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【 コラム 】 療養泉と規定泉

 

温泉本や温泉サイトで、”療養泉”や”規定泉”ということばをよく目にします。これらの定義はこみいっているので、間違ってつかわれていることもしばしばあります。そこで今回は”療養泉”と”規定泉”について簡単にまとめてみました。

温泉の含有成分に係わる規定には、
1.温泉法
2.鉱泉分析法指針(環境省)
があり、1の規定をクリアすれば温泉で、2をクリアすると療養泉となり泉質名がつきます。

A.療養泉
療養泉(上記2)の規定は、鉱泉分析法指針(平成14年4月)に詳細に記載されていますが、ざっとまとめるとこんな感じです。
1.塩類泉
 溶存物質が1g/kg以上のもの。
2.単純温泉
 泉温が25℃以上のもの。(成分含有量を問わず)
3.特殊成分
 遊離炭酸、総硫黄、総鉄など規定特殊成分を規定量以上含むもの。

療養泉の規定は温泉法の規定よりハードルが高いので、療養泉はかならず温泉です。
療養泉は、語感からしていかにも効きそうなので、キャッチコピーにもよくつかわれます。
ただし、単純温泉は極端な話、成分をほとんど含んでいなくても泉温だけで療養泉になれるので、一部では現行の療養泉規定に疑問が呈されています。(さすがに単純温泉で”療養泉”をコピーにする施設は少ないですが・・・ ^^; )

B.規定泉
上記のとおり、療養泉の規定は温泉法の規定よりハードルが高いので、温泉であっても泉質名がつかない温泉(非療養泉)がでてきます。
例えば、1kgあたり
・総鉄イオン  温泉=10mg以上 / 療養泉=20mg以上 (炭酸鉄泉、緑礬泉)
・総硫黄(S) 温泉= 1mg以上 / 療養泉= 2mg以上 (単純硫黄泉)
・遊離二酸化炭素(CO2) 温泉=250mg以上 / 療養泉=1,000mg以上 (炭酸泉)
といった具合で、泉源温度25℃未満で他に該当(特殊)成分がない場合、温泉であっても療養泉ではないものが出てきます。
これは分析表の泉質名の欄には「(総鉄イオン)の項により温泉法(規定)の温泉に該当(適合)」などと表記され、泉質名がつかないので便宜上”規定泉”などと呼ばれています。(で、規定泉は法的に根拠のある名称ではありません。)

ところで、メタホウ酸(HBO2)、メタケイ酸(H2SiO3)、フッ素(F^-)などは、温泉法規定の含有量(HBO2:5mg/kg以上、H2SiO3:50mg/kg以上、F^-:2mg/kg以上)があれば”温泉”にはなれますが、鉱泉分析法指針(療養泉)の規定成分ではないので、いくら含んでいてもそれだけでは泉質名はつきません。
この場合、温泉分析書の泉質欄には「(メタホウ酸)の項により温泉法(規定)の温泉に該当(適合)」などと記載されますが、一般にはわかりにくいので、パンフなどには”メタホウ酸泉””フッ素泉”などと、あたかも泉質名のように書かれていることがあります。
また、非塩類泉、泉温25℃未満で他の特殊成分を含まない総硫黄1mg/kg以上2mg/kg未満のものは、正確には「(総硫黄)の項により温泉法(規定)の温泉に該当(適合)」する泉質名のつかない温泉ですが、これもわかりにくいので、硫黄泉、もしくは単純硫黄泉と書かれることがあります。
こんなこともあって、ただでさえわかりにくい泉質表記が、ますますわかりにくくなっていくワケです。

■規定泉の浴感はうすいか?
泉温が低く濃度もうすめの規定泉は、温泉好きのあいだでは一段低く見なされる風潮があります。それでは本当に規定泉は入る価値のない温泉なのでしょうか?
まずは、下の分析データをご覧ください。

例1.<(いちおう)療養泉/山梨県の某温泉>
アルカリ性単純温泉(Na-(CO3)・SO4型) 25.1℃、pH=9.5、成分総計=118.4mg/kg、Na^+=29.8mg/kg (82.70mval%)、Ca^2+=3.7 (11.45)、Fe^2+=0.1、Cl^-=3.4 (6.56)、HS^-=0.05、SO_4^2-=15.5 (20.98)、HCO_3^-=9.2、CO_3^2-=27.0 (59.01)、陽イオン計=34.7 (1.57mval)、陰イオン計=56.1 (1.52mval) 
<H8.11.19分析>

例2.<規定泉/小滝鉱泉(栃木)>
規定泉(総鉄・メタけい酸)(Al・Ca-SO4型) 14.8℃、pH=3.03、成分総計=888mg/kg、H^+=0.8mg/kg、Na^+=9.2 (3.22mval%)、Ca^2+=69.5 (27.86)、Mg^2+=14.5 (9.60)、Al^3+=52.3 (46.79)、Fe^2+=3.3、Fe^3+=8.0、Cl^-=10.3 (2.51)、HSO_4^-=14.3、SO_4^2-=534.1 (96.17)、陽イオン計=164.9 (12.44mval)、陰イオン計=558.8 (11.56mval)、メタけい酸=163.9 <H13.9.5分析>

例1は、いちおう”療養泉”ですが、成分もうすくこれといった浴感的特徴は感じられません。これに対して、例2は、規定泉ながら、成分量がかなり多く、pHや鉄、硫酸塩、メタけい酸などが渾然一体となって豊かな浴感を演出しています。なので、「療養泉=お湯がいい、規定泉=スカ」という図式は単純には成立しないと思っています。ただし、規定泉はふつう浴用加熱となるので湯づかいが難しいことは確かですが・・・。

<おまけ>
参考までに浴感が出やすい規定泉の条件をあげておきます。(例には単純温泉も混じっています)

1.pHが高い重曹泉系でツルすべがある。(特徴=つるつる美人の湯)
  ex.真沢(群馬)、足尾(栃木)、塩江(香川)
2.メタけい酸が多い。(特徴=とろみのあるやさしいお湯)
  ex.馬頭温泉郷(栃木)、浜平しおじ(群馬)、正徳寺(山梨)
3.鉄分が多い。(特徴=にごり湯、温まりの湯)
  ex.地蔵の湯(栃木)、総社鉱泉(群馬)、小滝(栃木)
4.イオウの風味がある。(特徴=硫黄のお湯)
  ex.濃溝(千葉)、下部湯沢(山梨)、寄居金山(埼玉)
5.なんだかわからんが神懸かり的な深い浴感がある。(特徴=うす湯の名湯)
  ex.湯岐(福島)、華報寺共同(新潟)、沓掛(長野)
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