娘たちがまだ小学生の時でした。
遠い昔のことです。
低学年の二女と仔犬―そして私たち家族の話です。
三月のある土曜日のことでした。
小二の娘が学校から帰ってきました。
赤い手提げ袋を大事そうに抱えているのです。
何か訴えるような目をしています。
「どうしたの?」
「あのね…」
「え?どうしたの?」
「あ・の・ね…」
「う?うん」
そんなやりとりのあと、ポツリポツリ話し始めました。
「学校の帰り道にね、竹やぶのなかで仔犬の鳴き声がするの」
「うん」
「そっちの方へ行ったらね、ダンボールの箱があったの」
「それでね、見たらワンちゃんがいたの」
「そう」
「クー、クー鳴いてた。そしてね、ブルブルふるえてるの」
「うん、うん」
「ともだちのお家につれて行くんだけど…。それまで家にいてもいいでしょ?」
「う~ん。ちょっと待って…。ママも、パパも仕事してるよね」
「うん」
「おねえちゃんも学校でしょ。誰がワンちゃんをみるの?」
「う…うん?」
私がそう話したものだから、彼女は必死に何か考えているようです。
本人は嘘のつもりはなく、何とかして家で飼えるように訴えます。
よく、聞いていくと、友達の家の人にも聞いてないようなのです。
本当に困ってしまいました。
そうかといって、元に戻すわけにはいきません。
ダンボールの中とはいえ、外に放り出せません。
すぐ命が消えてしまうのは、目にみえて明らかだったからです。
そうでなくても、弱々しい仔犬です。
目も開いてなくて、よたよたしてまだ立てないのです。
ほんとに、生まれて間もない痛々しいほどの小さないのちでした。
娘が必死に訴えます。
「じゃあ、パパが帰ってきたら相談してみようね」
娘の安心したような顔。
ダンボールの中に古いトレーナーを敷いて、仔犬の仮の部屋ができました。
テーブルの上に箱を置き、娘が父親あてに書いた手紙を箱の前に…。
夫が帰宅すると、仔犬の話になりました。
「僕が散歩させるよ。大丈夫だよ、ママ」
「私も遊んであげるよ」
夫と長女は、もう飼うつもりのようです。
「結局、私が面倒見ることになるのよね」
「そんなことないよ。協力するよ。大丈夫!」
「そう?じゃあ、元気になるまでね。少し大きくなるまでよ」
ということで、我が家で預かることにしたのです。
「うわ~い!うわ~い!」
娘の笑顔がはじけました。
今でも、その時のほっとした顔が忘れられません。
その夜は大変でした。
近所の獣医さんのところに行き、見てもらったのです。
「この仔にはどうしてやることもできない。このミルクあげるから少しずつ飲ませなさい」
そうおっしゃり、動物用のミルクをくださったのです。
「あとは、この仔の生命力が勝負だね」
小さな小さないのちです…。
いのちの灯が今にも消えそうなのです。
家に戻ってから、毛布やアンカを出してきて暖めました。
人肌に温めたミルクを哺乳びんに入れて飲ませようとしたのですが…。
娘が赤ちゃんの時に使った哺乳びんが、捨てないであったのです。
それを使ってみたのですが、どうもうまくいきません。
ガーゼに含ませても駄目です。
夫が指に牛乳を浸して仔犬の口に持っていきました。
するとどうでしょう。吸い付いたのです!!
娘たちも少し安心したようでした。
「パパとママが見ているから心配しないで。もう遅いから寝なさい」
娘たちを寝かせて、夫と二人で交替で世話をすることにしました。
週明けまでどちらかが起きているようにして必死で看病しました。
夫と交替で寝ずの看病をしたからでしょうか。
娘たちも学校から急いで帰ると、面倒を見たのです。
私達家族の熱意が通じたかのように、少しずつ元気になったのです。
秋田犬とシェパードが混じったような雑種でした。
クー、クー鳴くので、名前は「クー」に決めました。
白々と夜が明ける頃。私がみている時でした。
仔犬がうっすらと目を開けたのです。
どうも私を母親と思っているようです。
動物は一番最初に見たのを(人間でも)母親だと思うのでしょうか。
そんなことを聞いたことがあります。
「クーってさ、絶対人間だと思っているよね」
長女が言いました。
すると「わたしのおとうとだよ」と二女。
「我が家の末っ子だね」と夫がにっこり。
いつの間にか、彼は家族の愛情を一身に背負っていました。
もう、なくてはならない家族の一員です。
暗黙のうちに我が家で飼うことになっていました。
おとなしくて賢い、性格のいいクーでした。
キャンプの時も、実家に行く時も、桜のお花見も…いつも一緒でした。
ほんとに愛らしいクーだったのです。
遠い昔のことです。
低学年の二女と仔犬―そして私たち家族の話です。
三月のある土曜日のことでした。
小二の娘が学校から帰ってきました。
赤い手提げ袋を大事そうに抱えているのです。
何か訴えるような目をしています。
「どうしたの?」
「あのね…」
「え?どうしたの?」
「あ・の・ね…」
「う?うん」
そんなやりとりのあと、ポツリポツリ話し始めました。
「学校の帰り道にね、竹やぶのなかで仔犬の鳴き声がするの」
「うん」
「そっちの方へ行ったらね、ダンボールの箱があったの」
「それでね、見たらワンちゃんがいたの」
「そう」
「クー、クー鳴いてた。そしてね、ブルブルふるえてるの」
「うん、うん」
「ともだちのお家につれて行くんだけど…。それまで家にいてもいいでしょ?」
「う~ん。ちょっと待って…。ママも、パパも仕事してるよね」
「うん」
「おねえちゃんも学校でしょ。誰がワンちゃんをみるの?」
「う…うん?」
私がそう話したものだから、彼女は必死に何か考えているようです。
本人は嘘のつもりはなく、何とかして家で飼えるように訴えます。
よく、聞いていくと、友達の家の人にも聞いてないようなのです。
本当に困ってしまいました。
そうかといって、元に戻すわけにはいきません。
ダンボールの中とはいえ、外に放り出せません。
すぐ命が消えてしまうのは、目にみえて明らかだったからです。
そうでなくても、弱々しい仔犬です。
目も開いてなくて、よたよたしてまだ立てないのです。
ほんとに、生まれて間もない痛々しいほどの小さないのちでした。
娘が必死に訴えます。
「じゃあ、パパが帰ってきたら相談してみようね」
娘の安心したような顔。
ダンボールの中に古いトレーナーを敷いて、仔犬の仮の部屋ができました。
テーブルの上に箱を置き、娘が父親あてに書いた手紙を箱の前に…。
夫が帰宅すると、仔犬の話になりました。
「僕が散歩させるよ。大丈夫だよ、ママ」
「私も遊んであげるよ」
夫と長女は、もう飼うつもりのようです。
「結局、私が面倒見ることになるのよね」
「そんなことないよ。協力するよ。大丈夫!」
「そう?じゃあ、元気になるまでね。少し大きくなるまでよ」
ということで、我が家で預かることにしたのです。
「うわ~い!うわ~い!」
娘の笑顔がはじけました。
今でも、その時のほっとした顔が忘れられません。
その夜は大変でした。
近所の獣医さんのところに行き、見てもらったのです。
「この仔にはどうしてやることもできない。このミルクあげるから少しずつ飲ませなさい」
そうおっしゃり、動物用のミルクをくださったのです。
「あとは、この仔の生命力が勝負だね」
小さな小さないのちです…。
いのちの灯が今にも消えそうなのです。
家に戻ってから、毛布やアンカを出してきて暖めました。
人肌に温めたミルクを哺乳びんに入れて飲ませようとしたのですが…。
娘が赤ちゃんの時に使った哺乳びんが、捨てないであったのです。
それを使ってみたのですが、どうもうまくいきません。
ガーゼに含ませても駄目です。
夫が指に牛乳を浸して仔犬の口に持っていきました。
するとどうでしょう。吸い付いたのです!!
娘たちも少し安心したようでした。
「パパとママが見ているから心配しないで。もう遅いから寝なさい」
娘たちを寝かせて、夫と二人で交替で世話をすることにしました。
週明けまでどちらかが起きているようにして必死で看病しました。
夫と交替で寝ずの看病をしたからでしょうか。
娘たちも学校から急いで帰ると、面倒を見たのです。
私達家族の熱意が通じたかのように、少しずつ元気になったのです。
秋田犬とシェパードが混じったような雑種でした。
クー、クー鳴くので、名前は「クー」に決めました。
白々と夜が明ける頃。私がみている時でした。
仔犬がうっすらと目を開けたのです。
どうも私を母親と思っているようです。
動物は一番最初に見たのを(人間でも)母親だと思うのでしょうか。
そんなことを聞いたことがあります。
「クーってさ、絶対人間だと思っているよね」
長女が言いました。
すると「わたしのおとうとだよ」と二女。
「我が家の末っ子だね」と夫がにっこり。
いつの間にか、彼は家族の愛情を一身に背負っていました。
もう、なくてはならない家族の一員です。
暗黙のうちに我が家で飼うことになっていました。
おとなしくて賢い、性格のいいクーでした。
キャンプの時も、実家に行く時も、桜のお花見も…いつも一緒でした。
ほんとに愛らしいクーだったのです。