AMASHINと戦慄

~STARLESS & AMASHIN BLOG~
日々ブログレッシヴに生きる

名探偵レインウーマン

2022年10月24日 | カテゴライズできない
以前住んでた同居人がなぜか置いていったブルーレイレコーダーがあるのだが、そいつが毎週日曜の23時から放送されているNHKの海外ドラマシリーズを録画予約していて、それがいまだHDDに録り貯められ続けている。

私自身、海外ドラマはあまり観ないたちで、20代の頃にWOWOWでやってた『フレンズ』くらいしかまともに観たためしがない。
まぁでも、TVドラマってのは一度観だしたら続きが気になるもんで、たまたま一話目からガッツリ観てしまったらそれにハマってしまうということは時々あって、もう放送は終わってしまったんだけど、そのブルーレイに録画されていた『アストリッドとラファエル 文書係の事件録』を観てみたら、これがなかなか面白くて最近順番に観ていくのが楽しみになってた。

フランス制作のドラマで、まぁそう言われなければアメリカかイギリスの刑事ドラマかと思ってしまう。
確かによくみると、風景や登場人物に清潔感やオシャレっぽさを感じられなくもない。




音楽もすごくオシャレでOP、EDとも実に洗練された音色でけっこう心地よくて好き。

これはアストリッドの孤独のテーマ曲といったところか。



犯罪推理刑事モノというか、日本のドラマでいうと、『相棒』に近いものがあるのかな。
男勝りのラファエル・コント警視は、ガサツながらルール破りの大胆な行動で犯罪解明に挑む熱血の女刑事。
特に男には厳しく、部下のコーヒーを取り上げて飲んだりアゴで使ったり、一般男性にも腰の銃をチラつかせて国家権力を振りかざす、ちょっとフェミニズム且つコンプラ入ってるかと思われる恰幅のいいバツイチおばちゃん刑事。

「コラ、オマエら席どかんかい」



一方、探偵役となるアストリッド・ニールセンは、パリ犯罪資料局に勤める地味で華奢な文書係。
無類のパズル好きで、どんなパズルでも解かずにはいられない性質の持ち主。亡き父親が元刑事で、その影響で犯罪科学に異常な執着を示すようになる。
10年間文書資料室に籠って犯罪資料を読み込み、その内容をほぼ把握しているという驚異的な記憶力を持つ。日本のアイテムも好き。

アストリッドが子供の頃から通っている行きつけの日本雑貨店「ICHIBA」。



ただ、この性癖と特殊能力には理由があって、彼女は実は自閉スペクトラム症(自閉症:ASD)なのであった。

そこがこの謎解きドラマの特殊なところであり、日本の犯罪推理ドラマによく出てくるわざとらしいちょっと変わった探偵キャラものと違って、設定がしっかりとしてて説得力がある。


まぁ「自閉症の人=尋常でない特殊能力の持ち主」という私のなんとなくな認識は、『CUBE』や『マーキュリー・ライジング』などの欧米の映像作品からの情報である。
『CUBE』では因数分解を瞬時で解いてしまう男が出てきたし、『マーキュリー~』では機密暗号を簡単に解読してしまい、国家から命を狙われる自閉症の子供が出てきた。

でもやはり自閉症を題材にした一般的に一番よく知られている作品といえば、トム・クルーズ、ダスティン・ホフマン共演の名作映画『レインマン』であろう。




ほとんどの人が普段生活していて自閉症の人と対峙するなんてことはほぼないかと思われるので、ダスティン・ホフマン演じるこの男の様子の映像を見て、こういうのが自閉症の人なんだと認識する人は少なくないかと。


この『アストリッドとラファエル』のドラマの中でも、自閉症と聞いて「あの『レインマン』の?」という反応を示す場面が出てくる。
『レインマン』は感動的な映画ではあるんだけど、やっぱその功罪もデカくて、いじめにあってた高校時代のアストリッドのあだ名は”レインウーマン”だし、犯罪資料局の同僚からも目の前で爪楊枝をばら撒かれ「何本かわかるだろ?」と、からかいのネタに使われていた。

アストリッドの場合、ダスティン・ホフマンほど酷くはなく(まぁ資料局で普通に働けてるからな、『レインマン』のはかなり重症なケースかと思われる)、人を避けながらも普通に会話の受け答えも出来る(ただ、AIのように無感情でばか丁寧)。


ラファエル警視は、アストリッドの並々ならぬ犯罪科学の知識と分析力の凄さに気づき、犯罪科学の専門家として事件が起こる度にアストリッドを現場に同行させる(だから元々の相棒で同僚の二コラはちょっとスネてて可哀そう)。
アストリッドの一般的とは違う神経質且つドストレートな言動にちょっとイライラしながらも、情の熱い彼女は持ち前の包容力で自閉症の彼女に辛抱強く向き合い(まぁ事件を解決したいってのもデカいだろうが)、絆を深めていく。
アストリッドもラファエルのガサツで「今から飲みに行こうよ」みたいな突発的な言動にストレスを感じながらも、他の一般の人とはどこか違う情の深さやさっぱりとした性格に触れ、徐々に心を開いていく。

このドラマは、人間関係や心理から犯行の動機を読み取るラファエルと、証拠物件や過去の犯行事例からパズルのピースを埋めていくように理論的に解析していくアストリッドとの対比、そしてこのデコボココンビがお互い影響し合い、徐々に距離を縮め関係を深めていく過程が丁寧に描かれていて、そこが非常におもしろい。

10話でアストリッドが行政に後見人を付けることを取り下げ、自分が自立した人間であることを宣言したとき、自閉症の人にとって他人に身体を触られることはタブーなのにも関わらず(『レインマン』のあのシーンは実に切なかった)、ラファエルが思わず彼女をハグしてしまうのだが、アストリッドは戸惑いの表情を見せながらも、抵抗せず、確かな心地よさを感じてるように見えるラストシーンは実に感動的であった。


アストリッドを演じている女優さんの演技もいい。
モデル出身っぽいスタイルのいいブロンドの女優さんだが、スラスラ機械のようにしゃべりながら、周囲の人間や音に気を取られ目をキョロキョロさせる神経質な仕草とか、神経衰弱したやつれた表情とか、目の見開き方も鬼気迫るものがある。
それを日本語吹き替え版では、女優の貫地谷しほりさんが担当されていて、早口で無表情なしゃべりの中でも、時折微妙な感情の起伏を出す感じとかがほんと絶妙。
アストリッドのキャラにフィットし過ぎてて、貫地谷さんがアフレコしてると感じさせないところが凄いね。


ところで、ラファエル警視であるが、この人たぶんメタル好き。
というのは、彼女には10歳くらいの息子がいて、元夫に親権を奪われてるから週末だけ一緒に過ごせるのだけれど、二人がメタルバンドの話題で盛り上がってるシーンがある。
息子が先週はメタルバンドのコンサートに行ったとラファエルに話してて、そこで彼女が返したセリフにドキっとしてしまった!

「E・Z・O?メタルだよ、あんたには早すぎない?」




私は「マジか!」と思わず身を乗り出してしまったが、よく聞いてみると、”ISIOW”(イジオウ)というバンドだった。
まぁんなわけねーわな。アストリッドも日本文化が好きだしひょっとしたらと思ったんだけど。よくよく考えたらE・Z・Oはとっくの昔に消滅してしまってるしね。

息子の話によると、ラファエルはアルバム全部持ってるらしい。
フランスのメタルバンドかな?今度Amazonで検索してみよう。



吹き替えのセリフも「ヘビメタ」ではなく、ちゃんと「メタル」と訳されていて好感が持てた。
ったく、いつまで昭和期のヘビメタという差別的な呼び方をするのかと、常日頃からひっかかっていたけど、ようやく日本も進歩したのかなと。


最後に、アストリッドがロック好きのラファエルの息子テオから教わったという、カート・コバーンのセリフを記しておこう。

「人と違う私を皆笑うが、私は人と同じ彼らを笑う」
コメント (2)
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