元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ピアニスト」

2013-08-09 19:44:38 | 映画の感想(は行)
 (原題:La Pianiste )数多くの賞を取り、今やヨーロッパ映画界の寵児になった感があるミヒャエル・ハネケ監督が2001年に撮った注目作。この映画もその年のカンヌ国際映画祭で銀賞に輝いている。

 中年の女性ピアノ教師と年下の教え子との愛憎劇という通俗的なネタながら、この監督ならではの一筋縄ではいかない演出力が大いに発揮されている。

 この映画の主人公は、ジャン=ピエール・ジュネ監督の「アメリ」のヒロインが彼氏と出会わないままトシを取ったらこうなってしまうのだろうかと思わせる。ただし、この映画のヒロインが「アメリ」より百億倍は不幸だったのは、彼女がクラシック音楽という「芸術」に関与していたせいだろう。



 コンサート・ピアニストにはなれず、一介のピアノ教師に過ぎない彼女でも、教え子には厳しく接し、芸術に対するプライドも見解も持っている。恋愛などというある意味下世話なものに頼らなくても、自分には俗人には及びも付かない「芸術」がある・・・・なんてことが、自らの未熟さに対する絶好の口実になってしまうのだ。それでも、彼女の初体験の相手が同世代かもっと上の成熟した男性だったならこれほどの惨状にはならなかったかもしれない。

 ところが、何の間違いか年下のハンサム野郎が好意を抱いてしまった。しかも彼はピアノの弟子でもある。おかげで、彼女は「自分の言うことをきく若い教え子」と「恋愛相手」の区別がつかないまま彼とのアバンチュール(のようなもの)に突入してしまうのだ。

 描写自体はまるで容赦が無い。この女の惨めさが、これでもかとばかりに画面上で露わになる。このあたりは、ハネケ監督の底意地の悪くなるような演出力が大いに発揮されている。

 厳しい現実に打ちのめされた末にラストで開き直ったような行動に出る彼女だが、それで彼女を取り巻く状況が好転するわけでもない。しかし、「孤独みたいなもの」に自己満足している状態から「絶対的な孤独」を自覚せざるを得なくなるだけでも「成長」だと言えなくもないだろう。主演のイザベル・ユペールは好演。なお、相手役のブノワ・マジメルは私生活でも大変な“年上キラー”とのことだ(笑)。
コメント
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