医学部に入学するのは相変わらず難しいようだ。進学校ではお前は成績がいいから医学部へ行けなどと言うところもあるらしい。残念というか遺憾というか、臨床医に最高の学業成績は要らない。勿論、優秀な頭脳の持ち主であることは必要であるが、進学校で一番二番である必要はない、医学の研究には最高の成績が必要と思われる方がいるかもしれないが、それも違う。
確かに医学を身に付け一人前でいることは大変である。しかしそれは微妙に難しいというのは違う。勿論、易しくはないが医学そのものは最優秀の頭脳でなくとも十分理解可能だ。問題は量の多さなのだ。範囲も広い。しかも日進月歩している。医学書の置いてある大きな書店に行けば分かるが、医学書の多さは半端ではない。
その広範な領域を専門医と総合医に分化してなんとかカバーしているのが現実である。広範な疾患を診る前線の内科臨床医は何となく易しそうで軽んじられる傾向が未だ残っているが、実際は専門医と同じように総合医も詰め込まねばならない知識と経験の量は膨大だ。私のような老医でも毎日僅かな時間ではあるが勉強しなければ、進歩に追いついていけない。十年でえっと言うほど変わる分野も多い。
ちょっと脱線するが、成績が良いからと医学部を勧められて医者になったはいいが、3Kと言われる産婦人科や小児科を選ぶ医学生、地方へ赴任する若手医師が少ないのはどうしたことか。今は多少改善?したようだが、まだまだ偏在偏科が続いている。まさか火中の栗を拾わないように知恵が働いているのではないだろうなと危ぶむ。私が住んでいるのは東海道なのだが、それでも総合病院の院長が大都市から医師が赴任してくれないと嘆いている。色々問題はあったとは思うが、五十年前はたとえ地方でも院長から要請があれば、教授がお前どこそこへ行けと命じたものだ。人生至る所に青山ありは古来の教えだ。