(図4: 研究チームが発見した 100 個の超遠方クェーサーが、各パネルの中央に写っています。上7段が新発見された 83 個、下2段が再発見された17個です。超遠方にあるため、宇宙膨張による ☀赤方偏移と宇宙空間での光の吸収効果で、このように非常に赤く観測されます。画像は全て、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ HSC による探査観測で得られたものです。(クレジット:国立天文台))
① ""すばる望遠鏡/超遠方宇宙に大量の巨大ブラックホールを発見<その2""
発見されたクェーサーはどれも地球から約 130 億光年の距離、つまり現在から約 130 億年前の宇宙に存在したことになります (図5)。ビッグバンからその時代までは、現在の宇宙年齢 (約 138 億年) のわずか 5% ほどの時間しか経過しておらず、そのような若い宇宙にも巨大ブラックホールが普遍的に存在することは驚きです。また研究チームの発見した中には、地球からの距離 130.5 億光年のクェーサーが含まれていました (図1)。
現在人類の知る巨大ブラックホールの最遠と次点の記録は、いずれも欧米の研究チームによって達成され、それぞれ地球からの距離 131.1 億光年、130.5 億年です。今回は日本主導の探査により、次点の記録に並んだことになります。
一方で初期の宇宙では、「宇宙再電離」と呼ばれる宇宙空間全体のプラズマ化が起こったことが分かっています。宇宙の歴史の中で極めて重要な出来事ですが、プラズマ化を引き起こしたエネルギーが一体どこから来たのかは未解明です。
有力な仮説の1つとして、未検出の超遠方クェーサーが非常に多数存在しており、それらの膨大な放射エネルギーによって再電離が起こったとの予測もありました。しかし今回の探査によって個数密度が初めて精密測定され、宇宙空間全体をプラズマ化できるほど多数の超遠方クェーサーは存在しないことが明らかとなり、クェーサーによる再電離の仮説は棄却されることになりました。再電離を引き起こしたのは別のエネルギー源、おそらくは初期の宇宙で誕生しつつある多数の銀河ではないかと推測されます。
(図5: 光の伝わる速さが有限であるため、遠くを観測するほど過去の宇宙が見えてきます。研究チームはすばる望遠鏡を使って、手前に広がる銀河宇宙を飛び越え、地球から距離およそ 130 億光年にある超遠方宇宙を探索しました。得られた観測データには今から約 130 億年前の宇宙に存在した多数の巨大ブラックホールが写っていました。ビッグバンからその時代までは、現在の宇宙年齢 (約 138 億年) のわずか 5% ほどの時間しか経過していないことになります。(クレジット:松岡良樹))
今回の研究は、すばる望遠鏡の最新鋭カメラ HSC が持つ世界随一の探査観測能力によって、初めて可能になりました。さらにすばる望遠鏡、大カナリア望遠鏡、ジェミニ望遠鏡という3つの大口径望遠鏡を集中的に使用できたことが、83 個もの超遠方クェーサーを一挙に新発見するという大きな成果につながっています。特にすばる望遠鏡では3年間でのべ 30 夜に渡る追観測が行われましたが、その間に晴天に恵まれたことも幸いしました。
「私たちが発見した多数のクェーサーに対しては、世界中の研究者によってこれから多面的な観測が行われ、詳細な性質が明らかにされていくことになります。また測定された個数密度や明るさの分布を数値シミュレーションの予測と比較することで、初期宇宙での巨大ブラックホールの形成・進化のプロセスに新たな知見を得ることもできるでしょう」と、研究チームを率いる松岡良樹さん (愛媛大学宇宙進化研究センター) は語っています。研究チームでは、今回の成果をもとにさらに遠方への探査を進め、巨大ブラックホールが誕生した経緯を明らかにしていきたいと考えています。
本研究は、日本、台湾、米国プリンストン大学の研究者による国際共同プロジェクトです。愛媛大学の松岡良樹氏がリーダーとして研究チームを率い、追観測の立案・実行や得られたデータの解釈には、主に東京大学の柏川伸成氏、プリンストン大学のマイケル・シュトラウス氏、マックス・プランク天文学研究所の尾上匡房氏、バルセロナ大学の岩澤一司氏、台湾國立清華大学の後藤友嗣氏らが協力しました。その他 40 名近くの研究者が、観測結果を受けた議論などを通してそれぞれに貢献し、本研究を成功に導いたものです。なお本研究を柱とする「巨大ブラックホールの進化に対する観測的研究」の業績に対して、研究チームの松岡氏には2017年度の日本天文学会研究奨励賞が授与されています。
本研究は日本学術振興会の科学研究費補助金 (番号 JP17H04830) と、三菱財団研究助成金 (番号 30140) による援助を受けています。研究成果は5編の学術論文:
(1) "Discovery of the First Low-luminosity Quasar at z > 7", Matsuoka et al., The Astrophysical Journal Letters, 872 (2019), 2
(2) "Subaru High-z Exploration of Low-luminosity Quasars (SHELLQs). V. Quasar Luminosity Function and Contribution to Cosmic Reionization at z = 6", Matsuoka et al. 2018, The Astrophysical Journal, 869 (2018), 150
(3) "Subaru High-z Exploration of Low-luminosity Quasars (SHELLQs). IV. Discovery of 41 Quasars and Luminous Galaxies at 5.7
★ 赤方偏移(せきほうへんい、英: redshift)とは、主に天文学において、観測対象からの光(可視光だけでなく全ての波長の電磁波を含む)のスペクトルが長波長側(可視光で言うと赤に近い方)にずれる現象を指す。
波長λのスペクトルがΔλだけずれている場合、赤方偏移の量 z を
z = Δ λ λ {\displaystyle z={\frac {\Delta \lambda }{\lambda }}} {\displaystyle z={\frac {\Delta \lambda }{\lambda }}}
と定義する。
★ 赤方偏移が発生する原因[編集]
☆光のドップラー効果[編集]
遠ざかる音源からの音がドップラー効果により低くなるのと同様、遠ざかる光源から発せられた光には赤方偏移がおこる。例えば、地球に対して遠ざかるような運動をしている恒星のスペクトルを測定すると、地球から見た視線方向の後退速度に対応する赤方偏移が観測される。
☆宇宙論的赤方偏移[編集]
アメリカ合衆国の天文学者エドウィン・ハッブルは様々な銀河までの距離とその銀河のスペクトルを調べ、ほとんど全ての銀河のスペクトルに赤方偏移が見られること、赤方偏移の量は遠方の銀河ほど大きいことを経験を生かして発見した(ハッブルの法則)。
この事象は、銀河を出た光が地球に届くまでの間に空間自体が伸びて波長が引き伸ばされるためであると解釈でき、宇宙が膨張していることを示すと考えられている。2016年現在、観測されている最も z が大きい(すなわち最も遠方にあると考えられる)天体は z = 11.09 の銀河 GN-z11 である[1][2]。
もう一つの代表的な例として、宇宙背景放射での現象が挙げられる。現在の宇宙では、絶対温度約 3K の黒体放射に相当する放射があらゆる方向からやってきており、宇宙背景放射と呼ばれている。これは、宇宙創成期に宇宙を満たしていた高温状態のプラズマから発せられた熱放射が、ビッグバン後の急激な宇宙の膨張によって波長が引き伸ばされて極端な赤方偏移を受け、現在観測されるような電磁波(特に、マイクロ波)として観測されているものである。これは現在知られている最大の赤方偏移であり、 z = 1089 [3](距離換算で約138.12億光年[4])である。
☆重力赤方偏移[編集]
重力赤方偏移(gravitational redshift)とは、重力場中の光の波長が長くなる現象である[5]。
… 以下、数式がコピー出来ないので省略しました。