現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

舞踏会の手帖

2024-03-27 09:17:50 | 映画

 1937年公開のフランス映画です。
 絶世の美貌を誇る大地主の未亡人が、夫が亡くなって身辺を整理している時に、20年前に16歳で社交界にデビューした時に、初めて出た舞踏会で彼女と踊った男性たちの名前を記した手帖が出てきます。
 新しい人生を踏み出すきっかけを得ようと、弁護士(?)に頼んで彼らの居場所を探し出し、イタリアの湖畔の城を出て、彼らを訪ねるために久しぶりに故郷フランスへ旅行に出ます。
 最初の男は、十数年前に彼女が結婚することを知って自殺していて、彼の母親はそのために精神を病んで今でも彼の死を受け入れていません。
 二番目の弁護士志望の男は、弁護士にはなったものの悪の道に走り、彼女が彼の経営するキャバレーを訪れた時に警察に逮捕されます。
 三番目の音楽家の男は、彼女のために書き心を込めて演奏(ピアノ)した曲が、彼女の心を少しも動かさなかったことに絶望して、音楽家をやめて聖職者の道を選んでいました。
 四番目の詩人志望の男は、都会暮らしを捨ててアルプスの山岳ガイドになっていて、彼女もかなり惹かれるのですが、彼は彼女と一夜をすごすよりも山を選んで雪崩事故の救助に向かいます(唯一、彼だけには彼女のほうが振られた形です)、
 五番目の政治家志望の男は、希望よりはスケールが小さいものの田舎の町長になっていて、彼女が訪ねていった日はちょうど彼の女中との結婚式でしたが、長く会っていなかった不良の養子が金の無心にきて大騒動になります。
 六番目の医者志望の男は、希望通りに医者になったものの、酒で身を持ち崩してアル中の堕胎医に落ちぶれていて、彼女と再開した後で、錯乱して内縁の女を殺害してしまいます。
 七番目の男は、陽気な理髪師で三人の子どもにも恵まれていて(ただし、やはり彼女に未練があったようで、末の女の子に彼女を忘れないために同じ名前を付けています)、彼女を誘ってダンスホールへ踊りに行きます。
 そこは、かつての舞踏会とは違って大衆的な場所でしたが、かつての彼女と同じように初めての舞踏会に目を輝かせている十六歳の美少女がいました(あるいは、彼女の分身かもしれません)。
 イタリアのお城に戻った後で、八人目の男が意外にも湖の対岸の屋敷に住んでいることがわかります。
 しかし、彼女が訪ねてみると、彼は一週間前に亡くなっていて、そこにはかつてのその男にそっくりな一人息子が行く場もなく途方に暮れていました。
 結果として、この男の子を養育することに、彼女は新しい人生の意味を見出そうとしますが、その子が非常な美少年なので、あるいはこの八番目の男が、彼女が本当に好きだった相手だったのかもしれません。
 人生の悲哀や残酷さなどを、美しい映像(白黒映画ですが)と音楽にのせて、当時の名匠ジュリアン・デュヴィヴィエ監督が流麗に描いたので、世界中で大ヒットして、日本でも1938年に公開されて翌年のキネマ旬報外国映画ベストテンの第一位に選ばれています。
 主役のクリスティーヌは当時の美人女優マリー・ベルが演じていて、十六歳の時にはきっとこの世のものとは思えないほどの美少女だったのだと、思わせてくれます。
 そして、こうした並外れた美貌の持ち主は、本人の自覚のないまま、周囲の男性たちに深い傷を負わせるのでしょう。
 私も、生涯一度だけこの世のものとも思えないほどの美少女と出会ったことがあるのですが、幸い旅先の札幌の地下鉄で十分ほど向かい合わせの席に座っていただけなので、心に傷を負わないですみました。


 

 

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