大阪市だけはなく、大阪府立高校でも「不起立外し」がありました。A高校では、「式場内には入らないこと」という文言の入った職務命令がU先生に発出され、U先生は、卒業式も入学式も参列を阻害されました。
Uさんは、卒業生と保護者、新入生と保護者にそれぞれメッセージを配布されました。そのメッセージを読んだある卒業生からUさんに手紙が届きました。Uさんのメッセージと共に掲載します。
◆卒業生HさんからU先生への手紙◆
こんにちは。先日はお手紙をありがとうございました。A高〇期の〇〇〇〇です。先生からの手紙、記事、そしてネットでの記事を拝見しました。
お返事が遅くなってしまい、すいません。私自身もいろいろと考えてみたので、お返事をさせてもらいました。
私は、この起立条例は、思想の自由に反しているという点で、間違っていると思います。どんな場面でも、考えを強制されるようなことがあってはなりません。君が代を歌う時に起立をするか、しないかという問題よりも、自由な選択肢がないという状況が間違っていると考えます。
私は卒業式の日にU先生とお話をするまで、国歌斉唱の一瞬起立することくらい。と思っていました。むしろ、どちらかと言えば、式中の色々な場面でする、起立、礼と同じで、場の雰囲気を乱さないためにも、起立くらいしておけばよいのではないかとさえ思っていました。しかし今、こうして改めて、起立条例のことを考え直してみると、自分の考えは浅はかだったと思います。U先生がおっしゃった、「本当に起立が出来ない人がいる。」という言葉が強く心に残っています。その言葉のおかげで、他人事だと思っていてはいけない。そんな条例に何も考えずにただ黙って従っていてはいけない。と思うようになりました。君が代起立条例というのは、思想や信条の自由を侵すものであり、まして起立しない人に処分をするなど、違憲です。本当は起立をしたくない人もたくさんおられるはずです。そういった人々の自由を奪うという事は絶対にあってはなりません。
しかし、起立、不起立という問題に関しては、私は、自由な選択肢があったとしても、起立します。なぜなら、私たちは戦争を経験しておらず、君が代に対してそれほどまでの怒りも憎しみもないからです。これから、30年もしたら戦争を経験した人はほとんどいなくなってしまいます。そのときの、君が代に対する日本人の姿勢はどうなっていくのだろう考えると、おそらく、今以上に無関心になってしまっていると思います。でもそれがいけないことなのか、というのは私には、まだ分かりません。君が代や国旗の背景にある、歴史は忘れてはなりません。でも、戦後、日本は国歌も国旗も一度も変えずに今まできました。だから、日本人として、自分達の国歌、国旗を大切にしようとする姿勢も大事だと考えるからです。
私は、起立条例に関しては、人々の思想の自由を奪うので反対です。起立したくない、できないという人がいるだから、その方々の意思を尊重すべきだと考えます。だから私は、君が代が嫌だからという理由ではなくて、起立条例を廃止するために、私は黙って起立したくはないと考えます。でも人間は弱いです。私自身、だからこれからは起立しません。と宣言はできません。やはり、周囲の目を気にしてしまいます。そして、私は「君が代起立」自体には反対ではないので、条例廃止を訴えるために起立をせず、廃止されたら、そのとたん起立をするというのも、どこか変な気がします。
U先生のように、強い意志を持ち、貫ける人を尊敬します。U先生も、戦争を経験していないにも関わらず、本当に起立できない人のために、処分覚悟で闘えるのは本当にかっこいいです。もし先生方が皆、深く考えずに、処分されないためにも起立ぐらいしておこう、というスタンスでいたら、私たちの世代の人々は、国歌や国旗にある背景を忘れてしまいます。戦争という惨事を忘れないためにも、どうしてそこまで反対する人がいるのか、という事を今、日本人全員が考える必要があると思います。「支援する会」というのもあるようで、一人では何もできなくても、U先生が活動をするから、ついて行こうという方もたくさんおられる事と思います。私もその一人です。具体的に何ができるかは分かりませんが、私に出来ることがあれば、連絡していただきたいです。
こうして考える機会を与えてくださりありがとうございます。これからも考え続けないといけないことだと思っていますので、もしよろしければ、また記事を送っていただきたいです。ありがとうございます。
◆卒業を迎えられる生徒の皆さん・保護者の皆さんへ◆
まもなく卒業式を迎えられる皆さん、保護者の皆さんにお伝えしたいことがあります。
卒業式では壇上に「日の丸」が掲げられ、国歌斉唱で君が代のテープが流されます。
「日の丸・君が代」は1999年に国旗国歌法により、国旗・国歌と定められました。しかし、日の丸がアジアの国々を侵略していった戦争の先頭にたっていた旗であり、君が代がその名の下に多くの命を失わせた天皇賛美の歌であったことから、今の日本にはふさわしくない・歌いたくないという人もいます。国旗国歌法の制定のときにも、「義務や強制が生じるものではない」と説明されてきました。最近は、多くの学校で「日の丸・君が代」が見られるようになりましたが、「君が代」に対しては立たない・歌わないという人が少なからずいました。それでも、式は何の問題もなく進行していたのです。
ところが、一昨年、大阪では「国歌斉唱時に教職員は起立斉唱するものとする」という条例が成立し、昨春の卒業式では教育長・校長は「起立・斉唱を求める」職務命令を出しました。このような命令は「思想良心の自由」を保障した憲法を侵すものと考え、国旗・国歌を押しつけるべきではないと、多くの教職員が国歌斉唱時に起立せず、戒告などの処分を受けました。私たちはこれを不服として人事委員会に提訴し、現在、条例の是非をも巡って教育委員会と争っています。
日の丸や君が代に対しては、人それぞれにいろいろな見方・考え方があり、これが正解という答えは存在しません。もちろん、「日の丸・君が代」を未來に向かう日本の象徴と考えようという人もあろうかと思います。いろいろな考えがあり、ともに相手を認め合って、進む方向を探っていくのが、民主主義というものではないでしょうか。私たち教職員には、今年も起立斉唱の職務命令が出ています。しかし、生徒の皆さんや保護者の皆さんには起立・斉唱の義務はありません。立っても立たなくても、歌っても歌わなくても、それは皆さんは自分で決めることができるのです。
最近の国旗や国歌の一方的な押しつけには、ストーカーが「私のことを好きになれ!」というような、背筋の寒くなる怖さを感じています。日本はもっといろいろな考えを認め合うことのできる、自由な国ではなかったか。私の求めるものは、ただ、フツーに自由でフツーに平和な日本。ただ、それだけです。
3年生の皆さんはまもなく、A高校を巣立ち、社会に向けて新たな一歩を踏み出されます。「自分で考え、自分で答えをみつける。」そんな力をA高校の3年間で身につけてこられたと思います。どうか、主権者として自信と勇気を持って歩んでいってください。また、機会があれば、皆さんのご意見を聞かせてもらえればありがたいと思います。
A高校教員 U
◆A高校卒業生の皆さん、保護者の皆さん
ご卒業おめでとうございます◆
私は、今日皆さんを卒業式で送ることができなかったので、ここで一言、お祝いを述べさせてもらいます。
A高校で過ごした3年間に、皆さんは、たくさんの知識と考える力を身につけられたはずです。これから漕ぎ出していく新しい世界には、何が待っているか分かりません。でも、あなたがしっかり自分で考え、行動していくなら、どんなに困難なことにぶつかっても恐れる必要はありません。きっと、道は開けるはずです。勇気を持って進んでください。
私が、式に出ることができなかったのは、「君が代」に対して立たないことを理由に、卒業式の式場に立ち入らないように職務命令が出されたからです。国歌斉唱のプログラムが終わってから、入場することさえも拒否されました。今日の卒業式では、たった一人ではありますが、科目履修生の担任として、卒業を確認する呼名をする予定であったにもかかわらずです。○期生の皆さんにも、2年・3年での授業などで一緒に勉強した人も多く、皆さんが卒業証書を受け取る姿や、代表の人が語る3年間の思い出を是非聞きたかった!
卒業式はそれまで一緒に学んできた生徒の皆さんを送り出し、また、入学式ではこれから仲間としてともに学ぶ生徒達を受け入れる。これは、私たち教員にとって非常に大事な教育活動の一つだと思っています。私は、これまで自分の学年でなくても、ほとんどの卒業式に出てきました。それなのに、「日の丸・君が代」の強制に反対しているこの1点だけで、私は大事な卒業式から排除されてしまうのです。これは教育の根幹に関わる重大な問題です。管理職や教育委員会には強く抗議したいと思います。
「君が代」に対して起立斉唱することを我々教員は求められています。それに反対して、不起立をした場合に処分を受けることはやむを得ないとも思っていますが、君が代と関係のない部分で、生徒にかかわらせないという命令が、教育の世界にあってもいいのでしょうか。残念で仕方がありません。
A高校 教員 U
◆新入生の皆さん、保護者の皆さん
ご入学おめでとうございます◆
A高校は、一人一人を大切にする学校です。これからの3年間で、皆さんは考える力やたくさんの知識を身につけ、それぞれの思いを実現していかれることと思います。今日、人生の新たなステップとしての一歩を踏み出される皆さんを、私は心から応援します。
私は一年学年団の一人として皆さんを迎える立場にありますが、式場には入りません。「君が代」を歌う気持ちになれないからです。昨年の卒業式では立って歌えとの命令に従えず、戒告処分を受けました。皆さんの笑顔を式場で見たかったのですが、今年は命令に従うと言わなければ式場内に入ることが許されず、ここで皆さんをお迎えしています。
皆さんもご存じのように、「日の丸」「君が代」は、天皇のために命を捨てよと教えた戦前の教育で重要な役割をはたし、侵略された国々の方や戦争の犠牲となった大勢の方のことを考えると歌えないという人がいます。逆に、今の日本の象徴として「君が代」を認める立場の人もおられます。そして、日本は、そのようないろいろな考えを認める自由な国だと思っていました。ところが、今や、教員に対して起立斉唱を強制する命令が出され、式場に入る教員には一人一人に対して起立斉唱の命令に従うかどうか確認する思想調査のようなことが行われる異様な状態になっています。
「日の丸」「君が代」を強制し、それに従えない者は式場から排除するというやり方は、一人一人の思いを大切にする教育とはかけ離れています。学校でこのようなことが行われることが残念で仕方がありません。皆さん、これからいろいろなことを学び、互いの考えや気持ちを尊重し、立場の違いを認め合う社会が実現できるように、どうか力を貸してほしいと思います。
2013年4月8日
A高校 教員 U