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2024年作品。封切り時は観ようとも思っていなかったが、ヒットした映画だというのは間違いない。ネット配信のリストに入っているのを見つけ、テレビ画面ではあるが一応チェックしてみた。結果、とても驚かされた。こんな低級なシロモノがカネ取って映画館で上映され、興行的には成功。しかも、巷の評判は好意的だという。どうしようもない話だが、これこそが日本映画を取り巻く現状なのだろう。
明治末期、主人公の杉元佐一は、日露戦争での鬼神のごとき戦いぶりから“不死身の杉元”と言われた元大日本帝国陸軍一等卒だ。復員した彼は、一攫千金を狙い北海道の山奥で砂金採りに明け暮れていた。そんなある日、杉元はアイヌ民族から強奪された莫大な金塊の存在を知る。金塊を奪った犯人は、その在処を24人の囚人の身体に彫って彼らを脱獄させたという。杉元は偶然知合ったアイヌの少女アシリパと行動を共にするが、大日本帝国陸軍第七師団の鶴見篤四郎中尉と、戊辰戦争で戦死したはずの新選組副長の土方歳三も金塊を求めて暗躍する。
野田サトルによる原作漫画は読んでいないし、どういう話なのかも知らなかった。しかし、本作の視聴前に少し調べてみたら、かなりの長編であることが判明。どう考えても2時間程度の尺に収まるはずがないのだが、何とこれは“序章”に過ぎなかったのだ。いわば不完全なシロモノを、よく堂々と劇場公開したものである。
ならばこの“序章”だけでも見応えはあるのかというと、それはほぼ無い。冒頭の、日露戦争の白兵戦のシーンからして気勢が上がらない。有り得ない場面の連続で、呆気に取られるばかり。舞台が北海道に移ってからも弛緩した展開ばかりで、テンポは悪いしキャストの動かし方もぎこちない。時折思い出したように活劇場面が挿入されるが、これが本当にショボくて観ていて侘しい気分になってきた。
そもそも、主人公の杉元は戦争に行って何か変わったのだろうか。劇中で回想シーンになり従軍前の杉元の姿が出てくるのだが、戦後の彼と表情が一緒だ。まあ、演じているのが山崎賢人だから仕方がないとも言える。それにしても、本作での山崎のパフォーマンスは、いつもながら酷い。これは素人の芝居だ。どうして彼のような大根に次々と仕事のオファーが来るのか、本当に釈然としない。
久保茂昭の演出はまったく精彩が無く、山田杏奈に眞栄田郷敦、工藤阿須加、泉澤祐希、高畑充希、マキタスポーツ、玉木宏、舘ひろしなどの共演陣も気乗りしていない様子が窺われる。唯一の見どころは相馬大輔のカメラによる北海道の風景ぐらいか。いずれにしろ、話にならない出来だ。