31
朝ぼらけ 有明の月と みるまでに
吉野の里に 降れる白雪 (坂上是則・さかのうえのこれのり・生没年不詳)
明け方に、月の光が地上を照らしているのかと思うほどに、吉野の里は一面の雪である。
32
山川(やまがは)に 風のかけたる しがらみは
流れもあへぬ 紅葉なりけり
(春道列樹・はるみちのつらき・生年未詳・遠喜二〇年・九二〇年没)
「しがらみ」とは、水の流れをせき止めるために、川に杭を打ち込んだもの。
農業用水を引く設備であるが、ここでは人ではなく、風が仕掛けたと言っている。
おそらく、思いをせき止められたのではないか? 柵。これを「しがらみ」と読むらしい。
33
久方の光のどけき春の日にしず心なく花の散るらむ
(紀友則・九〇五年頃没・享年六〇歳くらい。)
紀友則は、貫之の従兄である。古今集の撰者の棟梁であった。
しかし古今集の完成をみないまま他界している。