ゆるっと読書

気ままな読書感想文

【東京タワー】たわいもない日常の中で家族に心が動く瞬間

2006-11-03 23:07:01 | Weblog
「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」
リリー・フランキー・著

「泣ける」と評判になっていたリリー・フランキー著「東京タワー」。「本当にそんなに泣ける本なんだろうか?」と疑いの気持ちを持ちつつ、手に取った。

号泣した。

「泣ける」という評判に「過剰な宣伝ではないか?」と疑いを持った自分が、急に小さな人間に思えた。押し寄せる情報に「騙されてたまるか」と、どこか神経を尖らせて生きているのかもしれない。そう感じさせたのは、リリー・フランキーが語る家族(主に母親)への思いが、私自身の心の中にある家族への思いと重なり、誰かを大切に思う気持ちを思い出させたからだ。もっと素直に、感じたままにいればいいはずだと考えてしまった。

分かってはいるけれど、置き忘れがちな家族への愛情。
日常の小さな出来事の中で、母親、父親に対して心が動く瞬間。
その瞬間、心の動きを、リリー・フランキーは綴っていく。
故郷の街、友人たち、親戚たちのことを、感じたままさらけだす。
登場人物たちのキャラクターはユニークで、コミカルなエピソードがたくさん盛り込まれている。しかし、それは特別ユニークな家族の物語として読者に迫ってくるのではなく、読者は自分自身の家族を振り返させられる。
リリー・フランキーの家族の物語は、どこかで読者自身の家族の物語と交錯するのだ。

リリー・フランキーの物語は、母親との「永遠の別れ」を迎えることになる。
彼と母親との濃密な関係のすべてが、その別れに凝縮されている。思い出の場所となるのが「東京タワー」。

多くの人から「泣ける」という感想が寄せられているのは、読者自身が肉親との「永遠の別れ」を想うからではないだろうか。
コメント
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