63
今はただ 思ひ絶えなむとばかりを
人づてならで いふよしもがな (左京大夫道正・九九二~一〇五四)
今となっては、もう諦めています。それを人伝ではなく、直接にもうしあげます。
あああ。本当に恋歌ばかりだなあ。→→→独り言。
64
朝ぼらけ 宇治の川霧たえだえに
あらはれわたる 瀬々の網代木 (権中納言定頼・九九五~一〇四五)
しらじらと夜が明ける頃、宇治川の川面に漂う朝霧が少しずつ晴れて、
そこから表われる鮎の稚魚たち。「網代木」とは、その魚たちを獲るために、しかけられた、瀬に打ち込まれた棒杭のこと。
65
恨みわび ほさぬ袖だにあるものを
恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ (相模・さがみ・生没年未詳)
辛い恋に、あなたを恨み、涙で濡れた袖は乾くことがない。しかし、この恋ゆえに
わたくしの名も、朽ちかけているのです。
66
もろともに あはれと思へ 山桜
花よりほかに 知る人もなし (大僧正行尊・一〇五五~一一三五)
大峰山にて修験者として修行中に歌ったもの。山桜に語りかけて……。
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春の夜の 夢ばかりなる手枕(たまくら)に
かひなく立たむ 名こそ惜しけれ
(周防内侍・すおうのないし・生没年未詳)
短い春の夜の集いに、大納言忠家は、周防内侍の「枕が欲しい」と言うつぶやきを聞いて、
手枕を差し出す。噂を恐れて、周防内侍はお断りするのですが……。春夜の戯言?