2017年に出版された久々の長編です。
最後に東日本大震災が出てくるので、2000年代の日本が舞台らしいのですが、例によってそのへんのリアリティには作者は無頓着なので、時代を類推させるような事象は、作者の都合のいいものしか登場しません。
ただ、そのころに三十代であった主人公にしては、音楽や文学や絵画などの趣味があまりにも古すぎて、明らかに作者個人の嗜好をそのまま書いているとしか思えません。
このあたりは、彼のファンにはたまらない点であろうし、きっと作中で使われた音楽、文学、絵画、食べ物、飲み物、車などを追体験して悦に入っているファンが多数いることが想像されます。
そう、この作品は、彼自身と彼のファンのために書かれた一種のエンターテインメントなのでしょう。
作者は団塊の世代なので、純粋な教養主義ではなく、哲学や文学よりも、音楽、絵画、映画などの影響が強いのですが、やはり一種の教養主義のしっぽをひきづっているといえます(私は彼よりは下の世代ですが、ここで取り上げられた音楽や絵画などの嗜好はかなり近いです)
この作品がエンターテインメントであると考えると、現実と非現実の取扱い、平明で読みやすい文章、様々な謎解き、世界の近代史との関わり、主人公や他の人物のかなりご都合主義的に描かれている様々な魅力的な女性とのセックスシーン(徹底的に男性視線で描かれていますのでフェミニストの読者からはかなり反発がありそうです)、強引なハッピーエンドなどを、読者は十分に堪能することができます。
作者の作品に関しては前から言われていたことですが、彼自身の年齢が上がるにつれて、ますますリアルな社会からはかい離していっています。
騎士団長殺し 単行本 第1部2部セット | |
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