エリクソンの小部屋

エリクソンの著作の私訳を載せたいと思います。また、心理学やカウンセリングをベースに、社会や世相なども話題にします。

#臨床は倫理が命  #貧しい方が心豊か

2018-12-18 06:18:20 | ヴァン・デ・コーク教授の「トラウマからの

 
#最大の財産 を #ぶち壊しにするニッポン
 インターメッツォ: エリクソンの叡智 : 創造と緊張   うつ病も、創造の源?   やっぱり大事な≪やり取り≫  ≪やり取り≫ほど大事なものはないことが、よく分か......
 

 

 ヴァン・デ・コーク教授の  The body keeps the score : brain, mind, body in the healing of trauma 『大切にされなかったら、意識できなくても、身体はその傷を覚えてますよ : 脳と心と身体がトラウマを治療する時どうなるか?』
 第2章。「心と身体を理解する,革命」,p.38の,第2パラグラフ,下から3行目から。その前もご一緒に。

 


薬理学の勝利


 薬理学が精神医学に革命をもたらすのに,そんなに時間がかかりませんでしたね。様々な薬のおかげで,医者たちは「自分も結構やれるもんだなぁ」と自信をもたらしましたし,お話しセラピーに勝る道具を手にしました。様々な薬のおかげて,医者たちは,収入を得てがっぽり儲けました。製薬産業から補助金がガッポがっぽと来るので,私ども医学教育をする者には,エネルギッシュな大学院生と高価な研究器具とで溢れ返りました。精神医学教室は,病院の地下室にあることが相場でしたが,精神医学教室の地位とフロアーが,共に上がりだしました。

 この変化の象徴の1つは,マサチューセッツ州立精神衛生病院でもありました。そこでは,1990年代はじめに,病院のプールに蓋をして,研究所にするスペースを作りました。また,室内のバスケットボールのコートが,真新しいクリニックのいくつもの診察室に早変わりしました。何十年もの間,医者と患者は,プールに水しぶきを上げて,民主的に一緒に遊んできましたし,バスケートボールのコートでは,ボールをパスしてきました。体育館で何時間も患者さんと一緒に汗を流したのは,病院研修生だったころのことです。体育館は,私ども医者も患者も,身体の良い状態を実感する実感を回復する場でしたし,体育館は,私ども医者と患者が直面させられていた深い悲しみの中にある,救いの小島でしたね。いまや,その場所は,患者が「良くなる」場になってしまいました。

 薬が革命的に変化が,たくさんの約束を伴って始まったことから,その革命的変化の終焉も,良かったことと同じくらいの弊害を伴っていたのかもしれませんよ。病気は脳内の化学物質のバランスがおかしいから生じるんだから,特定の薬によって,バランスを取り戻せば,治るはずだという理論が,広く受け容れられましたが,それは病院関係者ばかりではなくて,マスコミや一般の人もそうでした。多くの病院で,薬がセラピーに取って代わりましたし,背景をなす発達トラウマの課題には目もくれずに,症状だけを取りました。抗不安剤のおかげで,日々の暮らしをしていくのに役立つ,という点で,世界が変わりました。睡眠薬を飲むのか,それとも,ちょっとの間眠るために,グデングデンに酔い潰れるまで毎晩お酒を飲むのかを選ぶなら,選択の余地はないでしょ。ヨガ教室,トレーニングをする習慣,単に耐え抜くことを通して,自分の力でうまくやろうとすることに疲れている人にとって,薬を飲むと,ホッとできて救われた思いをする場合が多いんです。様々なSSRIは,トラウマを負わされた人が自分のいろんな感情に捕らわれていることから解放してくれるのに役立ちます。ところが,様々なSSRIは,あらゆる治療において,補助的なものと考えるべきです。

 PTSDの患者さんたちに薬を試すたくさんの研究をした後で,分かったことは,精神病薬は深刻な副作用がある,ということでしたね。病の背景をなす様々な課題を無視しがちだからです。脳の病のモデルは,人々の運命を,当事者から奪い去り,問題解決を,医者や保険会社の手にゆだねてしまうことになります

 この30年以上,精神病薬は,私どもの精神医学の会の主流になりましたが,様々な怪しい結果が出ています。抗不安剤のケースを考えてみましょう。抗不安剤は,私どもが信じたような効果が実際に出せたならば,うつ病はもう,アメリカの社会では,小さな課題になっていたはずでしょう。でもそうはならずに,いくら抗不安剤の服薬量が増えても,うつ病で入院する人の数は減りません。うつ病を治療している人の数は,ここ20年で3倍になりましたし,アメリカ人の10人に1人は,いま,抗不安剤を服用していますから。

 新世代の抗精神病薬,アビリファイ,リスペダール,ジプレクサ,セロケールは,アメリカで一番売れている薬です。2012年には,1,526,228,000ドル(およそ,1,500億円)の公費が,アビリファイに注ぎ込まれました。その金額は,他の薬よりも多額でした。ナンバー3は,サインバルタで,何百万ドルも売れた抗うつ剤でしたが,プロザックみたいな,以前からある抗うつ剤の勝っているものではありませんでした。というのも,プロザックは,もっと安いジェネリック医薬品が手に入るようになっていますから。メディケイドという連邦政府による貧困世帯向けの保険制度は,他の社会階層の薬消費よりも,抗精神病薬にたくさんの公費を支出しています。2008年,キチンとしたデータが揃うもっとも最近の年には,1999年,165億円であった支出が,360億円に増えています。生活困窮者向けの州政府所管の公的健康保険メディケイドで賄われた,抗精神病薬の処方箋を受け取って20歳未満の人の数は,1999年から2008年の間に,3倍になりました。11月3日2013年に,ジョンソン・アンド・ジョンソン社は,2,200億円以上のお金を,民法の罰金,刑法の罰金に支払って,高齢者,子ども,発達障害者らに対して,抗精神病薬リスパダールを誇大広告して告訴された,その告訴の解決金に当てました。しかし,リスパダールを出す医者を止める人は誰もいません。

 アメリカでは,50万もの子どもが抗精神病薬を,現在飲んでいます。低所得の家庭の子ども達は,保険を買うことができる家庭の子ども達に比べて,4倍も,抗精神病薬を飲んでいます。このような薬は,大事に育てられなかったり,気持ちを省みてもらえなかったりする子ども達を,取り扱いやすくするために使われています。2008年は,19,045人の,5歳以下の子ども達が,低所得世帯の公的健康保険を使って,抗精神病薬を飲んでいます。低所得世帯の公的健康保険に基づいて,13の州で調査した研究によれば,アメリカ式養育家庭で育てられた12.4%の子どもは,抗精神病薬を飲んでいます。貧困世帯の公的健康保険を受けられる家庭の子どもで,抗精神病薬を飲んでいる子どもが,1.4%と比べてください。こういった抗精神病薬によって,子どもたちは,取り扱いがしやすくなり,攻撃的でなくなりますが,やる気,遊び,人への関心をなくします。やる気,遊び,人へに関心は,世のため,人のために,役立つ人になるのに,必要不可欠でしょ。抗精神病薬を飲んでいる子ども達は,病的に太りやすく,糖尿病のリスクも高くなります。たほう,抗精神病薬と鎮痛剤を一緒に大量に服用するオーバー・ドーズのリスクも,高くなり続けます

 薬は便利ですから,大手の医学誌も,精神病を薬も使わずに治療する研究が掲載されるのはとても珍しいことです。治療法を開発する臨床家は,「傍流」として,無視されています。薬を使わない治療が,科学研究費をもらうことはめったにありません。薬を使わない治療は,いわゆる手順に従っていないからです。例の手順では,患者さんとセラピストは,あらかじめ定められた手順通りに従わなくてはなりませんし,ひとりびとりの患者さんのニースに応えて微調整することは許されません。主流の治療は,化学を通してより良い暮らしを確実に約束していますし,自分自身の生理やホメオスタシスを薬以外の方法で変えるなんで,実際には考えも及びません。

 

 

 臨床家は貧しいほうが,心豊かなんだよ」という大竹しのぶさんのお父様,大竹章夫(ふみお)さんの言葉を忘れないほうがいいでしょう。

 臨床は,倫理が命なんですから。

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