何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

自由 平等 博愛

2015-11-15 16:35:31 | ひとりごと
「金があるときゃ暇がない 暇があるときゃ金がない」とはよく云ったものだが、私の場合は年から年中「金もなければ暇もない」
そんな私なので、フランスにも行ったことがない。

7月14日に思い入れがあるために、フランスは憧れの国であり、エッフェル塔を背景に街をゆくパリジェンヌを描いた油絵を部屋に飾って眺めてはいるが、花の都パリを訪れたことはない。油絵といっても、街角でベルギー人だという絵描きさんから3000円で買ったものだが、学生だった当時の私としては大きな出費で、今では「なんでも鑑定団」でビックリポンな値がつかぬかと邪な思いを抱きながら眺めたりもしている。


フランスが暴虐に震えている
「世界中で守っている価値に対する戦争行為だ」

このあたりのことを考えると、卵が先か鶏が先か的な思考に陥るので、とにかく暴力は断じて許すことは出来ないと書いて、何時ものごとく本の世界で考えることにする。
とはいえ、フランスが好きだと云いながら、まず浮かぶのは「ベルサイユのばら」(池田理代子)、この関連でもせいぜいが遠藤周作「王妃マリー・アントワネット」
フランス人作家というと、スタンダール「赤と黒」は這う這うの体で読み終えただけであるし、サガン「悲しみよ こんにちは」はあまり理解できなかったし、アンドレ・ジイド「狭き門」の''自己犠牲の精神''は自分には到底無理だと思われたし、「田園交響曲」には救いがないような感じをもった。
帚木蓬生「聖灰の暗号」を読み、フランス文学を理解するにはキリスト教の何たるかが血肉のように身についていなければならないのだと分かり、その理解を諦めた心に唯一響く言葉は「自然に帰れ」(ルソー)だが、これとて、この言葉が書かれた原典を読んだわけでもない。

これでもフランスに憧れているのだから不思議であるが、個人的に7月14日に縁があるので、フランスは大好きな国なのである。

あまり分からないとばかり書いていても情けないので、「星の王子さま」(サン=テグジュペリ作、内藤濯訳)について書いてみる。
ファンタジーが苦手な私なので子供の頃そうそうに放り出した一冊だが、なぜか気になり大人になっても何度か読み返している。
この度のテロでフランスに想いを寄せる時、飛行機乗りのサン=テグジュペリが書いた「星の王子さま」の言葉が心に浮かんだ。
『心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。
 かんじんなことは、目には見えないんだよ』

この本はある意味かなり難しく、読むたびに気になる箇所が違ってくるのは、読む側の心模様を映し出すからかもしれない。
王子様が旅する星にはそれぞれ特徴がある。
命令することしか知らない一番目の星と、自分しか住んでいないのに自分が一番偉いと自惚れている男が住む二番目の星には縁がない私だが、三番目の星のお酒を飲むことを恥ずかしいと言いながら、その恥ずかしさを忘れるためにお酒を飲んでいる呑み助の弱さならば妙に分かる。次なる四番目の星の、星の数をかぞえては紙に書き、その紙を鍵のかかった引出しの中に仕舞い込んでいる実業家になると笑っていられなくなり、六番目の星の部屋から一歩も出ずに他人の見聞をもとに地図を描いている地理学者になると、身につまされて苦しくなる。『探検家が来たら、色々な報告を受けて、相手の話をノートにとる。そして、相手の話を面白いと思ったら、地理学者という者は、その探検家がしっかりした人間かどうか、調べさせるのだ』という地理学者の言葉に、しっかりした本の中にある心に触れる言葉を集めて記している自分の姿が重なり、その滑稽さに哀しくなるのだ。が、この地理学者が王子様に地球を勧めたおかげで王子様は地球へ行き、地球での出会いの中から心を打つ言葉が生まれ、それが王子様に故郷の星に残してきたバラの元へ帰る決心をさせるのだから、他力本願の地理学者もまんざら役立たずではないと思いたい。

地球での出会い
世界でたった一つの美しいバラだと思っていた故郷のバラが、地球には無数に咲いていることを知り悲嘆にくれる王子様に、地球のキツネは話しかける。
『心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。肝心なことは、目に見えないんだよ』
『あんたが、あのバラの花をとても大切に思っているのはね、そのバラのために暇をつぶししたからだよ・・・
 人間というものは、この大切なことを忘れているんだよ。だけど、あんたは、このことを忘れちゃいけない。
 面倒をみた相手には、いつまでも責任があるんだ。守らなきゃならないんだよ、バラの花との約束をね』

自分にとって特別なバラのもとへ帰る決心をした王子様の魂が、去り際に云う。
『ぼくは、あの星のなかの 一つに住むんだ。
 その一つの 星のなかで 笑うんだ。
 だから、きみが夜、空をながめたら、
 星がみんな笑ってるように 見えるだろう。
 すると、きみだけが、笑い上戸の星を見るわけさ。』

夜空を見上げれば笑い上戸の星が瞬いているかもしれないが、あいにく今夜は見えそうにない。

日の入りを見るのが好きな王子さまは云う。
『だって・・・・・かなしい時って、入り日が好きになるもんだろ・・・・・』

フランスのかなしみに心を寄せて、入り日の方角へ祈りを捧げる、夕刻である。