西武池袋線の練馬高野台で下車し長命寺に行く。南大門を入って正面の本堂に向かって進むと、左に入る道がある。この道を行き右に折れて石橋を渡った先が長命寺の奥の院で、正面には御影堂がある。御影堂の裏手は、閻魔などの石像が並び、やや異様な雰囲気である。奥の院は高野山を模して造られたとされる事から、長命寺は東高野山と呼ばれ、また、女人禁制にしなかったこともあって、江戸から参詣に訪れる人が少なからずいたらしい。長い距離を歩くことに慣れていた江戸の人々にとっては、長命寺は日帰り圏内であったのかも知れない。江戸名所図会や村尾嘉稜の長命寺境内図を見ると、石橋から大師堂(現在の御影堂)に至る道は、今も江戸時代の面影を残しているように思える。長命寺の奥の院は都の史跡に指定されており、通年公開の文化財にもなっている。なお、長命寺は武蔵野三十三観音の第一番札所でもある。武蔵野三十三観音は西武池袋線の沿線に点在し、結願の寺は飯能の竹寺である。
長命寺を出て笹目通りを南に行き、長光寺橋の手前で右に入り、石神井川沿いの遊歩道を歩く。山下橋を過ぎて川沿いに進み、次の橋で右に折れると石神井公園の前に出る。ここから石神井池に沿って歩いても良いのだが、今回は、石神井公園南側の記念庭園に行く。最近、歩道を整備したり、池を浚ったりしたらしく、以前のような荒れた感じではなくなったが、自然はそのまま残っている。この庭園の北側の道を西に進むと運動公園のような場所に出る。ここは、芝生の原っぱもあって気分の良い場所である。桜も植わっているので、ちょっとした花見にも良いかも知れない。さらに道なりに行くと、池淵史跡公園に出る。先石器時代から縄文や弥生の遺跡地の公園で、ここに旧内田家住宅という、江戸時代の民家の古材を利用して明治20年代に建てられた茅葺の住宅が移築されている。この住宅は、文化財ウイークの参加事業として昨年から始まった古民家めぐりの対象にもなっている。
池淵史跡公園に隣接して、石神井公園ふるさと文化館がある。ここは、旧石神井図書館の地下にあった練馬区郷土資料室が母体となって昨年オープンした施設で、常設展示のほか、企画展や特別展が行われている。文化財ウイーク関連では、石神井城跡の発掘調査結果がギャラリーで写真展示されていた。
三宝寺池の中の浮島には貴重な植物群落があるとして、昭和10年に国の天然記念物に指定されている。しかし、昭和30年代以降の環境変化により貴重な植物が減少し、希少種の中には消滅したものもあるという。また、豊富だった湧水も激減したため、ポンプで地下水を汲み上げて補給する状況になっている。その後、環境を回復するための努力が続けられた結果、貴重な植物も次第に増えているようで、今では、コウホネの黄色い花をよく見かけるようになった。三宝寺池の周囲には木道が設けられている。その木道を歩きながら、秋から冬にかけて飛来する水鳥を探すが、今年は気のせいか少ないような気もする。木道からは公園外の建物がほとんど見えないため、三宝寺池は自然のままの池のような雰囲気を持っている。
三宝寺池の南側は、豊島氏の持城だった石神井城の跡で、都の史跡に指定されている。城の中心にあたる主郭の跡地はフェンスで囲まれているので、通常は外から眺めるしかないが、文化財ウイーク中に限り特別公開されている。今年は主郭内で発掘調査の写真が展示されていた。以前、城跡をめぐるミニツアーに参加したことがあったが、フェンスに沿って主郭の西側と南側に空堀と土塁が築かれているほか、三宝寺池西端から石神井川に面する斜面に至る南北に、空堀が築かれているという事であった。
三宝寺池から西に上がると野鳥の誘致林がある。珍しい鳥に出会えるかどうかは分からないが紅葉は美しい。ここから北に行き富士街道を渡って進む。東京学芸大附属校の敷地を回るようにして西に行き、上石神井通りを渡って牧野記念庭園に行く。植物学者で文化勲章受章者の牧野富太郎博士が晩年を過ごした居宅の跡を、区立庭園としたものだが、国登録の記念物にもなっている。この庭園の建物が老朽化したため、リニューアルが行われて、昨年オープン。文化財ウイークにも昨年から参加している。園内には講習室、博士の書斎を保護している鞘堂、常設展示や企画展示を行う記念館が設けられ、庭園内の植物は300種を越えている。ただ、以前あった、あずま屋や、温床は、リニューアルにより無くなったようである。文化財ウイーク期間には「花に焦がれて」という企画展が行われていたが、その後は、「牧野記念庭園ゆかりの植物」という企画展が開催される。なお、最寄り駅は、西武池袋線大泉学園駅である