電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

モンゴメリ『アンの愛情』を読む(2)

2009年11月25日 06時17分39秒 | -外国文学
モンゴメリ原作『赤毛のアン』シリーズ第3巻、『アンの愛情』の続きです。引用及び表記は、村岡花子訳の新潮文庫によります。なに、訳文がどうこうという理由ではなく、文字のポイントが大きくて読みやすいからという、実に単純な理由です(^o^)/

第11章「人生の移り変わり」、第12章「アビリルのあがない」。レドモンド大学の一年目は、ソーバーン奨学金の栄誉を手にして終わり、アンはアヴォンリーに帰ります。ダイアナは喜びますが、ルビー・ギリスが肺結核で死にかかっているのでした。長い夏休みの間、アンは物語を書き、雑誌社に送ります。ハリソン氏の忠告、

わしだったら、自分の知っている人たちや場所を題材にするよ。それと、わしは自分の人物には日常語をしゃべらせるね。それから太陽だって騒ぎ立てずに平生どおりしずかに昇らせたり沈ませたりするね。もし悪漢がどうしても要るなら、わしは彼に機会をあたえてやるね、アン

は、実に示唆的です。ですが、アンは小説の方は断念したようです。

第13章「不真実な者たちの道」、第14章「去りゆく友」。双子のデイヴィーとドーラが、二人だけで日曜学校に行けるかって?そりゃあ事件勃発は火を見るより明らかでしょう。私だって、50年以上前に、だんだん赤くなるサクランボが待ちきれず、裏の畑の中でお弁当開きをした、という実績が残っていますから(^o^)/
しかし、ルビー・ギリスの言葉は真実です。

「天国は、たいへん美しいに違いないわ。聖書にそう書いてあるんですもの---でもね、アン、天国ってところはあたしが今まで馴れ親しんできたところじゃないわ。」
「あたしは死ななくちゃならないの---大切に思うものをみんなうしろに残して」

大切に思うものをみんなうしろに残して、今まで馴れ親しんできたところじゃないところへ行かなければならない。それは、宿命として受け入れることになったとしても、たとえようもなく寂しいことなのでしょう。アンがそうしたように、手をつなぎ、彼女の寂しさを受け入れてくれる人こそが、去りゆく人を慰めることができるのだろうと思います。

第15章「愛のゆくえ」、第16章「『パティの家』の住人」。ベーキングパウダー会社の宣伝のための懸賞小説募集に、なんとダイアナが、封印したはずの小説の写を送り、アンの名前で応募していました。しかも、ほんの数語、商品名を書き加えて。それが当選し、25ドルの賞金を手にします。気持ちは嬉しいのですが、本当はアンは、あの小説は封印したつもりだったのです。ダイアナは、著作権意識はまるでないですね(^o^)/
そして新学期が始まり、二年生になったアン、プリシラ、フィルとステラの四人の女子大生は、ジェムシーナ伯母さんと共に「パティの家」で共同生活を始めます。一緒に暮らすことになった三匹の猫の行状も愉快です。我が家のアホ猫のように、獲物を主人のために持ってきて見せてくれたりはしないようですが(^o^)/

第17章「デイヴィ-の手紙」、第18章「ミス・ジョゼフィンの遺言」。たしかに、知りたがりやのデイヴィーの手紙は傑作です。「どうして○○なの。ぼく、知りたいな」という子どもの質問は、ときにズバリと本質をついています。理系人間は、思わず共感してしまいます。「悪魔のお父さんは誰なの?ぼく、知りたいな。」それは、私だって知りたい(^o^)/
二年生のクリスマス休暇におけるアンの悩みは、学費の問題でした。マリラの貯金を使う気にはなれず、奨学金は小額のため、来年は再び田舎の小学校で教えて学費を稼ぐ必要がありました。救いの手は思いがけないところから差し伸べられます。昔、ダイアナと一緒にベッドに飛び込んで驚かせた、ミス・ジョゼフィン・バーリーさんが亡くなり、遺言の中で、アンのために千ドルものお金を遺してくれたのです。

第19章「幕あい」、第20章「ギルバート、口をひらく」。アンは二十歳になりました。フィルとアンとジェムシーナ伯母さんの幕間劇は、結婚について。もし彼がお金持ちだったら、結婚したいのはギルバートだ、というフィル。なるほど、財産家の娘さんは、相手を少数のお金持ちの青年からしか選ぶことができないという難問をかかえている、ということでしょうか。ある意味、それもたいへんな事ではありますね。
そのアンは、ギルバートをやや避けていました。ギルバートはついに愛を告白しますが、アンはそれを拒絶します。うーん、若いころならば、アンは恋を夢見て愛を知らない、と思ったことでしょうが、今は必ずしもそうとばかりは思わない。苦労して送っている大学生活を、とにかく、ひたすらに、全うしたいのでしょう。愛よりも恋よりも、今は無意識のうちに、学生生活をおえて自立する道を模索しているのでは、と思います。婚約や結婚という形式に縛られたくないというよりも、自分の意識が、違うものに奪われてしまわないように、必死でガードしている状態。友情と支えを求めるアンは、実に正しいのです。ギルバートのいない世界、それでも今のアンは、自立を求めてやまないのでしょう。娘を育てた父親の立場からは、まことに立派だと感じます。

(*1):モンゴメリ『アンの愛情』を読む(1)~「電網郊外散歩道」より
(*2):モンゴメリ『アンの愛情』を読む(3)~「電網郊外散歩道」より
(*3):モンゴメリ『アンの愛情』を読む(4)~「電網郊外散歩道」より
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