二十世紀最高の作家の一人と言われるジョイスの処女短編集。最終章「死者たち」はジョン・ヒューストン監督「ザ・デッド」の原作である。英国支配下で生きる気力を失い「麻痺的」な状況に陥ったアイルランド市民に向けて、警鐘を鳴らす目的で書かれているらしく、巻末には各編の地理的・宗教的な暗喩について詳しく説明した注釈が付いている。
だが、そういう「作品が書かれた背景」を抜きにしても、本書は実に面白い。誰もが持っている見栄や傲慢さ、的はずれの思い込みに筋違いの願望、欺瞞や自己憐憫etc. そんなマイナス方向の心理を平易なシチュエーションで手加減なく暴いてみせるジョイスの筆力には脱帽だ。
どの短編もヒリヒリした痛みに満ち、最後の「死者たち」に至っては、長年の精進により劣等感やつまらないプライドなどを克服したかに見えた主人公が、ひょんなことから自分は全然成長していないことを思い知らされて絶望するという容赦のなさ。
この“失意と無力感のオンパレード”もここまでくると、エンタテインメントの次元にまで昇華されていると言っても良く、拍手さえ送りたくなってしまう。さらにその裏に、ダブリンの惨めな小市民たちを憎みきれない作者の信条が垣間見えるのも玄妙である。ジョイスの代表作「ユリシーズ」は未読だが、機会があれば接してみたいものだ。
だが、そういう「作品が書かれた背景」を抜きにしても、本書は実に面白い。誰もが持っている見栄や傲慢さ、的はずれの思い込みに筋違いの願望、欺瞞や自己憐憫etc. そんなマイナス方向の心理を平易なシチュエーションで手加減なく暴いてみせるジョイスの筆力には脱帽だ。
どの短編もヒリヒリした痛みに満ち、最後の「死者たち」に至っては、長年の精進により劣等感やつまらないプライドなどを克服したかに見えた主人公が、ひょんなことから自分は全然成長していないことを思い知らされて絶望するという容赦のなさ。
この“失意と無力感のオンパレード”もここまでくると、エンタテインメントの次元にまで昇華されていると言っても良く、拍手さえ送りたくなってしまう。さらにその裏に、ダブリンの惨めな小市民たちを憎みきれない作者の信条が垣間見えるのも玄妙である。ジョイスの代表作「ユリシーズ」は未読だが、機会があれば接してみたいものだ。
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