胸を聴診しようとして上着をあげて貰うと赤いカーディガン?を着ている。おしゃれですねえと余計な一言を漏らすと「なーに娘のお下がりだよ」と爺さんは答えた。
一瞬、拙いことを言ったかと、遙か遠い昔、小学校でお姉さんのお下がりを着ていた友人をからかったことを思い出した。あの時は悪いことをした。できることなら時計を65年前に戻して謝りたい。
ところが、Uさんはあっけらかんと笑っている。なんというかぎょろ目で髪の薄くなったUさんにあつらえたように似合っている。だから赤いのがお好きで買われたと思ってしまったのだ。今までも居たかもしれないが、娘のお下がりだよと答えた患者さんは初めてだった。勿論まあ、娘といっても若いはずはなく、赤と言っても落ち着いた色だった。絵描きの目で見て、まじ似合っていた。