① ""すばる望遠鏡、天の川銀河の星の元素組成で探る宇宙初代の巨大質量星の痕跡、
その1""
※ 内容が長いので、2回に分けてアップいたします。
2014年8月21日
★ ビッグバン後の宇宙に最初に誕生した星のなかには、太陽質量の 100 倍を超える巨大質量星が存在したと考えられています。しかしながらその観測的な証拠が見つからず、初代星をめぐる謎のひとつとされてきました。今回、国立天文台、甲南大学、兵庫県立大学、および米国のノートルダム大学とニューメキシコ州立大学の研究者からなる研究チームは、すばる望遠鏡を用いて天の川銀河内の星の調査を行い、これまでに知られていない特異な元素組成をもつ星 (SDSS J0018-0939、図1) を発見しました。この星の特異な組成は巨大質量の初代星によってつくられた可能性があり、今回の観測結果は宇宙初期における巨大質量星の進化と元素合成について手がかりを得る上で、新たな知見をもたらしそうです。
(図1:今回発見された特異な元素組成をもつ星 SDSS J0018-0939 の可視光画像 (SDSS による)。この星は、くじら座の方向に、我々から 1000 光年ほどの距離にあり、太陽質量の半分程度という小質量星です。(クレジット:SDSS/国立天文台))
★ <宇宙の初代星はどのような星だと考えられてきたか>
ビッグバン後の宇宙において、はじめは水素とヘリウムしか含んでいないガス雲から星が生まれ、やがて星の集団である銀河が形成されてきたと考えられています。銀河のなかでは星の誕生や超新星爆発が繰り返し起こり、新しい元素が生み出されて多様な物質の世界が形作られてきました。水素とヘリウムのガス雲から最初に生まれる星 (初代星) は、宇宙における天体の形成と元素の合成の両面で重要な最初のステップといえます。
初代星が誕生するまでの様子は、計算機シミュレーションで詳しく調べられています (注1)。最近の研究によれば、太陽質量の数十倍の大質量星が多くできたとされますが、一部は太陽質量の 100 倍を超える巨大質量星であったと予想されています。巨大質量星が存在すると、強力な紫外線放射や爆発によって宇宙に大きな影響を及ぼします。
★ <天の川銀河の星に残る初代星の痕跡>
初代星がつくり出した物質は星間空間に放出され、次の世代の星に取り込まれます。そのなかには、寿命の長い小質量星も存在していたと考えられています。このような星の生き残りを探しだして元素組成を調べると、初代星がどのような進化をとげ、爆発によってどのような元素をつくり出したのかがわかります。そこから初代星が生まれた時の質量を推定することもできます。
宇宙の初期に生まれた小質量星を天の川銀河のなかに見つけ出し、組成を調べる研究が 30 年余りにわたって積み重ねられてきました。その結果、初代星のなかには太陽質量の数十倍の質量のものがあったことを示す元素組成をもつ星が相次いで発見されました (注2)。
一方、太陽質量の 100 倍以上の巨大質量星の爆発では、鉄などの比較的重い元素が大量に放出されるのが特徴です (注3) が、その存在を示すような組成をもった星が天の川銀河にみつからず、初代星をめぐる謎のひとつとされてきました。
★ <今回わかったこと>
研究チームは、天の川銀河の初期に誕生したとみられる小質量星の詳しい元素組成の測定を進めるなかで、これまでになく特異な元素組成をもつ星 SDSS J0018-0939 を発見しました (注4、図1)。すばる望遠鏡に搭載された高分散分光器 (HDS) で観測し、スペクトルを詳しく調べたところ、鉄の組成は太陽の 300 分の1程度で、比較的軽い元素である炭素やマグネシウムの組成は、太陽の 1000 分の1以下というものでした。鉄以外の元素の組成が極端に低いことから、この星は第二世代の星、すなわち初代星から放出された元素が周囲の水素ガスと混ざってできたガス雲から生まれてきた星であると考えられます。
初期世代星の元素組成は、多くの場合、太陽質量の数十倍の大質量星が起こす超新星の元素合成モデルでよく説明されてきました。しかし今回発見された星の元素組成はそれでは説明できません (図2)。これに対し、巨大質量星の爆発は鉄を比較的多量につくり出すのが特徴で、予想される元素組成はこの星の組成の全体的な傾向を説明することができます (図3)。つまり、この星には巨大質量の初代星によってつくり出された元素組成が記録された可能性があるのです。
(図2:SDSS J0018-0939 の元素組成 (赤丸) と重力崩壊型の超新星の元素合成モデルとの比較。鉄と各元素の組成比を対数スケールで示しています。比較のために観測された星 (G39-36 という小質量星) の元素組成 (青三角) はこのモデルでほぼ説明できるのに対し、SDSS J0018-0939 の炭素やマグネシウムなどの軽い元素とコバルトは全く説明できません。(クレジット:国立天文台))
(図3:SDSS J0018-0939 の元素組成 (赤丸) と巨大質量星の爆発による元素合成のモデルとの比較。黒線が太陽質量の 300 倍の星が起こす電子対生成型超新星、青線が 1000 太陽質量の星が重力崩壊する際に起こる爆発のモデル (注3)。軽い元素が相対的に少ないという傾向はよく説明されています。観測結果とあまり合わないナトリウムとアルミニウム組成については、爆発前の星の進化のなかで多量に形成される可能性がありますが、現在のモデルでは考慮されていません。(クレジット:国立天文台))