(世界のeスポーツ)
① ""一見「ウイイレ」が健闘しているが……世界のeスポーツの波に、日本が乗り遅れている理由 ""
岡安 学 2019/03/20 17:00
昨年はeスポーツ元年と言われ、eスポーツが世界的に大きなムーブメントとなりました。日本はゲーム大国と呼ばれていましたが、それは過去の話。今では海外勢に押されっぱなしです。
それでもNintendo SwitchやPS4が世界でも売れているし、マリオは誰でも知っていることを考えると、弱くなったとは言え、力がなくなった訳ではありません。しかし、ことeスポーツに関しては残念ながら、国産タイトルが世界で遊ばれていることはほぼありません。
なぜ日本はeスポーツの波に乗り遅れてしまったのでしょうか? eスポーツのトレンドとともに振り返ってみたいと思います。
💻 流行のゲームに国産タイトルはほとんどなし
現在のeスポーツにおいて、人気が高く、経済効果も大きいのはMOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)と呼ばれる複数人数で対戦するジャンルのゲームでしょう。『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』はプレイ人口が1億人を超えていると言われていたり、『Dota2』は世界大会の賞金総額が28億円を超えており、いかにその規模が大きいかがわかります。
プレイ人口が1億人を超える『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』
先ほど紹介したタイトル以外に、世界のeスポーツ市場で流行っているのは、『レインボーシックス シージ』や『カウンターストライク』『PUBG』などのファーストパーソンシューティング(FPS)だったりします。これは自分目線で銃撃戦を行うタイプのゲームです。スマホのタイトルだと『荒野行動』がこれにあたります。
自分目線ではなく、プレイヤーキャラクターの背後から見ているような視点でプレイする場合はサードパーソンシューティング(TPS)と呼ばれていたりします。コンシューマ機でもリリースされている『フォートナイト』もこれにあたります。日本のタイトルだと『スプラトゥーン2』がそうですね。また『PUBG』や『荒野行動』もTPS視点でのプレイに切り替えて遊ぶこともできます。残念ながら、ここに取り上げられたタイトルのほとんどが海外製のゲームタイトルです。
💻日本勢が健闘している格ゲーは、そもそもマイナージャンル
日本のeスポーツで人気の高いのが対戦格闘ゲームです。このジャンルに限っては『ストリートファイターVアーケードエディション』や『鉄拳7』など、国産ゲーム(厳密に言えば『ストV AE』は北米タイトル)が頑張っているものの、世界のeスポーツ市場的に考えると、対戦格闘ゲーム自体がマイナーなジャンルであると言わざるを得なかったりします。この人気タイトルの違いも国産タイトルがeスポーツの世界市場へ発信できない理由のひとつでもあります。
★『鉄拳7』
では、何故このような状況に陥ってしまったのでしょうか。理由はいろいろありますが、もっとも大きな理由としては、ゲームを遊ぶプラットフォームの違いがあります。
今、世界のゲームの中心はPCにある
今、世界のゲームの中心はPCにあります。したがってeスポーツタイトルもPCゲームが中心となってしまいます。対して、日本はPCでゲームをするという習慣がほとんどありません。これはコンシューマ機で遊ぶ割合が他国に比べて格段に高く、ゲームは専用機で遊ぶものと考えられているからです。
ただ、世界各国でみるとコンシューマ機は高価で手を出しにくく、わざわざ購入しなければ手に入れられないので、国によっては普及していないところも多くなっています。PCであれば他の用途もあり、自分で購入しなくてもすでに家にある場合や学校などでも触れる機会があるため、ゲーム専用機よりも身近だったりします。
したがって、世界で人気の高い『LoL』や『Dota2』がプレイする環境がないが為に、日本での人気に火が付いていません。つまり、日本と世界ではゲームを遊ぶ環境が違っているところから、eスポーツでも人気タイトルに違いが生じてしまっているというわけです。
★ゲーム販売だけを考えれば、世界を目指す必要はないが……
日本はゲーム市場としては大きい方なので、ゲームを販売することを考えれば、国内だけでなんとかなってしまいます。リアルスポーツでも、世界を目指すのが当たり前となっているサッカーやテニスなどもあれば、国内での活躍がメインとなる大相撲や駅伝などもあるので、eスポーツがグローバルタイトルである必要はありません。
それでも、国産タイトルが国際大会でプレイされることや、グローバルなプレイ人口を獲得することには、国内のみでの展開よりさまざまな利点があります。
★プレイ人口が増えることの利点
たとえば、プレイ人口が多く、そのプレイを観るオーディエンスの数が増えれば、それだけ大きなお金が動くことにもなります。
日本発のゲームでは、昨年、『シャドウバース』の世界大会が開催され、優勝賞金100万ドルの大会として注目されました。これはリアルスポーツの賞金額と比べてもかなり高額ですが、より大きな規模のeスポーツの大会であれば、その数十倍の賞金が出たり、100万ドルクラスの大会が年に数十回行われたり、選手の稼ぐ手段が格段にアップするわけです。
選手の収入の安定はプレイヤーがプロ選手を目指すきっかけとなり、プレイ人口の増加にも繋がります。そして選手層が厚くなると、スタープレイヤーが生まれやすくなり、スタープレイヤーが登場するとファンの数も拡大していくわけです。
そして、プレイヤーの数が増えれば当然、そのタイトルのゲームも売れるようになります。つまりeスポーツで国産タイトルが売れることで、日本のゲーム業界の復活の足がかりになる可能性があるのです。
★ 世界のゲーム市場で、日本の影響力を保ち続けるには
国産タイトルがグローバルなeスポーツタイトルとして認められることを目指すとなると、他のグローバルタイトルと同様にPCでリリースすることが重要になります。しかし、それで世界市場でヒットしたとしても、PCでリリースしたが故に日本でヒットしない可能性もあるわけです。
PCとPS4のどちらでもリリースするマルチプラットフォームで展開することもできますが、それだと結局PS4でプレイする国内プレイヤーが多く出てきてしまい、根本的にPCでのプレイに繋がらず、PCのみでリリースされている人気eスポーツタイトルに国内プレイヤーが新たに触れる機会は増えることがなくなってしまいます。
そうなると、国内のプレイヤーがPCを購入し、そこでゲームを始めるように仕掛けるのか、PCで大ヒットタイトルをリリースし、PCの購入を促すのか、どちらを先にするかで、中々先に進まない話になってしまうのではないでしょうか。
日本でeスポーツが定着するかどうかは、未知数であると言うのが現状だと思いますが、世界ではもはや定着している感はあります。ゲーム市場においてeスポーツが大きく関わってきている以上、そこに国産タイトルが入り込めなければ、世界のゲーム市場において日本のゲームの影響力は確実に落ちてしまうわけです。
先述したとおり、必ずしも世界を目指す必要はないですが、ゲームが日本のお家芸であり、世界をリードしていくことを望むのであれば、やはり世界標準のeスポーツタイトルに、国産タイトルが入る必要はあるわけです。無理に今、中心となっているMOBAやFPSに、新たなタイトルを導入するのではなく、日本らしいタイトルで新たにeスポーツの人気ジャンルとなるゲームを発信できるのがベストではないでしょうか。
(岡安 学)