HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)取り扱いに関する法的位置付けをどう議論するのか。議論するとしてもアルコールや抗精神薬、その他もはや過去のものとなってきた違法薬物の使用に関する研究データはすでに膨大であることと比較して従来のマリファナ(THC=テトラヒドロカンナビノール)に関する研究データは依然として低い。さらにアムステルダムのカフェやハワイの至るところで買えるマリファナ(THC)一つ取ってみても製造工程の違いによりけりで軽量級からヘヴィ級まで様々なものがある。それでもマリファナ(THC)の効果は欧米で解禁されてそこそこ臨床データもありしっかりしたガイドラインが設定されていれば「げ、大麻!?」と驚く人々はさほどいない。少なくとも海外では。
しかし単純素朴なTHC(=テトラヒドロカンナビノール)の吸引とは数段階ほど異なるHHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)のリキッド摂取をいきなり始めれば倒れたり嘔吐をもよおしたりする人間は当然出てくる。議論が時期尚早と言いたいわけではなく、議論を通して改めて薬物とは何か、嗜好品とは何か、その利点と輸入製造販売使用禁止も含めた避けるべきリスクについて問われなくてはとおもうのである。
アルコール依存症者かつ遷延性(慢性)うつ病者の立場からでしかないが、それでもなお完治不可能な病いと二十年以上付き合ってきておかげさまでまだ生かせてもらえている立場でもある。これまで主として薬物療法を取り入れた日常生活と治療体験の中で想定外の症状が現出するその都度様々な処方薬を慎重に選択服用してきた。例えば、処方薬の中にフルニトラゼパム(旧商品名ロヒプノール)という薬剤がある。服用し始めてもう二十年ほど。そんなフルニトラゼパムとはどんな薬剤か。主だった国の法的規制から見てみる。
(1)アメリカ全土で持ち込み禁止。旅行者がやむを得ない事情(重度の不眠症・難治性心身障害患者)で持ち込む場合、証明書の提示・確認が必要。
(2)イギリス全土で処方禁止(NHSブラックリスト)。例外的に難治性心身障害患者が処方箋を提示できる場合に限り利用可能。
(3)中国全土で新型合成麻薬指定。取り締まり(逮捕)対象。
(4)オーストラリア全土で覚醒剤・麻薬相当指定。取り締まり(逮捕)対象。
上記フルニトラゼパム取扱規定を押さえた上で続けよう。従来型マリファナ(THC=テトラヒドロカンナビノール)に関する日本の法的対応は中国式対応に最も近い措置。またTHCのリラックス効果はタバコよりはるかに高い。個人差は飲酒と同じほど幅広いと言われているが、リラックス効果という点ではマリファナに慣れた愛好家の場合、一本でおよそタバコ百本ほど。とはいえ、マリファナもタバコも発ガン性物質を含んでいるため、いずれにしても受動喫煙問題はどこまでも付いて回る。
一方アルコールの場合はとにかく自動車事故やDVによる死者が多過ぎる。さらに依存症を患った場合、連続飲酒が続けばほんの二日ほどで町内一の有名人になってしまうような畏れ多いことを仕出かす。かくいう自身も自動車事故やDV加害とは無縁でありこそすれ、後者のケース、ほんの二日ほどで町内一の有名人になってしまうような畏れ多いことを二度ほど仕出かした張本人(あと一歩で前科が付く寸前だった)、そんな一人である。
また、これまで日本でマリファナ市場が一切合切入ってくることができなかった最大の理由はマリファナによるリスク面だけでなく、JT(財務省所管)と大手酒類メーカー(国税庁管轄)の既得権益の巨大さ抜きに語れない事情がある。
それはひとまず措くとして。法的にどうこう言う前に従来型のマリファナを取り巻いてきた「いろは」の「い」だけでも。議論の土台がまず無いに等しい。なぜか。
経済的にも時間的にも専門文献に目を通すのがはなはだ困難な日本の非-学問的環境風土あるいはここ十五年の長きにわたる「民度」の極端な低下を上げねばならない。それに鑑みツッコミどころ満載ではあるものの、わかりやすさを優先して、二十年以上用いている抗精神薬「フルニトラゼパム」について、ウィキペディアからまずまず妥当と思われる箇所を七個ほど引用したい。
(1)日本のベンゾジアゼピン系の乱用症例において最も乱用されている(2013年)。
(2)日本の精神科治療薬のうち過剰接種時に致死性の高い薬の1位である(2016年)。日本の研究では、乱用者の35%が1年以内に自殺企図を行っており、アルコールや覚醒剤の乱用者よりはるかに高いとされる(2016年)。
(3)ベンゾジアゼピンと非ベンゾジアゼピン系を含めた日本の乱用症例において、1位である(2016年)。
(4)スウェーデンでの調査(2000年)では、フルニトラゼパムは自殺目的で二番目によく使われる薬であり、15%を占めることが分かった。
(5)アルコールはフルニトラゼパムの効果を増強させる。カート・コバーンはフルニトラゼパムとシャンパンのカクテルを常用し始めたがその数週間後に自殺。
(6)アルコールとの併用で、比較的高い確率で健忘を引き起こすことがあるため、アメリカ、イギリスなどでデイトレイプドラッグとして強姦等に利用された。被害者が健忘によって、薬を飲まされた間やその前後に起こった出来事を覚えていないことが多く、加害者が特定されにくかったためである。1997年に、商品名ロヒプノールのアメリカ合衆国での製造会社は、飲料に混入しても無味無臭であったことから、錠剤を緑色の長方形にし、液体を青く染めるように改良した。2015年(平成27年)には日本でも厚生労働省が通知を出し、中外製薬とエーザイは2015年(平成27年)10月出荷分から、錠剤内部に青色色素を混和し、粉砕したり液体に溶かすと、青色の色素が拡散するよう、錠剤の変更を行なった。
(7)フルニトラゼパム断薬時には、反跳作用が断薬後4日程度発生する。
前提としてどんな薬物でも乱用されうる。だが欧米ではこんなにも、ことによると日本でいう「大麻」以上に危険視されているフルニトラゼパム単体での乱用というケースはまず見られないだろうとおもう。目立って気になるのは「自殺」だ。
一度に大量摂取した場合、ぐっすり眠り込んだままの状態に陥り、並行して過度の筋弛緩作用、呼吸停止、心停止に至る。言い換えれば「痛みを感じない」まま死んでしまう。ロープもナイフもわざわざ階段を登ることも階段から飛び降りることも必要ない。ところが瞬時に死ねるわけではなく時間がかかる。だから途中で発見され未遂に終わることが少なくない。自殺未遂はその後の人生をますます苦しいものに置き換える。
ほとんどの乱用事例はアルコールと他の薬物とのカクテル。若年層に多いうっすら虚しい馬鹿騒ぎか、おとなの場合は逆にとにかく一人にさせてほしい、もう休ませてくれ、ほっといてくれといった気分に陥った際。または一見解決不能に見える幾つもの問題(多重債務、職場でのトラブル収拾、生活環境、家族問題、いじめ等)を抱え込まざるを得ない立場に立ち至った時など。いずれにしても「しらふ」に戻ればますます困難な状況に直面することになる。
(6)の「アルコールとの併用で、比較的高い確率で健忘を引き起こすことがあるため、アメリカ、イギリスなどでデイトレイプドラッグとして強姦等に利用された。被害者が健忘によって、薬を飲まされた間やその前後に起こった出来事を覚えていないことが多く、加害者が特定されにくかった」問題。覚えている人々も案外いるかとは思う。続出していた性犯罪の典型例の一つ。もっとも、フルニトラゼパムに限らずベンゾジアゼピン系薬物は手に入りやすい環境があったし今なおある。原則的に精神医療にかかっておりフルニトラゼパムを服用せざるを得ない患者の場合にのみ処方されるわけだが、詐病し服用せずに溜め込んでおき犯罪する人々が増えた。これをきっかけに錠剤を舌の上に載せた途端、舌の表面がみるみる青色に染まっていく加工が施された。同時に「商品名ロヒプノール」から後発薬「フルニトラゼパム(ロヒプノールの薬剤名)」へと変更された。
(7)に記載の「断薬時には、反跳作用が断薬後4日程度発生」。いわゆる離脱症状の一種。大昔は「禁断症状」と言った。幻覚・幻聴、長時間に渡る独りごと、突然気を失って倒れる。手足の痙攣。目が回って止まらなくなる。布団から出るのが怖くなる。風邪でもないのに極度の悪寒。全身のかゆみ、筋肉痛、関節痛。勝手に手足が動いたりする。全身倦怠感。嘔吐など。
フルニトラゼパムがこれほど危険視されている事情について、一九二〇年代世界大恐慌でアルコール依存症者激増を経験した欧米、特にアメリカは、どう対処していいかさっぱりわからず後手後手に回るほかなかったという苦いトラウマがある。ところがアルコールがらみの問題解決法が確立されてくるとともに戦後登場してきたベンゾジアゼピン系薬剤がらみの問題との共通性に気づくことになる。アルコールの場合、(7)はおおむねこうなる。
(7)「断酒時には、反跳作用が断酒後一週間~二週間程度発生」。離脱症状はアルコールとあまり変わらない。けれどもアルコールの場合、離脱症状出現時間が長いというのはわかるにせよ、摂取時の言動にそもそも違いがある。
日本では高度成長期に全国的規模で爆発的に増えた。仕事帰りにたらふく飲む。体を壊すケースはふつうにあるのでしばらく措くも、帰宅後もまた飲む。しかも醸造用アルコールにこれでもかと砂糖を目一杯詰め込んでなんとなく重量感を感じさせているに過ぎない安酒を「辛口」と謳った超甘口。飲んだまま眠りこけてしまう。連続飲酒に発展するとぐうぐう眠り込んでいる間に便意をもよおし泥酔したままふらふらで目を回し、どこがトイレかわからない。タンスを便器と間違える。糞尿を出しているうちに後ろへ倒れる。起きあがろうとするとあらぬ方向へ起き上がり、よろめきつつ壁に顔面をぶつけ、間違えたと思う間もなく後ろへ倒れる。いけない、しっかりトイレへ戻らねばと注意深いつもりで床を探りながら這ってでもトイレへ戻る途中で肛門がゆるみそこでどろどろ糞尿を撒き散らす。さらにトイレへ向かわねばと動けば動くほど途中でちょいちょい出した小便溜まりで足をすべらせ転んでしまい、そこでまた糞尿をどろどろ垂れ流す。ようやく布団へ戻ってきたと思い気が抜けるや否や布団の中で糞尿をだらだら滴らせてあますところがない。
そして朝。目はなかなか覚めない。気になった家族、例えば心配した娘が飲んで寝ているはずの親の部屋のドアを開ける。その瞬間、目をおおうような光景が目に入るまでもなく、あまりにも異様な激臭が娘の鼻目がけて襲いかかる。そんなことが一度だけならまだしも、二度も三度も繰り返されたら、それは家出したまま二度と帰ったこない娘はわんさといる。吹き荒れるDV、家庭崩壊、カルト入信、多重債務ーーー。
欧米は戦前からアルコールに厳しい。と同時に似たような状態に陥りがちなフルニトラゼパムには同等かそれ以上に厳しい。エコノミック・アニマル社会の末路を用意することは目に見えている。そこで従来型のマリファナのリラックス効果導入解禁が視野に入ってくる。精神的な負担感のすみやかな除去機能が期待された。しかしそれは、現行の新自由主義経済が押し進められている限り、またしてもアメリカ型の伝統的「ハッスル労働」の回転率を上げることだけを目指そうとする方向へ進路を変える。どれほどすみやかにストレス解消してみても解消されて元気が戻れば戻るほどますます職場で余計な仕事が増えていく。
アメリカは泣くことがなかなか許されない社会である。泣きたい人は泣いても許してもらえる場所へ行けばいい。そんなわけで泣ける場所をいろいろ作った。笑える場所もいろいろ作った。そこそこ名のある企業のトップまで時々泣き出す始末。増えていく自殺者。仕方がなかった。アメリカはすでに半分壊れてしまっていたことを(内心だけだが)認めた。アメリカは悲しい。大きな子供のようだ。泣きたくなるたびに空爆する。
アメリカといっても、その医療現場では。心身ともに故障して病気を患っている人々が、そのリスクを承知した上で、医療用大麻の吸引を許されている。州によって異なるが、娯楽用もある。
自身の話に戻りたい。
フルニトラゼパムとアルコールとの比較から見て書き込める限りで書いてみた。アルコール依存症と遷延性(慢性)うつ病とをともに背負い込んでいると、特に遷延性うつ病の場合、フルニトラゼパム(2m g)一錠を単体だけではとても眠れない。不眠と発作的うつ病の重度化は一緒に襲いかかってくる。いつ来るか、わからない。それに備えてどうしているかというと、うつ病治療薬「トリンテリックス」(10m g)二錠とレキソタン(2m g)四錠、さらにエバミール(1m g)二錠を就寝前に合わせて服用する。毎日のルーティンである。それでも眠れない夜はしばしば。もう慣れた。しかし抗精神薬を用いる薬物療法に慣れていない患者がいきなりこのセットを用いるとどんなことが起こるだろうか。想像するとちょっと怖い。
このセットを缶ビール(500g)で飲み干したとしよう。日本で問題になっているHHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)を不用意にぱくぱく食べて病院に担ぎ込まれた人々と同じようなことが起こる。アナフィラキシーショックを起こし、回復したとしても後遺症が残ることがたまにある。これまで語ってきたマリファナは従来型のTHC(=テトラヒドロカンナビノール)にそこそこ慣れた人々でなおかつ依存症を患っていない場合にのみ当てはまると考えてもらえたらと思う。