
第一回アカメフォーラムで講演する町田名誉教授
第二回アカメフォーラムでの講演要旨をご紹介します。
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浦戸湾の生物
高知大学名誉教授 町田吉彦
浦戸湾の面積はわずか7km2で、環境省が指定した全国88ケ所の閉鎖性海域で第16番目に狭く、全体の0.02%しかない。このように取るに足らない面積である。しかし、その動物相はきわめて豊富であることが最近明らかにされた。
浦戸湾で私どもが実施した2003年から2008までの研究成果の多くは、2009年に高知市総合調査報告として公開された。魚類は20目77科187種で、ハゼ科34種、アジ科10種、コイ科8種、ヨウジウオ科8種、ニシン科6種、ボラ科6種、フグ科6種などから構成される。1958年に、それまでの30年以上にわたる研究成果として浦戸湾産魚類194種が公表された。長期間にわたる強度の汚染があったものの、魚類の種数はほぼ汚染前のレベルに回復したとみなせる。ただし、両者の共通種は103種で、半数以上の種が入れ代わっている。
魚類の高知県絶滅危惧種IA類はヨウジウオ、アカメ、チワラスボ、スナヤツメであるが、淡水産のスナヤツメを除く残りの3種が浦戸湾に生息している。ヨウジウオは2005年にほぼ20年ぶりに浦戸湾で確認され、その後、湾中央部だけでなく湾奥でも発見された。チワラスボも少ないながら確実に生息している。問題はアカメである。報道では「まぼろしの」という形容詞が好んで用いられる。しかし常識的には、「居るかどうかさえ判然としない魚」が「まぼろしの魚」であろう。浦戸湾でのアカメは、スズキ、ヒラスズキと並ぶ普通の大型肉食魚でしかない。
2003年から2008年までの刺し網漁の調査で、6科19種のカニが確認された。浦戸湾を代表する存在はノコギリガザミ属の3種である。トカラ列島以北でこれら3種が生息しているのは、おそらく浦戸湾と静岡県の浜名湖だけであろう。ホンコンイシガニの北限が浦戸湾であることが明らかにされたほか、動物地理学的に興味深い種が得られている。大型のクルマエビ、クマエビ、ウシエビが漁獲され、細々と流通しているが、これを知っている高知市民はほとんどいないと思われる。
干潟のカニでは高知県絶滅危惧IA類のムツハアリアケガニが広く分布している。しかしながら、同IA類のシオマネキの生息地は2ケ所ほどで、しかも狭く、浦戸湾から姿を消す可能性が高い。ハクセンシオマネキは高知県の準絶滅危惧種であるが、彼らの生息地もまた限定されている。これらを含め、県RDBの見直しが急務である。
浦戸湾の貝類相は貧弱である。二枚貝ではアサリが代表種であるが、過度の漁業圧が懸念される。干潟と岩礁性の貝類相の貧弱さは、移入種であるコウロエンカワヒバリガイの密生と無関係ではないだろう。
浦戸湾は都市生態系の中にありながら動物の種多様性はきわめて高く、希少種の宝庫である。ビオトープそのものであり、自然の財産として保全が強く望まれる。
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町田吉彦高知大名誉教授のプロフィール
町田吉彦(MACHIDA, Yoshihiko)
高知大学名誉教授 理学博士
1947年3月30日生 本籍高知県(秋田県出身)
秋田県立本荘高校卒,高知大学文理学部理学科卒,九州大学大学院理学研究科
修士課程生物学専攻(生態学)修了,同博士課程単位取得退学
職 歴
1974年4月~1978年3月 長崎県衛生公害研究所環境生物科
1978年4月~2010年3月 高知大学理学部
現在の研究テーマ
1.高知県の魚類相
2.高知県の河川と干潟環境の動物相およびその保全
その他
国土交通省四万十川エコリバー研究会委員,同波介川河口導川事業環境評価委員会委員,高知県文化財保護審議会委員(動物),同文化財専門委員,特別天然記念物ニホンカモシカ高知県通常調査委員長,高知県立のいち動物公園友の会評議員,NPO法人四国自然史科学研究センター理事長,高知県希少野生動植物保護専門委員,高知に科学館をつくる会代表
さらにその他(趣味)
1.ソフトボールと野球をすること
2.ネイチャーフォト(特に野草・その他の生物)
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