今日は、詩人清水昶さんの三回忌です。
この日にお名前をつけてあげたい。
「野の舟忌」はいかがでしょうか?
野の舟 清水昶
うつぶせに眠っている弟よ
きみのふかい海の上では
唄のように
野の舟はながれているか
おれの好きなやさしい詩人の
喀血の背後でひらめいた
手斧のような声の一撃
それはどんな素晴らしい恐怖で海を染めたか
うつぶせに眠っている弟よ
きみが抱え込んでいるふるさとでは
まだ塩からい男たちの
若い櫂の何本が
日々の風雨を打ちすえている?
トマト色したゆうひを吸って
どんな娘たちが育っているか
でもきみは
おれみたいに目覚めないことを祈っているよ
おれは
上半身をねじって
まっすぐ進んでゆくのが正しい姿勢だと思っているが
どうもちかごろ
舌が紙のようにぺらぺらめくれあがったり
少しの風で
意味もなく頭が揺れたりして
もちろん年齢もわからなくなっている
だからときどき
最後の酒をのみほしたりすると
はげしい渇きにあおられて
野の舟の上でただひとり
だれもみたことのない夢へ
虚無のように
しっかりと
居座ってみたりするのさ
《詩集・野の舟》より。
(昭和49年・1974年・河出書房新社刊・「叢書・同時代の詩Ⅲ」)
亡霊になってはじめて人間は
生きているみたいになつかしい
《詩集・詩人の死》より。詩作品「北村太朗」より抜粋しました。
《追記》
「Weekly "ZouX" 329号(2013年5月26日発行)に兄上の清水哲男さんが、昶さんの「三回忌」宛てに俳句を詠んでいらっしゃいます。