今晩も、今から7年前、311(2011)を遡って2年前、ヴァン・デ・コーク教授が、2009年に出した、発達トラウマ障害(DTD : defelopmental trauma disorder)をDSM-Ⅴにハッキリと入れてね、という提案書(http://www.traumacenter.org/announcements/DTD_papers_Oct_09.pdf) の5日目。
序章(イントロダクション)の最後のパラグラフ(冒頭の「発達トラウマ障害(DTD)を、DSM-Ⅴの診断に含めてほしいと提案する目的」の部分と重複)とその次です。
発達トラウマ障害(DTD)という診断名をご紹介する目的は、慢性的に対人関係の中でトラウマに晒されている、思春期までの子ども達の臨床像の現実をハッキリと示すためなんですが、それによって、効果の出る治療法を、臨床医(心理臨床家)の皆さんに、開発し活用してもらうとともに、日常的な対人間暴力が神経生理学な変化をもたらすことを、研究者の皆さんに、研究してもらうためなんですね。発達トラウマ障害の子ども達が、PTSDの症状を示すかどうかに関わらず、子どもたちが、現在進行形の危険や、虐待や、不適切な養育環境の中で育っている場合、今ある診断のやり方では、役に立ちません。よくあるパターンは、1)診断されないままでいる、2)いろんな間違った診断がされちゃう、3)症状の原因に、対人関係の中で負わされたトラウマと、安全・安心に欠けていたことがあることが分からないまま、問題行動の指導ばかりを強調されちゃう、というパターンです。次にお示しすることは、私どもが提案する診断基準です。まずは、出版済みのデータと未公開のデータを概観し、データの信頼性と妥当性を根拠づける、と同時に、評価します。そのデータには、発達トラウマ障害に関するデータの他に、DSM-Ⅴに、新たな発達トラウマ障害という診断を創り出すための診断基準を巡る会議をやる理由も入ります。
まったく診断されないままでいるケース
2つの大きなデータベースを分析しますと、トラウマや不適切な養育に晒されている子どもたちの中には、PTSDという診断をされていない子どもがたくさんいることが明らかになっています。「思春期以前の子どものニーズと人間力(CANS)」のデータセットから得た最初のデータは、「イリノイ州の児童家庭援護局」から支援されている、7,668人の養子なっている子ども達の集団検診を活用しました。CANSの評価に基づくと、3,376人の子ども達(44%)は、性的虐待、身体的虐待、家庭内暴力に遭い、3,785人の子ども等(49%)はネグレクトに遭い、1,199の子ども等(16%)は、情緒的虐待に遭っていることが分かりました。これら養子になった子どもたちは全て、実の両親のケアから引き剥がされて、その多くは、今回の分析では吟味されていない、別のいろんな種類のトラウマと辛い目に遭っていました。CANSの評価に基づくと、4,872人の子ども達は(63%)が、トラウマ関連のいろんな症状を示しました。その症状は、PTSDに限られたものではありませんでした。こういった、養子になった子どもたちの272ケース(トラウマ症状のある子ども達の5.5%)だけが、PTSDの診断基準に一致する、再体験や回避の両方がある、とCANSから評価されたにすぎません。逆に言えば、イリノイ州児童福祉局の支援を得ている、臨床上、重度のトラウマ関連のいろんな症状を示している、95%近くの子ども達が、PTSDの診断基準を満たさない、ということでしょう。ピノースら(2008)によれば、「国立子どもトラウマ・ストレス・ネットワー(NCTSN)」の中核となるデータセット、すなわち、NCTSNから支援を受けている、国全体で9,336人の子ども達を分析することから、いくつかの発見がありました。70%以上の子ども達は、いくつもの種類のトラウマや辛い目にあっていますし、同時に、48%は自宅や地元で重大な問題行動を示し、41%の子どもが学業に課題があり、37%が学校や日中活動で重大な問題行動を示し、31%が愛着に課題があり、11%が自殺念慮があることが明らかになりました。研究に協力してくれた子ども達の中で、重症なトラウマに晒されて、重度の臨床的な課題があるのにもかかわらず、24%の子どもしかPTSDの診断基準を満たさない、と報告されています。同様に、リチャードら(リチャードソン、ヘンリー、ブラック・ポンド、スローン、2008)の報告によれば、児童福祉の支援を受けている子ども達はほぼ全員が、1年以上の不適切な養育を経験し、臨床上、重大な課題があるのにもかかわらず、現行のDSM-Ⅳの、いずれの診断基準も満たさないことが、明らかになりました。
このように、アメリカでは、親から虐待やネグレクトを受けている子ども達が、自宅やご近所や学校などで、様々な重度な「問題行動」を示しているのにもかかわらず、現行のDSMの診断基準を満たさない子どもが、半分以上いることが明らかにされました。診断されないということは、医療やセラピーのケアをされない、ということと同じです。児童福祉のケアをされても、多くの子ども達が、医療的に、心理臨床的に捨て置かれている、ということです。研究者であると同時に、臨床医でもあるヴァン・デ・コーク教授は、苦しんでいる多くの子ども達が捨て置かれている現状に心痛めて、発達トラウマ障害≒愛着障害を明確に診断基準にするように提案している、と考えて大過ないでしょう。
かたや、日本はどうでしょうか? そもそも、虐待やネグレクトに遭っても、その子どもが親元から助け出されて、養子になることは非常に少ない。児童相談所に、子どもが「助けて」と言っても、見殺しにされる現状がありますでしょ。第一、一万人規模の虐待やネグレクトに関する調査もないでしょ。
被災地でさえ、発達トラウマ障害≒愛着障害だらけですから、日本全国津付浦々、発達トラウマ障害≒愛着障害だらけなんです。でも、この危機的現状が日本の市民に知らさせてません。被災地の子ども達さえも、たくさんの子どもが発達トラウマ障害≒愛着障害のために苦しんでいるのに、勘違いで勉強不足の「専門家」は、個人の心理臨床をしないから、その現状も分からないし、発達トラウマ障害≒愛着障害の子ども達の日々の苦しみを想像することもできない。発達トラウマ障害≒愛着障害の子ども達の苦しみに眼を向けるように、ブログ管理者が繰り返し言えば、「あなたは、愛着障害を言い過ぎる」、「震災支援の仕事は辞めた方が良い」という始末。自分の勉強不足と心理臨床の技量の弱さを棚に上げ、子ども達の日々の苦しみを無視するとは、研究者としても、心理臨床に携わる者としても、風上にも置けない輩だ、と、この際ハッキリと申し上げておきたいと思います。
ついでながら、謙虚な気持ちで、ご自分の「研究室」「研究所」に、直ちに、戻ることを薦めたいと思います。
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