を軽重休戚し、内託私謁を専らにし、以て恩恵をうるの事に非ざるなし。此れ之を法令謾施、請託公行、恣に威福を張ると謂う。

 其三、不急の土工を興し、無用の修飾を事とし、以て国財を徒費す。
一、近来姦吏輩の施設する所専ら営築工造、或は道路市街を繕ひ、或は官宅府庫を作り、或は宮室器具の粧(ヨソオ)ひ、華を競ひ美を争ひ、形容虚飾(キョショク)を之れ務め、以て天下の経営此れに止まると為すが如し。姦吏輩或は云はん、是れ亦開化文明国の形容、学ばざる可らずと。夫れ開化文明は形容にあらずして実力に在り。実力は本なり、形容は末なり、本を務めて而して後末に及ぶは、猶草木の根本を培養して枝葉随て繁茂するが如し。今ま姦吏輩の学ぶ所、其末を学で其本を学ず、その形を求めて其実を求めざるなり。欧州各国都城街衢(ガイク)の盛なる、宮室器具の美なる、鉄道を布(シ)き電信を通じ、瓦斯燈を點じ、民事日用、至便至利を極むるに至る所以の者は何ぞや。各国英雄輩出して境域を開き、威力を四外に張り、国富み兵強く、独立を致して、然る後其餘力を以て国内を修成す。然れども其盛整全備を為すは亦多年を待て以て之れに至るなり。然るに我今日、中興維新の初め、百事未定の時に於て、<遽かに>〔速に〕彼の隆盛極治の景況に比し、及其備<はるを一時に求め為めに益財用を消費す本末緩急>〔らん事を求む、事〕の序を失すると云べし。<此れ>之を不急の土工を興し、無用の修飾を事とし、以て国財を徒費すと謂ふ。

  其四、慷慨忠節の士を疏斥(ソセキ)し、憂国敵愾(テキガイ)の徒を嫌疑し、以て内乱を醸成す。
一 明治六年<十月>西郷等五名の参議職を辞し、廟堂解体す。爾来(ジライ)物議紛起し内乱相尋(アイツク)ぐ。其原因を推すに、征韓の議姦吏輩の沮止(ソシ)する所と為り、五参議奮激(フンゲキ)、官を解くに至る。夫れ征韓の議、姦吏輩若(モ)し其見を異にし、国家の為め其職掌を盡さんと欲せば、何ぞ廟堂に於て公平を執り、理非を明らかにして、以て抗議せざる。事此に出でず陰に相結納し、左右支吾(シゴ)して、遂に其事を沮喪する者、確乎不抜の論旨なく、自から其説の立たざるを知るが故なり。佐賀県士の征韓議を唱ふるや、其初め未だ兵を挙げ政府に抗せんと欲するならず。其同志の徒集集し事を議するを以て、政府其異図(イト)あるを疑ひ、卒然縣官をして兵を率ひ之に臨ましめ、遂に以て彼徒(カノト)の激動沸起を致せり。是れ此の騒擾、政府の之を激するに非ずして何ぞや。夫れ政府の人民に於る、撫をして之を鎮するに在り。焉(ナ)んぞ激して之を乱すを得んや。前原一誠の挙の如き事端彼より発する者の如しと雖ども、其原、亦姦吏輩の彼れを疏斥する甚しく、彼をして居常憤懣せしむるに由る。政府の人民に於る、公正以て之れを服するに在り。焉んぞ憎悪嫌疑して之を怒らしむるを得ん。夫れ江藤前原二徒の挙激動憤起に出、未だ全其正しきを得ずと雖ども、政府固より失体少なからず、姦吏輩二徒を指して賊とすと雖も姦吏輩反(カエリ)て真の国賊なる者なり。上を謾し、下を欺き、坐して政権を弄し、以て私利を営す。二徒豈に敢て
聖天子に敵し、国家を(キユ)するならん、亦憂国の至情、忍びざるに出づるのみ。姦吏輩焉(ナ)んぞ之を目にするに反賊を以てし、自ら居るに朝廷の大臣を以てするを得ん。昨年鹿児島の事に至ては、則ち全く姦吏輩の陰謀密策に出する所にして、世亦粗々(ホボ)其由を聞く。然れども未だ其本末は審かにせざる者多し。故に今ま之を証明せん。嚮(サ)きに西郷、桐野等官を解くに当て、近衛兵中沸騰し、各(オノオノ)病を称して職を辞す。其徒去て国に帰るに及で、西郷等之を撫循(ブジュン)し、学校を設けて之を教励す。是れ今日姦吏輩の偸安無事にゝを以て、国家の外艱の至るに際せば、一朝保つ可らざるを知る故に其時に当て国民の義務を盡さんと欲するなり。豈に他意あらんや。而して姦吏輩自ら忌憚措く能はず、密かに間諜を遣り、其動静を窺はしめ剰(アマツサ)へ密諜を嘱して、将さに隙に乗じ西郷、桐野、篠原の三名を害せんとす。而して其事発覚し、西郷等自ら上京して、其曲直を推糾せんと欲するなり。姦吏輩刺客の事を以て私学校徒の構造に出ると云と雖も、是れ甚だ其理なし。如何となれば、姦吏輩をして、<本と>虚心ならしめば、何を以て初めより中原已下(イカ)数十名、自ら間諜を遣るの事<あらん、又中原已下をして直に密某を受るに非ざらしめば何を以て自ら>刺客云々の事を吐露せんや。縦令拷尋(ゴウジン)の苦に堪へずして其一両人或は無根の言を吐くも、其言をして虚ならしめば、人々区々の事を云べし。何ぞ数十名符合の事を陳ぜん。豈に之を以て卒(ニワ)かに斥(シリゾ)けて以て強誣(キョウブ)の事となすべけんや。若し姦吏輩初めより中原已下(イカ)をして間諜たらしむるに非ず、又之に嘱するに密諜を以てするに非ずして而して中原已下一同無根の事状を吐露すと為さば、姦吏輩此に於て公平を執り、之れを処置するに、先づ西郷等の兵を引て<出するを>咎むべき歟、抑も又中原已下無根の言を吐露するを糺すべき歟。西郷輩は固より中原已下の辞を信じて出る者なり、故に先づ中原已下を糺さゞれば、其事情を審かにするに由しなからん。然るに事斯に出ずして、事情を曖昧に誘し、力を盡して之を撲滅せんと欲する者は、姦吏輩固より其事由を糺すを欲せず、将に厭当して其跡を掩はんとするや明なり。姦吏輩或は言はん、西郷等既に国憲を紊(ミダ)る、固より誅滅せざる可らず、而して其事甚だ急遽勢ひ猖獗(ショウケツ)、是を以て其事由を糺すに暇あらずと。夫れ政府の以て政府たる所、公明正大以て事を至当に処するに在り。縦令西郷等到底誅すべきの罪あるも、其事由に於ては詳かにすべき者之を詳かにし、糺すべき者は之れを糺し、然る後誅を加ふべきなり。豈に政府の職掌に於て事急遽勢ひ猖獗と云て、是非を分たずして以て事を処するの理あらんや。且つ堂々全国の勢力を有するの政府にして、何ぞ一の私学校徒を恐れ、事由を糺すに暇あらずと云を得ん。此の時に当て姦吏輩直に公明正大、以て事を至当に処せんと欲せば、亦何の難き事あらん。当路の者一人其事に任じ、勅命を啣(ハ)み、法吏其他の理事者を率ゐ、西郷等の出路に臨み、勅命を伝へて其出進を止めて、其事由を審理し、情実を判決し、其事全く中原已下の虚言に帰するや、之を罪し、或は西郷等の構造に出るや、之を刑し、以て諸事至当に処すべきのみ。政府既に如斯公明正大の処分を為し、而して西郷猶之に服せずして、軽挙妄動する者あらば、則ち是れ正に国家の反賊、人民の讐敵なり、政府討て之を滅する固より其義なり。天下後世孰(イズ)れ歟之を非議する者あらん。姦吏輩豈に是等の道理を弁ぜざらんや。唯自ら顧るに、竟(ツイ)に免れざる所あり。是を以て勅命を矯めて、王師を私用し、西郷等を誣(シ)ゆるに反賊を以てし、以て天下人民を欺き、己れが姦計の跡を掩ふ。然れども天地誣ゆ可らず、衆人欺く可らず、世上悉く其姦計を覚る。今ま其暴威を憚るがゆへ、敢て之を其口より出さずと雖ども、後世自(オノズカ)ら公論の在るあり。豈に其悪名を遁(ノガ)れんや。世人或は西郷等兵を引て出るを咎め、国憲を蔑棄する<者にして>罪誅を免れずと云と雖ども、是れ其一を知て其二を知らず、其本を計らずして其末を論ずるなり。夫れ政府は人民を保護する所以にして、而して国憲は人民を保護するの具なり。故に政府能く保護の任を盡し、国憲能く保護の用を為さば、則ち人民之を奉戴遵守して、以て其安寧を受くべきなり。今ま政府自ら保護の任に背き、保護の具を破り、反(カエッ)て無罪の人民を暴害するに至ては、則ち政府其政府に非ずして、国憲亦守るを得ず。且つ人民亦自ら本分の権利を有す、豈に故なくして其暴害を受くるの理あらんや。故に西郷等出て其事由を糺さんと欲する、固より其権利の在る所なり。西郷等既に出でんと欲するに当て、私学校徒保護随行せんと欲する、亦其義の在る所なり。彼徒多年西郷等に親近追随する者、他なし共に国家の為め盡す處あらんと欲するなり。故に彼徒の西郷等を保護するは、即ち国家の為め之を保護する者なり。其兵器を携ふる者は、政府既に保護の任に背き、反て之を暴害せんと欲す、人民に於て何ぞ自ら戒心せざる可んや。事斯に及び大本既に<廃す>〔立つ〕、而して猶区々枝葉の法則を言ふ、則ち一を知て二を知らず、本を計らずして末を論ずると云べきなり。我輩務めて西郷等を保庇(ホヒ)するに非ずと雖も、世人多く本末常変の理に暗く、燕雀(エンジャク)の心を以て大鵬を非するを以て、聊か之を弁ずるのみ。以上指陳する所、姦吏輩の暴戻至らざるなく、以て物議紛擾を致す者如斯(カクノゴトシ)。此れ之を慷慨忠節の士を疏斥(ソセキ)し、憂国敵愾(テキガイ)の徒を嫌疑し、以て内乱を醸成すと謂ふ。

  其五、外国交際の道を誤り、以て国権を失墜す。
一  我国海外の軽侮(ケイブ)を受来る〔久し〕。蓋し旧幕時代以来已に<久し。而して其弊害今日に至て益甚し。凡そ>彼我政府人民の交際応接の事皆な彼れ我れを拒むの勢あり。我れ彼れに順(シタガ)ふの情あり。殊に民間日用通商貿易の際、常に彼れ驕(オゴリ)而して我れ屈す。然れども其情勢馴致して此に至る者、一朝遽(ニワ)かに之を挽回せんと欲するも得べからず。宜しく条理を遵守し順序を履行して、以て徐(シズ)かに之を処すべきなり。而して其最も急要なる所の者、条約改正に過ぐるなし。条約を改正せざれば以て国権を回復する能はず。然れども之を改正する至難の事とす。其故何ぞや。我国の武備未だ張らず、国力相対せざるを以てなり。故に今日の先務、専ら武備を張り、守禦(シュギョ)の固め、攻戦の具を備ふるに在り。而して之に供する所の費額莫大<則ち〔なるを以て〕 冗費を去り、不急無用の事を止め、当時の支度を節減して、以て非常の用に供せざる可らず。故に一良(島田一良)等、外交の得失を論ずる、今日交際上の是非を言はずして、而して条約改正の事を言ふ、条約改正の事を言はずして、而して武備の充実を言ふ。而して武備の充実は、必ず当時の支度を節減して、以て非常の用に供するに在り。然るに方今姦吏輩の所為を視るに、安<に依り>〔を偸み〕無事に習(ナ)れ、不急の工造、無用の虚飾を事とし、武備の充実置て而して問はず、<当時の支度益夥多にして以て>非常の用に供するなし。一新已來、既に十餘年、堡塁や、船艦や、銃砲や、凡そ守禦の固め、攻戦の具、未だ一の整頓修備する者あらず、今日の状を以て之を推すに、将来幾年を待て而して能く武備を充実する、是れ未だ知る可らず。故に条約改正の期去て之れを改むる能はず、今年改めず明年正さず、国家をして遂に大患に至り、人民をして至難に赴かしむるや必せり。明治七年、台湾の事の如き抑も何の所為ぞ。徒に武を瀆(ケガ)し、兵衆を傷残し、国財を耗費し、竟(ツイ)に支那の篭絡する處となり、道路修繕等の費と名け、僅かの金額を収取し、反て内国に広布するに償金と号す。其人民を欺く何ぞ一に斯に至るや。朝鮮修好の事亦無稽の甚しきと云ふべし。抑も三韓の我国に隷属する
仲哀
応神の朝に始まり、爾来歴朝韓使弊を絶たず。中世我内乱に会し、久しく貢献を缺くを以て、豊臣氏武力を振ふて稍々(ヤヤ)旧権を復するに至る。然るに今代に至て彼れと対等の交際を修む。豈に歴朝皇霊の震怒(シンド)を恐れざらんや。且つ彼れ今ま猶使弊を支那に致し臣僕の体を執る。則ち我既に甘じて支那の下風に立つ者に似たり。其国体を汚す最も大ひならずや。樺太交換の事に至ては、実に無前の国辱、千載の失態と云べし。是れ名は交換と云と雖ども、其実は劫奪せらるゝが如し。如何となれば、我が興ふる所は則ち有用の地にして、彼れより受くる處は則ち不益の土なり。譬(タト)へば棄物を以て宝貨に易(カ)ふるが如し。且つ我れより求むるに非ずして彼れの望に随ふなり。古へ支那宗末の時夷狄の侵凌する所と為り、売国の姦臣目前の安きを苟偸し、内地を割興して一時の無事を貪る者、則ち是れなり。本朝開国已未だ此の汚辱を被らず、今日にして始めて此の事あり。
今上陛下をして 
皇祖の神意に負かしむるは、則ち姦吏輩の所為にして、其大罪に容れざる者なり。琉球の事甚だ非理なる者あり。彼れの歎訴する處其故なきに非ず、何ぞ其請ふ所を許し、直ちに支那に応接して以て判然我版図に帰せざる。而して彼れの小弱を侮慢し、劫迫して其国政を改革し、其民情を紛乱す。姦吏輩の魯と琉球とに於る何ぞ其驕諂(キョウテン)相反するや。姦吏輩彼の狼話を聞かずや、狼の虎に向う、尾を垂れ舌を巻き、叩頭屈足、唯其免がれん事を計る、其狐狸に向ふ、牙を鳴し、爪を厲し、威怒甚だ猛なりと云。姦吏輩の為す處是れに異ならず。夫れ外交の主とする所、弱を侵さず、強に屈せず、条理を正ふし、信義を重ずるに在るなり。姦吏輩何ぞ之を思はず、専ら驕逸諂媚(キョウイツテンビ)を事とするや。以上指陳する所、姦吏輩の、偸安(トウアン)を以て国体を汚し、益々外侮を招く者如斯。此れ之を外国交際の道を誤り、以て国権を失墜すと謂う。」

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