① ""焦点:北朝鮮弾道ミサイルをF35で撃墜、米防衛構想の勝算""
2019年3月2日 / 08:45 / 14時間前更新
Mike Stone
[ワシントン 27日 ロイター] - 米国防総省は、北朝鮮の弾道ミサイルを発射直後に食い止める方法として、ある短期的なオプションを検討している。北朝鮮周辺の空域に最新鋭のステルス戦闘機F35を待機させ、発射されたばかりのミサイルを撃墜するという構想だ。
(F35戦闘機)
2月27日、米国防総省は、北朝鮮の弾道ミサイルを発射直後に食い止める方法として、ある短期的なオプションを検討している。写真はF35戦闘機。ベルリンのエアショーで2018年4月撮影(2019年 ロイター/Axel Schmidt)
だがミサイル防衛の専門家は、この構想について、現在の形では物理的に無理があると警鐘を鳴らしている。
ある専門家は、この作戦では迎撃ミサイルに要求されるスピードが速すぎて、迎撃ミサイル自体が溶けてしまうと警告。また、米軍の航空機が現在のテクノロジーでミサイルを確実に撃墜するには、相手国の領空内を飛行するしかないと、ロイターが取材した3人の専門家は指摘した。
この構想は、先月始まった期間半年の研究の一環だ。トランプ米大統領は北朝鮮の非核化を目指して金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とベトナムで会談したが、そんな中でも国防総省が北朝鮮による脅威を無力化する方法を探り続けていることが露呈した格好だ。
北朝鮮の脅威が拡大する中で、米国のミサイル防衛に関する懸念が高まってきた。
2年前、北朝鮮は10回を超えるミサイル実験を実施し、その一部は、米国本土を攻撃可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)とみられるものを含め、多段式ロケットを用いたものだった。また、北朝鮮は水爆実験を行ったとも主張している。
次世代ステルス戦闘機F35を活用する現在研究段階にある構想では、判明している北朝鮮ミサイル基地の周囲を、F35が継続的に飛行することになりそうだ。
(ステルス戦闘機F35)
② ミサイルが北朝鮮から米国の領域に向けて打ち上げられると、F35に搭載された最先端のセンサーがこれを探知し、飛翔体が大気圏を出る前に特殊な空対空ミサイルを発射する仕組みだという。最新ミサイル防衛戦略や国防総省の上層部によって明らかになった。
まず最初に試してみたいのが、このF35を活用する構想だと軍当局者は話す。既存の軍用ハードウェアが利用でき、他の戦略よりも早期に、しかも比較的低コストで運用できる可能性があるからだ。
その一方で、新たな迎撃ミサイルの必要性が明らかになったり、F35は発射されたばかりのミサイルを探知する役割を担うだけで、必ずしも撃墜には関与しない可能性があることが、実験によって判明するかもしれない、と国防総省上層部は警告する。
グリフィン国防次官(研究・技術担当)は先月、国防戦略の見直し発表後、この構想について語るなかで、「コスト効率が高く、数学的、物理学的にも成立しているのではないかと考えている」と述べた。
「見直し」に含まれたその他のアイデアのなかには、ドローンに搭載したレーザーを使って、打ち上げ直後のいわゆる「ブースター段階」でミサイルを阻止する、といったものがある。
ミサイルが最も脆弱なのは、飛行中のこの段階だ。速度は最も遅く、ロケットエンジンからの熱で容易に探知でき、大気圏を脱出するために加速しているため、迎撃ミサイルを回避することもできない。
🚀 <溶けるミサイル>
F35を活用する構想にとって課題となるのは、地理的条件だ。
ワシントンの米有力シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)のミサイル防衛専門家トム・カラコ氏は、北朝鮮の発射するミサイルを待ち伏せする戦闘機は理論上、北朝鮮の領空を尊重する必要があると指摘する。
だがそれだけの距離を保っていては、ミサイル発射地点から遠すぎて迎撃の効果を上げられないということになりかねない。
弾道ミサイルを大気圏脱出前に撃墜するには、改良した空対空ミサイルでもスピードが遅すぎるだろう、とマサチューセッツ工科大(MIT)のミサイル防衛専門家セオドア・ポストル氏は言う。
米防衛大手レイセオン(RTN.N)などが製造する空対空ミサイルでは、誘導に必要な大気密度が得られない高度に到達する前に弾道ミサイルを撃墜するための時間的余裕は、推定200秒しかない。F35が打ち上げを探知し、空対空ミサイルの照準を定め発射するまでに、約50─60秒が必要だということを考えると、撃墜するには、F35が弾道ミサイルに非常に接近している必要がある、とポストル氏は言う。
「発射場所のごく近くにいれば、撃墜は可能だ」と元ロケット科学者のポストル氏は言う。「だが、そこまで接近できる可能性は非常に低いだろう」
はるかに高速で軽量の空対空ミサイルをF35に搭載したとしても、超高速で飛ばなければならない距離が長くなれば、空対空ミサイル自体が溶け始めてしまうだろう、とポストル氏は言葉を説明する。
障害はあるものの、国防総省がこのような選択肢を検討しているという事実そのものが重要だ、とカラコ氏は言う。「これはもっと広範囲なカルチャーの転換を示している」
国防総省が「巨大構想」ではなく、「同省で利用可能な戦術的プログラムで構成される幅広いネットワークに組み込めるような作戦」を検討しているということだと、カラコ氏は分析する。
とはいえ、この計画の実現には困難が伴うだろう。
「発射地点の非常に近く、北朝鮮の領空内に入り込む必要がある」。そう語るのは、科学者団体「憂慮する科学者同盟」でミサイル防衛を研究する物理学者ローラ・グレゴ氏だ。
グレゴ氏によれば、たとえ空対空ミサイルが音速の5倍のスピードで飛行するとしても、F35は標的の弾道ミサイルから約50マイル(約80キロ)以内にいる必要があるという。「現実的には、もっと近くないといけないだろう」
そうなると、ステルス性のない従来機よりもはるかに近くまで発射予想地域に接近できるF35のステルス性が大きな武器になる。
米空軍の元中将デビッド・デプチューラ氏は、「これがF35の優位点の1つだ」と言う。敵レーダーを回避できるF35ならば、「従来機に比べて、敵の発射地域にはるかに接近することができる」
これはつまり、米防衛大手ロッキード・マーチン(LMT.N)製のF35を使うことにより、米国が北朝鮮領空内に戦闘機を飛ばして弾道ミサイルの発射をひそかに監視できる可能性があるということを示している。
(翻訳:エァクレーレン)