昔、スキーでメシを食ってた。
スクール付のツアーのパッケージを作り、エージェントや団体に販売した。
パッケージを作るために、AIRの手配をし、ホテルのルームを押さえるために信州や北海道に限りなく通った。
たまーに、カナダまで出向いた。
シーズンに入ると、事務処理は東京の事務所の女の子に任せて山にこもった。
年間120日ゲレンデに出て、それを10年続けた。
「私をスキーに連れてって」が大ブレークし、客は後から後からやってきた。
女の子はみんなワンレンで白いワンピースで、その後を追って男の子も山ほどやってきた。
スキースクールは大繁盛した。
早朝の客の受入から始まり、レンタルスキーをセットし、クラス分けをし、夕方はスタッフを研修する。
夕食後は生徒のカルテを作成し、経理事務をこなし、サポートしてもらっているメーカーの板を販売し、毎日ドロのように眠る。
雑誌のカメラマンがたまに来て、崖から飛び降りろとか無理な注文をした。
クリスマスも正月も全くなく、シーズン休みなく働き続けた。
レッスンは楽しかった。大怪我で引退するまでは天職だった。
生徒さんが帰るときの「また来ます!」を聞くために働いた。
生徒には大きく分けると2つのタイプがあった。
・上達が目的
・楽しむのが目的
生徒が要求することを満足させるのがプロの仕事だと思っていた。今でもそう思う。
試合で勝つのはプロの仕事ではない。
スキー界でもプロサーキットがあったけど、それはただの賞金稼ぎでプロ本来の姿ではなかった。
試合で勝って、その栄光を武器にその業界が伸びる手助けをするのがプロだ。
業界の方向を決めるのはプロじゃないよ。底辺の購買層だ。
これを間違うとその業界は衰退する。当たり前じゃん。
話を戻すよ。
上達が目的の人を満足させるにはどうしたらいいか知ってる?
それは理論ずくめにすることなんだ。
そうすると生徒は混乱する。しかしいい知識を得たと思って満足するんだ。
残念ながらなかなか上達しない。技術書は読み漁ってるけど、腕が伴わない。
これが典型的な日本人のタイプ。道具のウンチクが多い人に見受けられた。
ウンチクが多い人はそれを自慢する。で技術が伴ってる人は見たことない。
逆に知識がしっかりしてる人は謙虚だ。上手い。
ウンチクと知識は違うんだね。知識は経験を伴うけど、ウンチクは人から得た情報だけなんだ。
楽しむのが目的です!ときっぱり断言する生徒さんも少なくなかった。
そういう人が確実に上手くなった。
山頂に登り、四方八方に見える山の名前を教え、パウダーに連れて行き、
苦手なコブ斜面の滑り方をアドバイスする。
空の青さや、ダイヤモンドダストに感動してもらう。
そういう生徒さんたちは転んでも笑っている。
レッスンポイントを押さえながら、志賀高原の山を引きずり回す。
見る見るうちに上達していく。
生まれて始めてスキーをはいて、3日後にはパラレルを習得する。
10年間プロ教師をしてきて達した考えはこうだ。
スポーツってそんなもんだ。
楽しむ気持ちがない限り上達はありえない。それだけ。
楽しみには、自然を堪能したり、アフターのビールだったり、仲間との会話だったり、いろいろある。
ただし短絡的に楽しむっていうのはイコール笑顔ではないね。
もちろん笑顔は必要だよ。ただ上達のための楽しみって笑顔だけじゃないんだ。
上達のために楽しむっていうのは、その先の天国に突き進む自分を確認する行為だと思うんだよ。
オーバーヘッドで強風でイッパイイッパイでも、いつかその海面で笑える自分を望むでしょ。
それは将来に対する楽しみなんだ。だからガッツが出るんだと思うよ。
やる気がでるとき、それは楽しむ気持ちがフル充電されている状態だ。
それを維持するのがとても大事な努力。
普段の平日の生活でもそれを維持するように努める。
すると普段の生活が波乗りの一部になる。
人生は波乗りになる。