碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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日曜劇場「アンチヒーロー」魅力的なダークヒーローの登場

2024年05月01日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

日曜劇場「アンチヒーロー」TBS系

法はそれほど単純でも

一面的でもないことを教えてくれる

 

NHK朝ドラ「虎に翼」のヒロイン・猪爪寅子(伊藤沙莉)は、弁護士になることを目指して大学で法律を学んでいる。彼女が法に対する信念を表明する場面があった。

「私はね、法は弱い人を守るもの、盾とか傘とか温かい毛布とか、そういうものだと思う」。

確かに正論だが、法はそれほど単純でも一面的でもない。それを教えてくれるのが、今期の日曜劇場「アンチヒーロー」(TBS系)だ。

主人公である弁護士、明墨正樹(長谷川博己)は言う。「(依頼人が)本当に罪を犯したかどうか、我々弁護士には関係ないことだ」と。法の扱い方によっては、有罪であるべき人間も無罪に出来るということだ。

最初の案件は町工場社長の殺害事件。逮捕・起訴されたのは社員の緋山(岩田剛典)だ。

検察側は監視カメラの映像や現場にあった緋山の指紋、被害者から採取した皮膚のDNA鑑定、そして有力な証言などを並べて有罪を主張した。

明墨は違法すれすれの調査も辞さずに反証材料を集め、検察側の論拠を撃破してしまう。

さらに検察官と法医学者による証拠の捏造も暴いていく。最終的に緋山は無罪となるが、その真相は……。

明墨を突き動かしているのは、自分たちの都合でシロ(無罪)もクロ(有罪)にしてしまう、検察という権力に対する怒りだ。魅力的なダークヒーローの登場である。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.04.30)