どもです。本日の800字、参ります。
※妄想度高め。
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月明かりの夜。静かな部屋で、一人机に向かう乙女。その手が羊皮紙に葡萄色のインクで綴るのは、情熱的でありつつ、どこか夢見がちな恋心。
「おやおや、恋文とはまた古典的な……」
背後からその美しい文字を覗き込んで呟けば、彼女――シルフィール=ネルス=ラーダは弾かれたように椅子から立ち上がり、振り向いた。
「っ! ゼロス……さん。どうして」
――正体を『魔族』であると明かしてから、彼女はゼロスを呼ぶ際に敬称を付けるか逡巡するようになった。それがまたいじらしい。
「どうしてかと聞かれると、そうですねえ。まあ、貴女の顔を見たくなった、という事にしておいてください」
「……、」
困惑の表情を浮かべた彼女は、ゼロスの出方を伺っていた。それは実際とても正しい状況判断で、敵意を剥き出しに警戒した所で、ゼロスが本気になれば彼女には為す術がない。人間と魔族の力の差というものを、彼女は身を持って知っている。
「それにしても、よく書けていますねえ」
机のそれを取り上げて、月明かりに透かして文字を追う。宛先は勿論――。
「貴方には関係ないでしょう」
唇を噛んだ彼女から漏れるのは、羞恥と無念。その負の感情に魔族は舌なめずりをする。
「関係はありませんね。ですが、興味はあるんですよ」
報われる事のないであろう、諦めの混じった恋心。親も故郷も失った孤独。それでいて、『彼』への想いも、未来への希望も捨てる事は出来ないでいる。捨ててしまえば楽になるものを、抱えたままで苦しみながら。
「これ、何枚目です? 引き出しに入ってるのと合わせて」
「どうしてそれをっ!」
「あは、やっぱり出せずに溜めてたんですね。そういうタイプだと思ってましたよ、シルフィールさん」
あっさりとゼロスのカマかけに引っ掛かった彼女は、脱力したようにその場に座り込む。
「……良いんです。いつか、また再会出来たら。……いいえ、渡せなくても良い。この気持ちを書き残したいだけで」
自分の中でもまだ整理が付かないのだろうか。一人で溢れそうな感情を抱えてもがく彼女は、ゼロスにはとても好ましい。その複雑な負の感情が、堪らなく美味で。
俯いた彼女の長い黒髪を一房、手に掬ってさらりと開放する。
「頑張ってくださいね。僕、応援してますから」
――このまま、折れなければ良い。淡い期待と希望に縋って、死にきれない空虚に溺れていれば。
「おやおや、恋文とはまた古典的な……」
背後からその美しい文字を覗き込んで呟けば、彼女――シルフィール=ネルス=ラーダは弾かれたように椅子から立ち上がり、振り向いた。
「っ! ゼロス……さん。どうして」
――正体を『魔族』であると明かしてから、彼女はゼロスを呼ぶ際に敬称を付けるか逡巡するようになった。それがまたいじらしい。
「どうしてかと聞かれると、そうですねえ。まあ、貴女の顔を見たくなった、という事にしておいてください」
「……、」
困惑の表情を浮かべた彼女は、ゼロスの出方を伺っていた。それは実際とても正しい状況判断で、敵意を剥き出しに警戒した所で、ゼロスが本気になれば彼女には為す術がない。人間と魔族の力の差というものを、彼女は身を持って知っている。
「それにしても、よく書けていますねえ」
机のそれを取り上げて、月明かりに透かして文字を追う。宛先は勿論――。
「貴方には関係ないでしょう」
唇を噛んだ彼女から漏れるのは、羞恥と無念。その負の感情に魔族は舌なめずりをする。
「関係はありませんね。ですが、興味はあるんですよ」
報われる事のないであろう、諦めの混じった恋心。親も故郷も失った孤独。それでいて、『彼』への想いも、未来への希望も捨てる事は出来ないでいる。捨ててしまえば楽になるものを、抱えたままで苦しみながら。
「これ、何枚目です? 引き出しに入ってるのと合わせて」
「どうしてそれをっ!」
「あは、やっぱり出せずに溜めてたんですね。そういうタイプだと思ってましたよ、シルフィールさん」
あっさりとゼロスのカマかけに引っ掛かった彼女は、脱力したようにその場に座り込む。
「……良いんです。いつか、また再会出来たら。……いいえ、渡せなくても良い。この気持ちを書き残したいだけで」
自分の中でもまだ整理が付かないのだろうか。一人で溢れそうな感情を抱えてもがく彼女は、ゼロスにはとても好ましい。その複雑な負の感情が、堪らなく美味で。
俯いた彼女の長い黒髪を一房、手に掬ってさらりと開放する。
「頑張ってくださいね。僕、応援してますから」
――このまま、折れなければ良い。淡い期待と希望に縋って、死にきれない空虚に溺れていれば。
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