エリクソンの小部屋

エリクソンの著作の私訳を載せたいと思います。また、心理学やカウンセリングをベースに、社会や世相なども話題にします。

発達トラウマ ― 無知な「専門家」のミスリード

2016-03-19 04:54:11 | ヴァン・デ・コーク教授の「トラウマからの

 

 

 
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 今現在の、被災地の心理的支援が、なぜうまくいかないのか? 

 それをシリーズで考えてみたいと思います。

 この問いの答えは、単純ではありません。いくつかの要因が重なっているからです。ですから、犯人捜しをするのが、このブログの趣旨ではありません。

 いくつかの要因が重なっているのですけれども、一つ一つを取り上げながら、最後に、それをまとめて考察する、というように、構想しました。今日がその第一回目になります。

 今日取り上げるのは、被災地支援に来ている一部専門家が、発達トラウマのことに無知だ、ということです。「発達トラウマ」という呼び名さえ知らないのです。ということは、その「専門家」は、ヴァン・デ・コーク教授の文書は一度も読んだことがない、ということです。なぜなら、「発達トラウマ(障害)」(developmental trauma (disorder))という言葉は、ヴァン・デ・コーク教授が明確化した概念であり、呼び名だからです。ある「専門家」は、このブログの管理者に対して、「『発達トラウマ』と言う言葉があるの?」と訊いたくらいですからね。まあ、その方は、ある意味正直な人ですね、がしかし、いかに、一部「専門家」が発達トラウマに無知か、を如実に物語るエピソードです。

 トラウマと言うと、極々例外的だ、と従来考えられてきたわけです。ベトナム戦争や湾岸戦争に行ったり、大災害、事故や事件に巻き込まれないかぎり、トラウマを負うことはない、と考えられてきました。ヴァン・デ・コーク教授も、30年前はそう考えていたようです。

 しかし、トラウマは、そういう一部の人のものではないことがハッキリした来たのですね。それを、ヴァン・デ・コーク教授は「トラウマの再発見」とタイトルで、The body keeps the score : brain, mind, body in the healing of trauma 『虐待されたら、意識できなくても、身体は覚えてますよ : 脳と心と身体がトラウマを治療する時どうなるか?』の第1章に書いてるくらいです。まだ、このブログでは翻訳してませんが。

 ヴァン・デ・コーク教授も最初は、ベトナム帰還兵の心理的治療をしていたんです。しかし、ヴァン・デ・コーク教授は、虐待やネグレクトを受けた子どもは、ベトナム帰還兵と同じ心理的な課題を抱えていることに気付いたんですね。それは、個別の臨床・治療をしていたからです。

 それから、ヴァン・デ・コーク教授は30年間の臨床と研究を通じて、発達トラウマが人間に対して深刻な影響を与えることも分かった来たことが重要です。発達トラウマは、人間の脳の発達を不可逆的に歪ませる、ということです。ヴァン・デ・コーク教授らの研究に触発されて、福井大の友田明美さん等のグルーブや、浜松医大の杉山登志郎さんのグルーブが、日本でも、いかに、発達トラウマが脳にどれだけ深刻な影響を及ぼすか、ということで研究成果を発表しています。

 被災地にも、個別の臨床をする専門家も来ていますから、そういう本物の役立つ臨床家は、被災地でさえ、狭い概念の震災トラウマで苦しむ人は少数で、圧倒的多数が、広い概念である発達トラウマで苦しんでいる現状をよく知っています。このブログ管理者も、そういう本物の臨床家・研究者を何人も知っています。

 しかし、残念ながら、被災地の心理支援をリードしている一部専門家が、発達トラウマを知らないばっかりに、被災地の心理支援をミスリードしているのが、悲しいかなニッポンの現状なのです。アメリカの30年前の認識でしか、被災地支援の枠組みが出来てない、というだけではなく、その枠組みを現実に合わせるのに、その無知な「専門家」が邪魔をしているのです

 

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