超人日記・俳句

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<span itemprop="headline">ブレインウォッシュドの世界</span>

2010-11-17 11:58:41 | 無題

ジョージ・ハリスンの遺作ブレインウォッシュドは彼の最後の底力を振り絞ったアルバムだ。癌の闘病生活中の心境が吐露されていて衝撃的である。中でもルッキング・フォー・マイ・ライフ、スタック・インサイド・ア・クラウド、ラン・ソー・ファー辺りが深刻である。
ルッキング・フォー・マイ・ライフでは「神よ、今こそぼくの話を聞いてもらえませんか、愛する人、なんとかしてあなたのもとに帰りつかなければ、知りませんでした、人生がこんなに危険をはらんでいるなんて、いつも楽しいことしか見ていなくて、知りませんでした、暴発することがあるなんて、でもはじめてわかったんです、ひざまずいて自分の人生を探したときに」と歌われている。人生が危険をはらんでいて暴発するなんてこの年まで知らなかった、と告白するのである。
スタック・インサイド・ア・クラウドはさらにリアルだ。「こんなに眠れなかったことはない、こんなに煙草が増えたことも、集中力をなくし、どんどん駄目になってしまいそうだ、独り言を言い、大声で泣き叫んでも、聞いているのは自分だけ、ぼくは雲のなかで動けない、病気の展覧会ができそうだ…」と切実な苦しみを隠すことなく歌っている。
ラン・ソー・ファーも自分の苦境を歌っている。「きみにはわかっている、逃げ出すことなんかできない、自分から隠すことなんてできやしない、孤独な日々、ブルーなギター、逃げ道はないんだ、少しは逃げられても」と絶望に直面した心境を語る。
息子のダーニ・ハリスンとビートル・マニアのジェフ・リンのプロデュースで、ライジング・サンなどは、ビートル的な音作りがされているところもファンにはありがたい所だ。ダーニ・ハリソンはユー・チューブで見るとジョージ・ハリスンそっくりで頬がこけ、声も似ている。このアルバムでは他にパイシズ・フィッシュ(魚座)と表題作ブレインウォッシュドが素晴らしい。「軍隊に洗脳され、強圧的に洗脳され、メディアに洗脳され、きみはマスコミに洗脳されている、コンピュータに洗脳され、携帯電話に洗脳され、人工衛星に洗脳され、骨まで洗脳され、神よ、神よ、神よ、この混乱状態から導き出してください、このコンクリートの土地から、無知ほど始末の悪いものはありません、ぼくは敗北を受け入れません、この腐敗を止めることができたら、いっそ神がぼくらを洗脳してくださるといいのに」
神に洗脳されるのも困るが、現代社会の病理を洗脳という切り口で斬ったジョージ・ハリスンの遺言状はどこまでも痛い。人生には避けられない末路がある。出口のない闇もある。けれどそれをマイクを握って最後の力を振り絞って訴え切ったジョージ・ハリスンはある意味で幸せだ。突然命を絶たれることも、意志の自由が利かなくなることもあるのだから(訳詞は国内盤より一部改訳)。
静かなる魚座の遺言が60億の闇を照らして



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