駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

吉村昭に巡り会う

2010年04月12日 | 
 吉村昭が亡くなってもうすぐ四年になる。彼の小説は殆ど読んだことがなく、ドキュメンタリータッチの少々暑苦しい作風という印象を持っていた。先日上京の折、新幹線の時間つぶしに「ひとり旅」という最後のエッセイ集を買った。これがとてもいい。飾らぬ、小説家とは思えぬ実直誠実な人柄が行間から伺われ、なるほどこうした人だから事実に迫ることが出来たのだと諒解した。
 良い人に巡り会った。これで繰り返し読める作者が一人増えた。疲れた時に読む川本三郎、津野海太郎、野田知佑、小野寺健・・・に吉村昭を加えることができそうだ。
 吉村さんは昭和一桁の東京生まれだ。最近読み始めた半藤一利さんも昭和一桁の東京生まれだ。偶然とは思えない。
 この組み合わせ、指を折れば数知れず、当たり前といえば当たり前かも知れないが、東京の奥深さと豊かさを感ずる。まあ、牽強付会かも知れないが、どこか垢抜けた洒脱な底流がある。嫌みがないというか、脳にざらつかないというか、其処が何度も読める所以かも知れない。 
 私のような田舎育ちはどうしてもどこかに妙な気負いというか意固地というか、そうした気風が抜けない。まあそれはそれで味わいもあるのだろうが、江戸前から脈打つ東京の洗練に流石と感じてしまう。
コメント (4)
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