風を紡いで

旅の記録と料理、暮らしの中で感じた事などを綴っています。自然の恵みに感謝しながら…。

レモン哀歌

2006年06月08日 | アート(本 美術 映画 音楽etc)
   
そんなにもあなたはレモンを待っていた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとった一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トハアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱっとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの手の力の健康さよ
あなたの咽喉に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた

それからひと時
昔山(さん)てんでしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まった
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう

-高村光太郎の詩集から-


光太郎の詩のなかでも
この「レモン哀歌」は
とくに好きでした。
よく暗誦したものです。
昔は、深く意味を考えることもなく
読んでいましたが…。

身近な大切なひとたちが
次々と旅立っていくと
言葉のひとつひとつが
じんわりと深く
胸にしみてきます。

コメント (2)
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