ふくろう日記・別室

日々の備忘録です。

蜂と若者   高田昭子

2022-11-20 23:11:32 | Poem

小さな駅に電車が停まった
ドアーがきしみながら開くと
大きな蜂が車内に飛び込んだ
電車は時刻通りに走り出し
車内の人々は
前へ後へと波立った

すると、
頑丈そうなスポーツシューズを履いた若者が
窓ガラスにとまっている蜂を蹴って
(スゴイ!強くて柔軟な足!)
座席に落ちた蜂をつまみあげ
(アブナイヨ)
床に落とすと さらに踏みつけた

蜂は動かなくなって
車内は静かになった

しばらくすると
ほっそりとした若者が現れて
死んだ蜂は紙にくるまれて
彼に委ねられ
次の駅で下車した

かつての少年たちが
大人になって
また出会ったような
一駅区間の物語

二人の若者は眼を合わせることもなくて

まだ咲いていた
秋薔薇を観た帰りに……。