間が空いてしまいましたが、「3年半ぶりの福岡旅行 #2-4」のつづきも福岡市美術館の見聞録です。
福岡市美術館の「常設展示」はなんとも盛り沢山
で、「#2-4」で書いた企画展「田中千智展」のほか、「コレクションハイライト」、「九州の女性画家たち」(~3月21日)、「東南アジア美術を旅する タイ、カンボジア、ミャンマー」(~4月9日)、「東光院のみほとけ」、そして「松永耳庵と同時代の美術家」(~4月2日)と、150円(JAF割引)の入館料が信じられない
ほどでした。
市立美術館でこんな展示を見せてくれるところって、そうそう無いと思います。
「コレクションハイライト」は、大きく2つのパートに分かれていて、一つ(2つのハイライト)は、福岡市美術館が近現代美術をコレクションするにあたっての二つの軸、「九州・西日本で展開したローカルな美術の流れと欧米中心の美術の流れ」に焦点をあてたもの。もう一つ(分かり合い、分かち合う美術)は、「多様な表現で身近な主題や感覚を掘り下げ、または社会の課題に応答する作品たち」というコンセプトなのだそうな。
「2つのハイライト」は、青木繁、坂本繁二郎、野見山暁治といった福岡出身の大家の作品などに対して、海外勢もシャガール、デルヴォー、ミロ、ダリと、相当なメンツが揃って、福岡市美術館コレクションのハイライト中のハイライトといった感じでした。
それにしても、ミロの「ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子」は、どれがどれやら… でした
「分かり合い、分かち合う美術」はちょっと散漫な感じがなきにしもあらずでしたが、これは と思う作品がいくつもありました。
まず、「え"」と思ったのが、山本高之「なまはげに質問する」。
この作品は、数人の子どもたちが次々と「なまはげ」に質問するというビデオ・インスタレーション(タイトルそのまま
)で、まさか福岡で「なまはげ」をモチーフにした作品に出会うとは思いませんでした。
ウォーホルの「エルヴィス」とバスキアの「無題」が向き合うように展示されていたのには、二人の関係に考えが及んで、グッと来ました。
近現代美術の展示では例外的に撮影可だったのが、インカ・ショニバレCBEの「桜を放つ女性」でした。
説明板を読んでへぇ~と思ったのはつぎのくだり。
本作で用いられている、ショニバレのトレードマークでもある色鮮やかな布は「アフリカンプリント」と呼ばれますが、英国やオランダで製造されたインドネシアのバティックの模倣品が19世紀末から20世紀初め頃西アフリカに輸出され、現地に受け入れられ現在の形になったという歴史があります。
アフリカンプリントは欧州がアフリカに持ち込んだということは国立民族学博物館の展示で知っていましたが、そのまた根っこがインドネシアにあったとは知りませんでした
アフリカにとって「19世紀末から20世紀初め」といえば、大西洋奴隷貿易が廃止されたかと思ったら、今度は欧州諸国による植民地化が進められた時期です。また、インドネシアは17世紀からWW2後までずっとオランダ(またはオランダ東インド会社)の植民地(いわゆる蘭印)でしたから、アフリカンプリントは、欧州諸国をハブにした植民地間の「文化の交流」と言えるかもしれません
ただ、この色づかい、アフリカの人たちのお気に入りになって、今や「アフリカっぽい」と思われるようになったのは、結果オーライ
かな?
「コレクションハイライト」で私が気に入った TOP 2 は、キーファーの「メランコリア」と、カプーアの「虚ろなる母」でした。
ただ、どちらも「お持ち帰り(妄想)」するにはデカ過ぎます
「メランコリア」は、鉛色の爆撃機。
キーファーがこの作品にこんなタイトルをつけたのは、爆撃機というおぞましい飛行機が「昔、こんなモノがあったなぁ…」という記憶に化す未来を望んでのことかなぁと思ったりして…
そして「虚ろなる母」。
この作品、おもしろい
一見、鮮やかなブルーの繭状のものを半分に切ったように見えたのですが、どうやら違います。卵の殻を半分に切ったような物体です
凹んでいるはずの内側は、手前こそ外側と同じ鮮やかなブルーなのに、奥の方は暗くてまったく見えません まるで無限∞の暗闇が広がっているみたいです
上の作品タイトルに福岡市美術館のサイトへのリンクを貼って、そこで作品の小さな写真を見たり解説を読むことができますけれど、この作品こそ、生で現物を拝見(体感)しないことには、その凄さは判らないだろうな…
まさしく、「百聞は一見に如かず」です。
福岡市美術館には松永記念館室という展示室があります。
この展示室は、
戦後の電力再編事業を通して日本の発展に寄与した松永安左エ門氏(号「耳庵」)が収集した茶道具、仏教美術など重要文化財20件を含む371点のコレクション。コレクション展示室 古美術の「松永記念館室」にて展示 (1~2か月ごとにテーマを変えて展示替え)。
というもので、益田鈍翁や原三渓などと並ぶ「近代数寄者」の大物、松永耳庵のコレクションを展示するコーナーです。
何度も書いているように、書と茶道関係に疎い私としては、「そうか、そうか…」程度の感想しか持ち合わせなかったりもするのですが
、耳庵のコレクションは、行きつけ(?)の東京国立博物館(トーハク)でしばしば拝見
しています。
きのうもトーハクで、耳庵から寄贈されたものを観てきました。
茶室「春草廬(しゅんそうろ)」です。
トーハクの説明碑によると、
江戸時代、河村瑞賢が摂津淀川工事の際に建てた休憩所で、その後大阪に移され、明治初期は原富太郎(三渓)が所蔵していた。昭和23年(1948)、松永友左エ門氏から柳瀬荘(埼玉県所沢市)とともに当館に寄贈され、昭和34年に現在の位置に移された。
だそうで、福岡市美術館にはこの春草廬の一部が再現されていました。
掛軸は尾形乾山「花籠図」、茶道具は、伝・西村道仁「茶釜(政所釜)」、志野矢筈口水指 銘「末広」、清厳宋渭作の茶杓 銘「茶僧」友筒、黒織部筒茶碗 銘「さわらび」、盛阿弥作の黒塗中棗だそうですが、やはり私には「そうか、そうか」でした
この記事を書くにあたって、松永耳庵さんの別荘「柳瀬荘」はどこにあるのだろうか?と調べたら、R254(川越街道)とR463(浦所バイパス)が交差する英(はなぶさ) ICのすぐ近くでした(東武東上線の柳瀬川駅からはあまり近くない)。その近くは何度も通ったことがあるぞ
外観だけなら毎週木曜日のみ無料公開されているそうなので、いつか行ってみます。
それはさておき、茶道関係にはさしてときめかない私ですが、室町時代(16世紀)に描かれたという「平家公達草紙」はイイなぁ となってしまう私でした。
色彩豊かな絵巻も良いけれど、墨の線で描かれる「白描画」ってのもイイものです
(こちらをご参照方)。
このあと、「仙厓グッズ」豊富なミュージアムショップを眺めて、そして何も買わずに、館外に出ました。
やはり、これで「入館料150円」は安すぎるんじゃないか? と思ったところで「#2-6」につづきます。
つづき:2023/04/12 3年半ぶりの福岡旅行 #2-6