シャープ & ふらっと

半音上がって半音下がる。 それが楽しい、美しい。
思ったこと、感じたことはナチュラルに。  writer カノン

新日本紀行『幸福への旅』より

2016-10-01 20:54:18 | TV・ビデオ・映画
川口市にある、NHKアーカイブスに行った。

ここでは、NHKの過去の番組やニュースなどが、
無料で見る事が出来る。
全てではないが、
朝の連ドラや大河ドラマ、
紅白やスペシャル物、幼児向け番組など、
かなりの映像を閲覧出来るのだ。

私はここで、どうしても見たかった番組があった。
1973年に放送された『新日本紀行』の、
「幸福への旅」という回だった。


1974年、北海道の国鉄広尾線の、
『愛国から幸福まで』という切符がブームになった。
畑の中の、何もない人も少ない、
十勝平野の小駅だった幸福駅は、
時ならぬ脚光を浴びる事になった。

そのきっかけが、この番組だったのである。


冒頭、上野駅の出札窓口が映る。
そこへ、取材スタッフ自らが切符を買う。
「幸福まで一枚」
窓口の駅員は、『コウフク?どういう字ですか?』
「しあわせ、という字です」
奥の駅員とやり取りしたあと、手書きの切符が発行される。

『東京都区内から幸福ゆき』

ここで、オープニングのテーマ曲が流れるのだ。


幸福のロケは冬で、深い雪の中の撮影だった。
「幸福」という地名は、
元々あった「幸震」という土地に、
福井県から開拓に来た人々が住み着いたため、
付いた名前だと言われている。

しかし、番組を見ると予想外にシビアだ。
実際に、福井県からここへ開拓に来た人に、
『なぜこの土地へ来たのですか?』と質問しても、
「それは言えません」と、最後まで答えなかったのだ。
幸福という地名も、
決して幸せを願って付けたものでない事もわかる。
ブームになり、誰もが訪れてみたいと思う土地は、
どこか封印された過去を持っていたのだ。

番組は、この地の農産物である小豆の相場に
一喜一憂する農家を紹介し、
また、その家から嫁に行く女性を紹介し、
嫁ぐその日の様子を映し出す。

終始、雪の中の映像だった。


この、40年以上も前の映像を見て感じたのは、
一切の演出効果がないことだ。
今のTVは、必ず会話が大きく文字で出て、
不必要に笑い声や驚嘆の効果音が付き、
スタジオの出演者の顔が片隅に映る。
だから、言葉は真に伝わらないし、
美しい風景映像も安っぽく見える。

福井県からの人の言葉が、
とてもシビアに重く聞こえたのは、
この人の発する言葉と表情に見入ったからだ。
今なら字幕で『それは言えません!』
効果音が「エーッ!?」
それで終わりなのだ。

さらに、取材がスタッフ自身であるところが、
この時代の良さだろう。
今なら必ずタレントが出向く。
なので、主役はその土地の人ではなく、
タレントになっている。

やらせだの、アポありだの無しだの言われている今だが、
この『幸福への旅』も、嫁ぐ娘さんに合わせての紹介なので、
ある意味演出だ。
だが、安っぽく感じないのは、
映像の主人公が、その人々だからである。
ムダな部分がないから、直に伝わるのだと思っている。


この放送後、北海道の集落『幸福』は世間に知れ渡り、
空前のブームに至ったのだ。
広尾線は廃止されたが、
今も幸福駅の跡地は、観光名所として整備されている。