セブ物語り
Chlistinの事
Mishelがステージに上がっている時にChlistinが入って来た。
ジーンズに、いつもの白いジャケットを羽織っただけの格好なのだが、それがとても眩しかった。
Chlistinは踊っているMishelに手を振って挨拶をし、すぐにSusanaのところへ行った。
普通に会話をするのにも苦労する程の大音響の中で、二人は小声で話していた。
Chlistinが私の隣に座った。
テーブルの上に残されていた数本のサンミゲールの空き瓶とグラスを見て「Mishel?」と彼女が聞いた。
私は「ああ・・・」と短く答えて、ビールは止めてスプライトにしろよ、とChlistinに言った。
彼女は「あら、心配してくれるの?」と、笑いながら、大げさな身振りを交えて言った。
彼女の笑い声が不愉快だった私は「じゃぁ好きなだけ飲んで潰れろよ」と嫌みを言ってビールを煽った。
彼女も私も黙り込んで、気まずい沈黙が続いた。
「Masaya、明日の予定は?」と突然Chlistinが尋ねた。
「午前中にマリーナに行くだけだよ」「なんで?」と答えた。
「私、今日は踊らない。Susanaにはすぐに帰ると言ったから、何も飲まないで店を出る」「Masaya、明日忙しくないんだったら、今夜は私に付き合って」「貴方、先に出てチョーキンの2階で待っていて、直ぐに行くから」と、もう決まった事のようにきっぱりと言った。
彼女の話を聞いて、私は少し不安だった。
女の子を店を通さずに連れ出すと、色々面倒な事になるからだ。
私の不安を察したChlistinが「Susanaには私はOFFだと言ってあるから問題ないよ」と言った。
「OK、分った、じゃあ、シャワー浴びてから30分後にチョーキンに行くよ」と、私が言うと「バカ、そんな必要ないよ、勘違いしないで」とChlistinが言った。
踊り終わったMishelが戻って来て「具合は大丈夫なの?」とChlistinに聞いた。
少し間をおいてMishelが「Masayと私はおしまい、もう私のお客じゃない、貴方のお客よ」と言いだした。
「そんな事言わないでよ、今まで通りでいいじゃない」とChlistinが言うと、「Masayaは貴女しか目に入らないのよ」と言ってMishelは笑った。
私は何も言わずに新しいボトルを貰って、Mishelのグラスにビールを注いだが、彼女の顔を見る事が出来ないでいた。
私はChlistinに目配せをして席を立ち、会計を済ませてドアを開けた。
いつもは二人で店の外まで見送るのに、今日はMishelだけだった。
階段を降りかけた私の背中に「こんな所に天使はいないよ」と彼女がつぶやいた。
私は歩いて2分と掛からないペンションハウスに急いで戻り、シャワーを浴びた。
いつまでもMishelの一言が耳に残って離れなかった。