真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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「帝国の慰安婦」 事実に反する断定の数々 NO4

2019年06月27日 | 国際・政治

 「帝国の慰安婦の数々の断定を、見逃すことができません。
 日本軍慰安婦問題に対する日本政府の対応は、少しずつ変化しているのではないかと思いますが、基本的に変わらないのは、「強制連行」の証拠が見つからないので、公的謝罪や法的賠償はしないということです。そのかわり、「元慰安婦の方々に対する償いの事業」などを行うことを目的に財団法人「女性のためのアジア平和国民基金」を設立し、募金活動によって償いの事業の事業資金を得るとともに、必要な場合は政府が運営資金を拠出するなどして、全面的にその財団法人に協力するというのです。
 でも、このような国の責任を認めない対応は、日本人慰安婦だった人たちの証言を信用しないところからでてくるものなので、当然、慰安婦だったことを名乗り出た人たちは、これを受け入れませんでした。「強制連行」の証拠が見つからないということが、「強制連行」がなかったということではありませんし、騙されたという証言が多いとはいえ、「強制連行」されたという証言をする人もあり、また、日本軍慰安婦の問題は、何も「強制連行」だけではないからです。だから、公的謝罪や法的賠償がなければ、日本軍慰安婦だったことを名乗り出た人たちは、嘘つき扱いされているに等しく、それでは自分たちの名誉・尊厳・人権は回復はされないということだと思います。
 そういう意味で、法的な日韓の論争は重要なので、長くなるのですが、「帝国の慰安婦」から、そのまま要所を抜粋します。

177
2011年秋頃から慰安婦問題が再び注目を浴びるようになったのは、同年の夏、韓国の憲法裁判所がある判決を下したからである。2006年に支援団体と慰安婦64名が「韓国政府が慰安婦問題解決のために努力しないのは違憲」として起こした訴訟で、韓国の憲法裁判所がその主張を受け入れたのである。
 
 p179
2006年に開始された被害者たちの訴訟請求内容は次のようなものだった。

 日本国が請求人たちを性奴隷とした人権蹂躙行為は「醜業を行わしむるための婦女売買禁止に関する国際条約」「強制労働禁止協約(国際労働機関第29号条約)」などの国際条約に反するものであり、この事案の協定(財産および請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と韓国との協定)には含まれていない。この事案の協定によって打開されたのは我が国の政府の国民に対する外交的保護のみであり、我が国の国民の日本などに対する個人的損害賠償請求権は放棄されていない。しかし日本はこの事件の協定第二条第一項に従って日本国に対する損害賠償請求権が消滅したと主張し、請求人に対する法的な損害賠償請求を否定しており、これに対して我が国の政府は2005年8月26日、日本軍慰安婦問題に関連して日本国の法的責任が、この事件の協定第2条第1項によって消滅しておらず、そのまま存続している事実を認め、両国間に解釈上の紛争が存在する。(中略)(4)しかし、韓国政府は請求人たちの基本権を実効的に保障できるような外交的保護措置や紛争解決手段の選択など具体的な措置を取っておらず、このような行政権力の不作為は上記の憲法規定に違反する。(「判例集」、373頁)

 この請求の根拠は最初にあるように「婦女売買禁止条約」に日本が違反したというところにあった。そして、被害を受けた「個人」の「損害賠償」が請求されていないと言う。つまり「婦女売買」の責任主体を日本国家にのみ帰している。しかし人身売買の主体はあくまでも業者だった。日本国家に責任があるとすれば、公的には禁止しながら実質的には(個別に解決したケースがあっても)黙認した(といっても、すべて人身売買であるわけではないので、その責任も人身売買された者に関してのことに限られるだろうし、軍上層部がそういったケースもあることを認知していたかどうかの確認も必要だろう)ことにある。そして、後で見るようにこのような「権利」を抹消したのは、韓国政府でもあった。
 実際に、このとき外交通商部は、被害者が日本の賠償を受けるように動くことが政府の義務ではなく、政府が憲法違反をしているとは言えないと、強く反論している。しかし五年もかかった裁判の末に、裁判所は訴訟者たちの味方になった。裁判所が、日本国家だけを責任主体とする考えに同調した形となる。

  「帝国の慰安婦」では、どういうわけか、業者が徹底的に悪者にされています。人身売買の主体は業者、慰安婦を奴隷状態においたのは業者、慰安婦を戦地に置き去りにしたのは業者と…。でも、数々の証言や文書資料に基づいて、当時の状況を考えると、日本軍や日本政府が業者の背後で動いていたことは間違いありません。すでに触れたように、そのことを窺わせる文書は存在しますし、慰安婦の証言も存在します。何より、強姦したのは日本の軍人です。もちろん、業者にも責任はあるでしょうが、すべてを業者の責任にすることはできないと思います。
 だから、被害者の証言を受けとめた第三者機関である国際法律家委員会(ICJ)や国連人権委員会報告者の法的判断を尊重するべきだと思います。日本政府が、「強制連行」の証拠がなかったなどと言い逃れをして、慰安婦の証言が「嘘」であるかのような対応をするから、日本軍慰安婦であった人たちが、名誉・尊厳・人権の回復を求め続けていることを忘れてはならないと思います。

 p183
 被害者団体は2006年の告訴文で次のように訴えている。

 日本軍慰安婦問題は、この事件の協定締結のための韓日国交正常化会談が進行する間、まったく議論されず、八項目の請求権にも含まれておらず、この事件の協定締結後の立法措置による補償対象にも含まれていなかった。(「判例集」378頁)
 
 これも、慰安婦が「強制連行」されたとの認識による訴えであったろう。「そして、慰安婦たちの全てでないにしても、多くの女性が戦場に動員されて日本軍を支えた以上、そしてその過程で多くの強姦と過重な労働が強いられた以上、これは主張自体としては妥当な主張と言える。しかし、それでもそこでの強姦や過重な労働が、軍の承認を得たものでもなく、すべての慰安婦に該当するものでもない限り、それを軍全体の責任とすることはやはり難しいと言うほかない。
 問題は、日韓協定に補償の<法的根拠>がなかったところにある。日本人たちは「日本国民」として徴兵・徴用され、事後に戦没者墓地や恩給(年金)が支給された。徴兵自体は国民として国家総動員法に基づいて行われたものなので、「日本国民」でなくなった韓国人はいまや日本による補償の対象ではないことになる。しかし、そのことに含まれる矛盾は明らかである。国家が必要としたとき国民の地位を与えて<国民の義務>を与え、必要でなくなったとき、「国民」から外して<国民の権利>だけを奪った形になるからだ。
 とはいえ、根本的な問題は、日韓併合が、国民に知らないところで少数の人によって「合意」の形を取って行われたことにある。つまり、たとえ賛同者がいたにしても、ほとんどの国民には「強制」されたことでしかなかった日韓併合が、朝鮮人すべてが進んで「日本国民」になる意思表明をしたかのように、合法の形になってしまったことこそが問題の根源にあると言えるだろう。

 何を根拠に”しかし、それでもそこでの強姦や過重な労働が、軍の承認を得たものでもなく、すべての慰安婦に該当するものでもない限り、それを軍全体の責任とすることはやはり難しいと言うほかない。”というのでしょうか。ところどころに、こうした事実に反する記述があることを見逃すことができません。
 例えば、「比島軍政監部ビサヤ支部イロイロ出張所の慰安所(亜細亜会館 第1慰安所)規定」(「従軍慰安婦資料集」吉見義明編─大月書店)には、下記のようにあります。

一、本規定ハ比島軍政監部ビサヤ支部イロイロ出張所管理地区内ニ於ケル慰安所実施ニ関スル事項ヲ規定ス
二、慰安所ノ監督指導ハ軍政監部之ヲ管掌ス
三、警備隊医官ハ衛生ニ関スル監督指導ヲ担任スルモノトス接客婦ノ検黴ハ毎週火曜日拾五時ヨリ行フ
四、本慰安所ヲ利用シ得ベキモノハ制服ヲ着用ノ軍人軍属ニ限ル
五、慰安所経管(営?)者ハ左記事項ヲ厳守スベシ
 1、家屋寝具ノ清潔並日光消毒
 2、洗浄消毒施設ノ完備
 3、「サック」使用セサル者ノ遊興巨止
 4、患婦接客禁止
 5、慰安婦外出ヲ厳重取締
 6、毎日入浴ノ実施
 7、規定外ノ遊興拒止
 8、営業者ハ毎日営業状態ヲ軍政監部ニ報告ノ事
六、慰安所ヲ利用セントスル者ハ左記事項ヲ厳守スヘシ
 1、防諜ノ絶対厳守
 2、慰安婦及楼主ニ対シ暴行脅迫行為ナキ事
 3、料金ハ軍票トシテ前払トス
 4、「サック」ヲ使用シ且洗浄ヲ確実ニ実行シ性病予防ニ万全ヲ期スコト
 5、比島軍政監部ビサヤ支部イロイロ出張所長ノ許可ナクシテ慰安婦ノ連出シハ堅ク禁ズ
七、慰安婦散歩ハ毎日午前八時ヨリ午前10時マデトシ其ノ他ニアリテハ比島軍
   政監部ビサヤ支部イロイロ出張所長ノ許可ヲ受クベシ尚散歩区内ハ別表1ニ依ル
八、慰安所使用ハ外出許可証(亦ハ之ニ代ベキ証明書)携帯者ニ限ル
九、営業時間及料金ハ別紙2ニ依ル

 別表1 公園ヲ中心トスル赤区界ノ範囲内トス (地図略)
 別表2
   区分      営業時間       遊興時間  料金 第1慰安所    亜細亜会館
   兵     自 9:00至16:00  30分    1,00       1,50
下士官・軍属   自16:00 至19:00 30分    1,50       2,50
 見習士官    自19:00 至24:00 1時間    3,00       6,00


 日本軍は、敗戦が避けられない状況に至ったときに、機密文書を中心に大部分の関係文書を焼却処分したわけですが、こうした慰安所規定は、いくつか発掘されています。
 でも、著者は、”軍の承認を得たものでもなく”などと事実に反することを言って、日本軍や日本政府の責任を法的に追及することはできないと言っているのです。理解できません。

 また、”問題は、日韓協定に補償の<法的根拠>がなかったところにある。日本人たちは「日本国民」として徴兵・徴用され、事後に戦没者墓地や恩給(年金)が支給された。徴兵自体は国民として国家総動員法に基づいて行われたものなので、「日本国民」でなくなった韓国人はいまや日本による補償の対象ではないことになる。”とありますが、これも日本政府の方針を追認するもので、とてもおかしと思います。日本国民として被害を受けた被害者には、当然、日本が補償を行うべきだと思います。日本の被爆者と韓国の被爆者の扱いが全く異なることをはじめ、さまざまな日韓の戦争被害者における扱いに違いがあるようですが、私はそれは恥ずかしいことだと思います。日本は、公平なドイツの戦後補償を見習うべきだと思います。
 特に問題なのは、そうしたことを”日韓併合が、国民に知らないところで少数の人によって「合意」の形を取って行われたことにある。”などと、日本軍慰安婦の問題に、植民地支配の問題を無理矢理関連付け、絡めることです。日本軍慰安婦の問題は、あくまでも戦時性暴力の問題であり、違法行為(犯罪行為)に対する謝罪と法的賠償の問題です。
 
 p191
 何よりも、訴訟者の被害者団体の賠償要求の根拠は「強制労働」と「人身売買」であり、それが当時の国際法に違反するものだということにあった。しかしそのことを<直接に>犯した主体が「業者>だった以上、日本国には、需要を作った責任<時に黙認した責任>しか問えなくなる。そういう意味でも、法的責任を前提とする賠償要求は無理というほかない。

 第三者の立場にある法律の専門家が、全く逆の判断をしていることは、すでに触れました。国際法律家委員会(ICJ)の「結論と勧告」のなかには、「日本は今、完全に責任を取り、被害者とその家族に適切な原状回復を行うべきである」とあります。

 p197
1996年の国連の「クマラスワミ報告書」(「女性に対する暴力、戦時にいける軍の性奴隷制度の問題に関して、朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国及び日本への訪問調査に基づく報告書」)は、日本政府に対して「法的責任を受け入れ、賠償支払い、文書公開、公式謝罪、関係者処罰」などを勧めている。しかし二年後の1998年に提出された報告書(女性に対する暴力その原因と結果」)には次のように書かれている。
 日本政府は「慰安婦」に対する過去の暴力という問題に対処すべく、ある程度努力しているのは歓迎すべきである。…

 この報告書が基金に対する日本の立場や努力を明言しているのは、アジア女性基金などに関する日本政府の説明を受け入れたからだろう。そして支援団体がこのような報告書の変化に気づいていなかったはずはない。しかしそのことが韓国に伝わることはなく、このクマラスワミ報告書は「法的責任」「賠償」を要求する根拠の一つとして使われ、韓国ではやがてメディアや政府までが同じことを言うようになった。
 ・・・
 ところでこの報告書では、「強制連行」をしたと話した吉田清治の本を引用している。また慰安婦のほとんどは「14~18歳」で、挺対協の初代会長だったユン・ジョンオク教授の言葉を引用して慰安婦募集に学校制度が利用されたと述べている。さらに、慰安婦たちが相手をした軍人の数は一晩に60~70人だともしている。しかしここまでの数字を話している人は、少なくとも韓国で刊行された慰安婦証言にはない。そしてそう語った人は北朝鮮出身の慰安婦だが、彼女は13歳のときに連れていかれ、クリスマス釘の出た板の上で転がされる少女や、局部の消毒のために鉄棒を突っ込まれた少女を見たと語っている。彼女は「日本陸軍の守備隊に連れていかれた」といい、少女たちを「拷問」したのは中隊長と語る。しかしそこまで具体的な証言が、韓国側の証言ではほとんど見られないのは偶然だろうか。

 さらに、「この報告書は二十万人の朝鮮人女性」、「その後大半の女性を殺した」としながら、1995年の日韓協定は個人の請求権は含まれていないので、この問題とは関係ないと結論づけている。(以上、「デジタル祈念館 慰安婦問題とアジア女性基金」ホームページ参照)。
 このような「慰安婦」理解は「二十万人」の「少女」を朝鮮人とすることや、彼女たちがほとんど殺されたとする点で、挺対協の認識、あるいはその運動初期の頃の認識といえるだろう。にもかかわらず、このあとに出るようになる報告書は、ほとんどがこの報告書の影響を大きく受けることになる。

 「クマラスワミ報告書」に関するこうした記述にも、受け入れ難いものがあります。”吉田清治の本を引用している”ことで、この報告書を否定できるものでないことは、その後のインタビューで、クマラスワミ自身が「報告書は多くの元慰安婦の聞き取り調査に基づき作成した。(朝日新聞の誤報があっても)報告書の見直しの必要はない」とか「吉田証言は報告書作成の入手した証拠のひとつ」とか「吉田証言は報告書の核心でなく、元慰安婦の証言がより重要だ」と述べたことが報道されており、明らかです。
 また、クマラスワミは報告書のなかで、「特別報告者の作業方法と活動」と題して、
第2次世界大戦中のアジア地域における軍事的性奴隷の問題に関して、特別報告者は、政府および非政府組織の情報源から豊富な情報と資料を受け取った。そこには被害女性たちの証言記録がふくまれていたが、それらは調査団の出発前に注意深く検討された。本問題についての調査団の主要な目的は、特別報告者がすでに得ている情報を確かめ、すべての関係者と会い、さらにそのような完全な情報に基づいて国内的、地域的、国際的レベルにおける女性に対する暴力の現状、その理由と結果の改善に関して結論と勧告とを提出することであった。その勧告は、訪問先の国において直面する状況を特定したものになるかもしれず、あるいはグローバルなレベルで女性に対する暴力の克服を目指すもっと一般的な性格のものになるかもせれない。
と書いています。北朝鮮慰安婦の証言にだけ依拠した報告書でないことがわかります。極端な北朝鮮慰安婦の証言だけを引いて、「クマラスワミ報告書」そのものが、価値のないものであるかのようにいうことは、やはりおかしいと思います。
 私も、日本軍慰安婦の証言が100%真実であるとは思いません。きちんとした教育を受けることができず、読み書きさえできなかった慰安婦には、記憶違いや誤解もあったと思います。また、憎しみが募って大げさに言うこともあったでしょうし、悪夢のような日々の中で、夢にみたことが、現実とごちゃまぜになることも考えられると思います。でも、クマラスワミは、「徴収方法や、各レベルで軍と政府が明白に関与していたことについての、東南アジアのきわめて多様な地域出身の女性たちの説明が一貫していることに争いの余地はない」として、報告書を作成しており、当然、そうしたことも踏まえていたと思います。謙虚に受け止めるべきだと思います。

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