土佐レッドアイ

アカメ釣りのパイオニアクラブ

 祝800例!! 少し振り返って(長文のうえ文章が怒っているところがあります、ごめんね)

2024-09-26 22:51:06 | アカメ調査室

800例!!

 アカメと自然を豊かにする会のみなさん、アカメを愛する皆さんおめでとございます。

 2024年9月7日、由岐直久さんがアカメを釣って標識放流した累計がとうとう800例となりました。

由岐直久さんが釣った800例目のアカメ

 

 ここで、私たちが取り組んできたアカメの標識放流調査について振り返ってみたいと思います。

 

 アカメのタグ&リリースは1991年からNPO法人 ジャパンゲームフィッシュ協会(JGFA)がおこなっており、2023年12月までに911件の標識放流数となっています。

 

 私がJGFAの会員として、初めて標識放流したのが、1999年6月7日です。高知県中部の河口で釣ったアカメにタグを打ち放流しました。107センチ・16キロの大型アカメでした。以来、友人などに協力してもらい続けてきました。

                                       

                          この当時は頭もふさふさと豊かでした

1999年6月7日、標識初装着。当時はビニールシートを用意してなくて何と新聞を敷いています^^;

 

 この活動が大きく進みだしたのは、アカメと自然を豊かにする会を設立し、会の活動方針にアカメの標識放流調査を行うことを決めてからです。

 当時、県の施策として、高知県希少野生動植物保護条例を制定し、絶滅の危険度が高い動植物を保護種に指定して保護していこうということがもちあがっていました。こうした傾向は、全国、各県でも同じでした。

 この時、高知県レッドデータブックでアカメは絶滅危惧ⅠA類 {Critically (CR)、ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの。}であると分類されていました。

  2002年発刊 高知県レッドデータブック 動物編 アカメ

 

 絶滅危惧ⅠA類の定量的要件は以下のとうりです。

A. 次のいずれかの形で個体群の減少がみられる場合。

1. 最近10年間もしくは3世代のどちらか長い期間(注2)を通じて、80%以上の減少があったと推定される。

2. 今後10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、80%以上の減少があると予測される。

B. 出現範囲が100平方キロメートル未満もしくは生息地面積が10平方キロメートル未満であると推定されるほか、次のうち2つ以上の兆候が見られる場合。

 1. 生息地が過度に分断されているか、ただ1カ所の地点に限定されている。

 2. 出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に継続的な減少が予測される。

 3. 出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に極度の減少が見られる。

c. 個体群の成熟個体数が250未満であると推定され、さらに次のいずれかの条件が加わる場合。

 1. 3年間もしくは1世代のどちらか長い期間に25%以上の継続的な減少が推定される。

 2. 成熟個体数の継続的な減少が観察、もしくは推定・予測され、かつ個体群が構造的に過度の分断を受けるか全ての個体が1つの亜個体群に含まれる状況にある。

D. 成熟個体数が50未満と推定される個体群である場合。

  1. 数量解析により、10年間、もしくは3世代のどちらかが長い期間における絶滅の可能性が50%以上と予測される場合。

 これだけを見ても、初版の高知県レッドデータブックがアカメに対してどれだけ間違いが大きく多いかがおわかりだろうと思います。あらためて見直すと吹き出してしまうような内容が記述されています。

 私は、県レッドデータブックのアカメの位置付けは間違っているが、そのうち訂正されるだろうと高をくくっていました。しかし、この誤った位置付けがとんでもない方向(保護種に指定しよう)に向かい始めたのです。

 アカメが県条例で保護される保護種の候補にあがりました。

 当時、高知大学教授であった町田吉彦さんに急いで相談して、それまで集めていたアカメのデータを見てもらいました。町田教授もⅠA類とはとんでもない、二人できちんと検証しましょうということになり、レッドデータブックのカテゴリーの要件に当てはめて検証をすすめました。その結果は驚くものでした。

 この検証についてはすべてHP「アカメの国」http://akamenokuni.com/ の下記のURLで見ることができます。

 アカメのカテゴリーについて検証するための資料 http://akamenokuni.com/red_data_book.html

 高知県レッドデータブック アカメのカテゴリーの検証 http://akamenokuni.com/Categories_nokentou.html

 

 二人で行った検証の結果は、高知県のアカメは、絶滅危惧種には該当しない、情報不足に該当する種であるという結論を得たのです。

 検証の結果については、担当部局である高知県文化環境部自然共生課に町田吉彦博士と連名で提出しました。

 町田博士はその後、色々な経緯がありながら、高知県希少野生動植物保護条例の保護種に関する専門家会議の委員長として、正しい方向にすすめる大きな役割を果たしてくれました。

 高知県に町田吉彦博士がいなかったら、アカメと人々のつながりは断絶されていたかもしれません。

 

 この記事で高知大学名誉教授と紹介されているのは、アカメを高知県レッドデータブック(初版)で、アカメを資料がなくても私がそう思うからと絶滅危惧ⅠA類に指定した張本人。この会議で反対したのは、この名誉教授の教え子でもある町田吉彦高知大学教授(当時)です。会議のすぐ後で、恩師に反対の意見をいうのはつらかったと疲れ果てた様子で私にポツリと話されたことがあります。

 会議の翌日、高知大学で朝から駐車場で待っていた私に、会議の模様などとともにその話をされた時は頭が下がるしかありませんでした。

 この会議がアカメを保護種指定から保留とし、あらためて調査を進めるきっかけとなったとても大きな出来事でした。

 この会議で、専門家会議の委員長だった名誉教授は自分の意見がとおらず委員を辞任、後に町田吉彦教授が県の専門家会議の委員長に就任することになります。

 

 アカメと自然を豊かにする会は、アカメの誤った位置付けを基に、人々とアカメを断絶することになる条例の指定種にするのを防ぐため、県のレッドデータブックで滅びたかのようにいわれている浦戸湾で、どれだけ多くのアカメがいるのかを証明するための手段の一つとして、アカメ釣り大会を開催し、標識放流調査に力を入れて取り組みました。

 私は以前から浦戸湾とその流入河川での幼魚の採集調査をしていました。そして、釣人や漁師から提供していただいたアカメの捕獲データなどから、浦戸湾は日本一アカメの生息数が多いフィールドであることに確信をもっていました。

 浦戸湾で開催した9年間にわたるアカメ釣り大会(うち2回は悪天候で中止)では、ボーズだったことは一度もありません。

 

 「豊かにする会」が標識放流に取り組み始める前は、私が取り扱ったT&Rは2001年7月、兵庫県の釣人滝口さんが釣ったアカメで累計16例です。

 「豊かにする会」が結成されるのが2007年5月27日です。

 「豊かにする会」として初めて標識放流したのは、2008年7月14日です。以前から協力してくれていた友人「宮ちゃん」から、アカメを釣ったので標識放流したらどうかと連絡をくれました。事務局長の上杉一臣さんが駆けつけて標識放流したものが第1号です。

 アカメ釣り大会で標識放流調査への協力を呼びかけたり、「アカメの国」での広報活動、高知新聞などメディアでの紹介などなど、標識放流調査活動が広く知られるようになります。この活動が保護種指定を食い止める大きな力になるという思いも広がり大きなうねりになります。

 ここで標識放流調査で大活躍した会員お二人を顕彰しておきます。

 一人は岡田 勝さんです。

 

      岡田 勝さん

   

 この画像は、岡田 勝さんが記録した標識放流記録ノート(コピー)です。

 岡田さんは2008年8月16日から2018年4月9日(3,523日間)までに、ご自身で80個体のアカメを釣り標識放流し、他の釣人から依頼を受けてT&Rしたのが87個体で合計167例の標識放流をしています。

 この画像のノートはご覧のように釣獲年月日、釣り人氏名、全長、体長、タグ記号番号、釣った場所を記録したものです。コピーをさせていただきパソコンの前の本棚におさめています。

 アカメを保護種候補から除外することができてから、釣人からのタグ装着依頼も少なくなりましたが、岡田さんはいまも活動を続けています。

 時々手にして見せてもらうのですが、ページを捲るたびに胸がジーンとしてきます。まぶたの奥が潤んできてゴシゴシと拭うときもあります。

 もう一人、アカメと自然を豊かにする会事務局長:上杉一臣さんです。

           

                上杉一臣さんがタグを装着している場面です

 上杉一臣さんも、岡田さんと同様にこの活動に精力的にとりくまれました。依頼を受けて標識放流した数は岡田さんを上回るとおもいます。

 みなさん、考えてみてください。

 アカメ釣りでは多くの場合、夕方から翌朝という主に夜間の釣りとなります。昼間でも釣れますが、仕事やら夏場の昼間はキツイとかで圧倒的に夜間が多くなります。ですので、夕食中でも、やっと寝付いたときでも、深夜でも、最も起きにくい朝方でも、標識放流の依頼の電話が鳴れば「ありがとうございます」と返事をして現場に駆けつけるのです。

 現場では、ストリンガーに繋がれたアカメを大切に扱いながら、陸にあげ、全長、体長、体重などデータをとり、標識を装着して蘇生させてからリリースします。アカメが大型であったり、足場が悪い場所ではそれこそ大ごとです。汗まみれのこうした作業をお二人は黙々と10年あまり続けてこられました。

 岡田さん、上杉さんのこうした活動は、アカメ釣り大会の本部会場でみなさんに紹介して顕彰しました。二宮正樹さんから賞品の授与もありました。

 あらためてきちんと紹介して顕彰しておきたいと思います。

 岡田 勝さん 上杉一臣さん 本当にお疲れ様でした。

 お二人を先頭に活動に取り組まれた「豊かにする会」会員の仲間のみなさんお疲れ様でした。

 協力してくださった全国の多くの釣人のみなさんありがとうございました。

 

 「豊かにする会」はアカメを保護種に指定することは間違っているということを証拠を示しながら、対県交渉を何度も行ってきました。

 こうした大きな運動のうねりと、町田吉彦博士を委員長とした専門家会議の見解を受け、高知県はアカメを保護種に指定することは保留とし、他の11種の動植物を指定します。そして、高知県主導でアカメの再調査を行い、アカメの扱いを決めることになりました。

 私は釣人に呼びかけ、高知県にたくさんのアカメのデータを届けました。

 

 

 2012年1月25日付けの文書が県から届きました。

 それまで候補種として保留されていたアカメが正式に保護種候補から除外されたのです。

 その一部を紹介します。

 1 指定種候補保留の解除について
   平成19年指定種選定の際、基礎データ不足のため指定種候補を「保留」としていたアカメについては、2カ年の生息状況調査の結果を基に専門家による検討の結果、「少なくともアカメ資源が一貫して減少しつつあるとの判断はできない。」との結論が出されたため、今後、カテゴリの見直しを含め判断することとし、「保留」は、一旦解除することとします。

 2 アカメに特化した保護施策についての検討
   アカメは、捕獲等規制の対象とはなっておりませんが、「高知県のシンボル」である魚として、県全体で守るべき種のひとつです。そのため、今後予定している「生物多様性地域戦略」策定作業の中で、保護のあり方について検討していくこととします。

 お役所の文書ですので、わかりにくいところもありますが、こういうことです。2007年の保護種選定の時、アカメはデータが不足しているということで指定することを保留し、2年間の生息調査を行った。その結果、アカメが減っているという判断はできない。今後、アカメはⅠA類というカテゴリーの見直しを行う。これまで保留としていたアカメを候補種から外す。ということです。

 こうして、アカメを「保護条例の指定種」にするという過ちを食い止めることができたのでした。

 このような経過と結果にたいして実に皮相な見解も広がっています。それを少しみてみましょう。 

また2006年には、宮崎県が指定希少野生動植物の一種としてアカメを指定し、捕獲などを禁止した。これはニホンカモシカ等と同じ扱いである。高知県も同様に指定しようとしたが釣り人らの反発に遭い、指定には至っていない。」(Wikipediaより引用、2024年9月15日現在)

 「高知県では絶滅危惧IA類に指定しており、さらに宮崎県と同様に採捕等を規制するため希少野生動植物保護条例に指定しようとしたが、アカメを利用する立場にある釣り人を中心とした人々の反発に合い、その指定は見送られた。」(Web魚図鑑より引用、2024年9月15日現在)

 このように、広く容易に利用できる、多言語インターネット百科事典である『Wikipedia』また『Web魚図鑑』などでは、未だに『アカメを利用する立場にある釣り人らの反発にあったため、その条例の指定には至っていない』とか『指定が見送られた』などと記述されています。

至る」は、人が目的地に到達する意であり、『Wikipedia』の筆者殿はやがて指定されるべきだと考えているようです。しかし、近い将来“指定に至る”ことはありえません。また、『Web魚図鑑』のように“指定が見送られた”のではありません。指定種とすることが誤りであったことを、県当局も認め、明確に指定種から「除外された」のです。

 後で述べるように、県の見直しのための調査の結果、アカメは絶滅危惧種に該当しない普通種であることが証明されました。普通種を保護種に指定することはありえない話です。ですので、条例の指定にいたることはありえません!

  また、釣り人の「反発」で、県当局が条例案を撤回するなどと、本気で考えるならそれは噴飯ものです。アカメが保護種に該当するような希少で脆弱な生き物ではないことが証明され、社会的に認められたからこそ候補種から除外されたのであります。

このように皮相浅薄な見解と誤りが、広く流布されているのはたいへん情けないことです。(かなり怒っています)

 

 そして、いよいよ諸悪の根源?高知県レッドデータブックの見直しが始まりました。

 私も、汽水・淡水産魚類分科会の調査員として調査に参加しました。この分科会の会長は町田吉彦高知大学名誉教授でした。

 私は数十年にわたり独自でアカメの生体解明に取り組んできましたが、さらに町田吉彦教授とともに、また、高知大学の学生諸君とともに県下各地で様々な生態調査をすすめました。

 そうして集まったデータを整理して論文にまとめました。この論文を書くうえで町田吉彦博士にはとても大きな援助をもらって完成させることができました。

 2006年には「高知県初記録種を含む高知市新堀川の魚類」、2015年から2016年に「感潮域のコアマモ以外の水草群落から採集されたアカメの稚魚と未成魚」「高知県における釣人と漁業者によるアカメの記録」「高知県香南市赤岡漁港に設置した柴漬けで得られたアカメの未成魚」「高知県安芸郡東洋町の定置網で得られたアカメの記録」「安芸市赤野沖のしらすパッチ網で得られたアカメの成魚」を発表します。

 これまでアカメの保育場は、汽水域に繁茂するコアマモ場だけであるといわれていました。その定説を覆したのが論文「感潮域のコアマモ以外の水草群落から採集されたアカメの稚魚と未成魚」です。

 

いまは道路の下になっている新堀川に繁茂していたコアマモ群落

    

    コアマモ場以外の水草群落で採集したアカメの幼魚   アカメの幼魚が利用している水草を同定するため同行していただいた高知県の水草の専門家◯◯さん(写真右)と町田吉彦博士     

 

 アカメの幼魚は、コアマモ場に強く依存して成長するとされ、それ以外では生育できないといわれていました。コアマモ場は、高知県下それほど多くの場所でみつかっていません。浦戸湾以東ではほとんどありません。このことが、アカメの生物としての脆弱さの根拠の一つにされていました。

 私たちの調査によって、アカメは、コアマモ場以外の水草群落なども保育場として広く活用していることが明らかになりました。このことは、アカメが生物として生息環境への大きな適応能力をもって生活をしているということを証明することになりました。

 

 また、「高知県における釣人と漁業者によるアカメの記録」では、2,000例を超えるデータをつかって、高知県下に広くアカメが生息していることを明らかにしたのですが、これはレッドデータブックでのアカメのカテゴリーの検証に使ったデータ500例あまりからはるかに大きな数のデータです。

 ある研究者は、これを見て空前絶後のデータだと言われました。

 アカメの捕獲データなど、そう簡単に数多く手に入るものではありません。たくさんの釣人や漁業者が協力してくださったおかげです。これにより、それまで空白であった室戸岬以東のアカメの生息が確認されました。また、須崎湾や宿毛市など多くの空白を埋めることができました。この論文により、高知県下全域にアカメが生息していることが証明されたのです。

「高知県香南市赤岡漁港に設置した柴漬けで得られたアカメの未成魚」は、3年間にわたる調査の成果でした。

 漁協の許可を得て港内に木の枝を縛った柴漬けを設置し、月に1回柴漬けごと網に入れて岸壁に引き上げて調査をやりました。

 港内に設置する時、引き上げる時は私が海に入りました。上には高知大学の学生諸君がいてシバを降ろしたり、網ごと引き上げる作業です。

   

 木の枝を束ねたシバを数セット設置し、引き上げるときはこのシバがすっぽり入る手作りのネットを潜って操作し、シバを入れて陸にあげます。 1年目は成果がありませんでしたが、2年目からアカメの幼魚が入りだしました。この場所の塩分濃度は外洋とほぼ同じでした。

 ある日、陸にいる学生さんから、「長野さん入っています」の声が届いたときは水面に躍り上がる?ほど嬉しかったです。

 

 公的、あるいは学術的世界では、論文は大きな力を持っています。論文で発表された内容は、それを覆す、あるいは新たな事実を明らかにするまで生きています。金科玉条のように使われ続けます。

 こうして始まったレッドリストのカテゴリーの見直し調査で、アカメは自然界での絶滅危惧種カテゴリーの最高位から、絶滅危惧種のどのカテゴリーにも当てはまらない普通種であるとしました。

 2002年発刊の高知県レッドデータブックで絶滅危惧ⅠA類とされていたアカメがきちんと調査が行われた結果、ようやく普通種であると、実態にあった位置付けに見直されました。

 ともに活動されたみなさん やりました。おめでとございます。

 長くなりましたが、ここから標識放流調査で最も肝心な再捕獲の話をしましょう。

 つづく

 



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