本を読んだ
★ナ・バ・テア
著者:森 博嗣
出版社: 中央公論新社
前作のイメージを引きずりながら本を読み始める。
「スカイ・クロラ」はバージン作らしいぎこちない固さが物語のテーマ「生きること」と絶妙なバランスを保ち、「抽象的な崇高性」を表現していた。そういう意味ではすばらしい作品だと思う。想像も出来なかったキャラクターを登場させ、読んだこともないようなストーリィで、とても魅力的だった。
2作目にあたる「ナ・バ・テア」は主人公をそのまま登場させ、「生き続けること」へのさらなる問いかけをしている。作家は状況説明をすることに集中し、さらに物語性を強めた。そしてストレートにメッセージを伝えるようにした。が、あのすばらしい詩的な抽象性が薄れたようにも感じる。
草薙水素は「女」だったのだ。物語は意外な方向に進んだ。作者である森さんは初めから物語が出来ていたのだろうか。それが不思議。ありえない未来SFなのに、ひとつひとつの具体物は現実的、というより、むしろノスタルジーさえ感じる。その絶妙なアンバランスがいい。
本を読みながら、「あっ、これは騙されている」と感じるが、読み続けなければ辿り着けない何かがあるとも思わせる。興味が尽きない。そこでWikipediaで調べてみると、この連作は時系列が発行順とは違うらしい。やれやれ。手の込んだ仕掛けである。騙され上手に読んでいこう。