まい、ガーデン

しなしなと日々の暮らしを楽しんで・・・

島を離れる

2012-04-17 12:38:38 | くらし

昨日の佐渡汽船でのこと。

ジェットフォイル改札が始まり通路を歩いていくと、中高年男女の集団が岸壁に集まっている。20人弱。観光客や仕事関係の方たちではない。

始めてみる光景。不思議に思ったのは私だけではないらしく、前を歩いていた女性が係員に訊ねていた。
「先生の見送りです」と言う返事が小さく聞こえた。そういうことかと思いつつ・・・


出航の準備が整っても先生らしき方の姿は見えない。
お見送りの方たちも窓を覗き込むようにして姿を探している。
と、身内らしい私の隣の女性が気が付いて、いちばん前の座席の男性に教えに行った。
促されて老人が窓のところへ身を乗り出し、顔を窓にくっつけた。

男女の集団はいっせいに岸壁の端に来て手を振っている。
老人も手を振っている。一生懸命手を振って応えている。
ジェットフォイルはあっという間に過ぎ去るから別れは短い。
船の向きを変えてもお見送りの人たちはずっと手を振っていた。
老人は、すぐに横になったらしく頭が見えなくなった。
私は一部始終を見ていてなんだか胸が熱くなった。目じりに涙がにじんできた。

7時20分発の朝早い便。
中高年男女の方たちは先生の教え子さんたちだろうか。
きっと島内のあちらこちらから駆けつけて来たに違いない。
90歳くらいの老先生はもう佐渡には帰ってこないと思ったのだろう。
声掛け合って見送ろうということになったのだろう。
7時20分に間に合わせるためにはかなり早く家を出たに違いない。

そこまでの思いを寄せてくれるそんな教え子たちを持った老人の豊かな人生。
海を眺め山を仰ぎ、厳しくも美しい佐渡の自然の中で暮らした日々。
きっと一人暮らしをしておられたであろうそれらも今は限界になったのだろう。
息子さんが迎えにきて、どこかの知らない地で一緒に暮らすことになるのだろう。
もう故郷を見ることはないのだろうか。
老人の心中はいかばかりだろうか。


ジェットフォイルの船中1時間5分、私も歳を重ねてきて、年をとるということとか故郷の味が幾分か分り始めたので、なんだか切ない気分でそんなことをつらつら考えていた。

コメント (1)
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