シネマ・コンプレックス型劇場で映画「マザーウォーター」を見る。すいか、かもめ食堂、めがね、プールでおなじみの役者陣、スタッフである。
市川実日子は今回は豆腐屋さん。白い頭巾と仕事着が凛々しい。豆腐を扱う手つきも手慣れて見える。
テレビドラマ「すいか」で横領罪で逃げ回っていた小泉今日子が陽射しの温かい喫茶店主で、ようやく居場所をみつけた感じだ。珈琲一杯400円。
小林聡美は一杯千円で山崎のウィスキーの水割りやロックを出すバーの店主で店には「適当に」花を植えた庭やテラスがあり、ここのテラスでよくカツサンドを作って食べている。
加瀬亮はその客で椅子職人で何気ない会話を小林聡美と楽しんでいる。店の仲間が失踪したのを喜ぶ自分に悩んでいる。
光石研は風呂屋さんで町中に愛されている赤ん坊ぽぷらの父親。
永山絢斗は風呂屋の手伝いをする、親の転居に付き合うか悩める若者。もたいまさこは町中をうろうろする沼の主みたいな存在。鴨川沿いの何気ない日常を描いている。
登場人物は皆標準語で京都人ではない、どこからか辿りついた人たち。登場する中高年が、その年齢なりに重ねてきた年輪を生かして自信たっぷりに生きている。
平穏な楽園の情景描写。
大人たちは、今はここにいるけど、別の場所に流れるように移っていくかも知れないと覚悟している。けれども町の空気感を皆が愛している。
見ているとこんな町の一員になれたらいいなと思わせる見えない絆で結ばれている。
光石研の赤ん坊ぽぷらちゃんを登場人物が代わる代わるあやして歩くのが、クラの交易みたいな一種のコミュニケーションになっている。ぽぷらちゃんが登場人物たちに次から次へと手渡されるように、幸せの循環が隠れテーマになっている。光溢れる瞬間瞬間がまぶしく描かれる美しい映画である。
何も起こらないけど登場人物の背景を想像させる奥行きのある作りになっている。
何気ないけどいとおしい日常の断片がスクリーン一杯に描き出される。
こういう映画が成り立つこと自体、貴重である。スタッフもその辺はよく心得ているように見える。
平穏な光溢れる情景で 流れ続ける幸の循環