これは内田樹と高橋源一郎との対談であり、インタヴュアーは「SIGHT」編集長の渋谷陽一。
この対談は季刊発行の総合誌「SIGHT」の40号(2009年7月号)から45号(2010年11月号)までに連載されたものに、
さらに雑誌の紙面の都合でカットした部分も復活できたというもの。
この本の出版社「ロッキング・オン」は、ロック雑誌を40年近く作り続けてきましたが、
「SIGHT」という総合誌を手掛けることになった。
その時の編集方針が「インタビュー主体」であり、つまり口語体での雑誌を目指したとのこと。
対談も面白かったのですが、こういう雑誌を目指した渋谷陽一の姿勢にも興味があるなぁ。
対談の時期は、民主党の鳩山首相就任の頃から始まっています。
つまり与党と野党が入れ変わった時期であり、「今後の政治はどうなるのか?」
「いやどうにも変らないんじゃないか?」という、少々親しい友人の会話という雰囲気であり、
お互いが別の視点から言葉を発するというよりも、仲良しの友人が「うん。そうだよね。」というような対談でした。
インタヴュアーの姿勢も同じ。これがちょっと物足りないのですが。
内田樹(1950年生まれ)と高橋源一郎(1951年生まれ。彼は早生まれゆえに内田樹と同学年である。)が
大学時代に「全共闘」がおわって「ニヒリズム」の時代になって、その1年下の高校生だった渋谷陽一の時代は
「楽観主義」の時代に入っていたという。この1年の差が大きな考え方の差異を生む結果となった。
この、ほぼ同世代が語る政治談議。
言葉も軽いテンポで進む。読みやすいけれど、しかし要点は突いているようでした。
この東日本大震災の時期に、この本を読んだということもタイミングがよかったような気がします。
つまり政治家がどのような発想で行動し、なにを求めているのかがよくわかります。
そして日米関係のことも含めて。
渋谷陽一編集長が求めたものは、2ページほどで書かれる、政治学者や経済学者による「政治論」よりも、
ロング・インタビューの中から生まれてくる言語によって機能する「政治論」を目指していたということ。
……というわけで、この1冊では終わらないようでした。
(2010年初版・株式会社ロッキング・オン刊)